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 とっくにお前の事…


すべてはあの日から始まった。


『…俺、銀八の事好きみてぇだ』

『……はい?』


いきなりの告白。
何の前触れもなく、放課後の教室に二人きりになった時に告白された。


告白なんてここ何年もされてなかったし、恋人がいるわけでもなかった。だから別にオッケーしてもよかったんだけどな……

普通の奴なら。


なのになんだ?
告ってきたのは生徒だし、しかもよりによって俺が受け持ってる奴って…。


まったく何を考えてんだかな最近の若者ってのは…。

当然のごとく断ったが、コイツがまたしつけぇのなんのって…。

「先生、そろそろ気持ち変わったんじゃねぇの?」

「バカかお前は。何度来ようが俺の気持ちは変わらねぇよ」


毎日毎日俺の所へやってきてはこの会話。
よく飽きもせずに来るな…いい加減諦めろっての。


土方十四郎。
今俺にとって一番の問題児。

しつこく俺に会いに来てはアタックしてくるし、二人きりになろうものならキスしようとする。

コイツ、顔は悪くねぇからモテるはず。なのにコイツが惚れてんのは俺。


本当に今の世の中ってのは分かんねぇもんだ。

俺なんかのどこがいいんだか。そこら辺の女の方がよっぽどマシだろ。





「で、あるからして…―」


授業中。


視線を感じる…アイツの視線を…

チラリと土方の方を見れば、やっぱり俺を見つめていて。

なんだか授業がしづれぇ。


ホームルームの時もこんな感じで放課後になれば、ついて来る。

こんな事が日常茶飯事になってきた頃の朝……。



「…そろそろアイツが来る時間だな」


今日はどうやってあしらおうか…

そんなことを考えながら廊下を歩く………が、土方には会わなかった。


「…風邪でも引いたのか…?」


不思議に思いながらも職員室に入り、そして職員朝礼が終わって朝のホームルームをするために教室へ向かう。


「ホームルームすんぞー」

ガラガラと扉を開けて中に入れば
教室には土方が。

遅刻でもしたのかとか考えながらホームルームをさっさと終わらせる。


「あ…1時間目はここで授業か」

ダリィな……
しかもまたアイツはこっちを見てくるんだろうな…


そう思いながら授業を始める。


「じゃあここを…ダメガネ、お前読め」

「ダメガネじゃありませんから!!
…はぁ…えーっと……」


適当に教科書を読ませて、ちらりと土方の方を見てみると、

「え…」

「…?
先生、どうかしましたか?」

「あ、いや…何でもねぇ…」


思わず声を出してしまった。
土方の奴…俺を見るどころか授業聞かずに寝てやがる。

「…おい、起きろ土方」


一応授業中だったから土方の目の前まで行って起こした。
決して寝ていた事が気にくわなかったわけじゃない。

「ん……あ…寝ちまってたのか俺…」


起きたかと思うと俺の目の前で堂々と大あくびしやがった。

…何なんだコイツは。


少し腹を立てながらも授業をして
時間よりも早く終わらせて教室を出る。


「何のつもりだアイツ…」

わりと真面目な土方が授業中に居眠り…しかも俺の授業で。

そーいや…今日の朝も俺の所に来なかった。


もしかして…俺を避けてんのか?

散々俺について回ったくせに?
銀八が俺の事好きになるまで諦めねぇとか言ってやがったくせに?


ふざけんなよ。

たった数週間で終わりか。
お前の気持ちってのはそんなもんなのかよっ。


「………って、何考えてんだ俺」


冷静になれ。
俺はこうなる事を望んでいた。
だから苛々する必要なんざねぇ。

これで………



いつもの平和な生活に戻るんだ。


「…………」

いつもの生活……


土方の顔を朝から見て、

土方の顔を見て終わる。

それが当たり前になっていた。


これからは、土方の顔を見る事は少なくなる。
それが、当たり前に戻るんだ。


「………静かになるな…」



なんでだろうか
少し寂しいような気がする…
いや、そんなはずはねぇ。

「ったく…何考えてんだ俺は…」


バカバカしい事考えんのは止めだ止め。

俺は土方の事なんざどうも思ってねぇし、近寄らなくなるのは喜ばしい事なんだ。


そう思い、その日からの数日間…俺の周りは静かになった。

そう……数日間だけ。








あきゅろす。
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