交錯タイトロープ 3-6 ほぐす様に手を開け締めする。次第に熱気が沸き立つかの様な高揚感が彼の中に生まれていた。 「…渋谷?」 村本がゴーグルの視線のまま渋谷に尋ねるが、茶髪の不良は振り返る事なく答えた。 「手ェ出すなよ、テメエ等。コイツはオレがタイマンでシメっからよ。ただ、逃げられねェ様に囲め」 その言葉が以外だったのか、津島と羽間は何か言おうとするが渋谷の視線に渋々校舎の壁に寄り掛かる。村本は黙ったまま、ヘッドフォンの音楽のボリュームを上げた。 「いつかみたいに全員で来ないのかよ?」 恭は特にそれに驚くそぶりもなく、水気を吸って濡れてきた前髪を掻き分ける。渋谷は手を開け閉めしながら、恭の静かな目を見て、脇に唾を吐いた。 「ああ、テメエがやっと本気でヤる気になったのが嬉しくてよ。こっちも邪魔されたかねェんだよ。まぁ、何があったか知らねェが、今のテメエはまるで“野良犬”みてェだ」 「野良犬……だと」 その一言に恭から怒気が沸き立つ。今まで平静を保っていたのが嘘みたいに彼から暴力的な闘志が発せられた事に、渋谷も更に高ぶっていく。 「ああ、ソイツだ──今にも噛み付きそうな、その感じだッ!!」 虚を突く様に渋谷の拳が作られ、放たれる。恭は彼の言葉に気を取られていたか、その牽制の一撃を頬に受けた。 「──グっ!?」 踏み止まった所へ更に一発二発のジャブ。初弾に身体が流れた恭は、体を返して一歩後ろに下がり、渋谷の攻撃を避ける。そこへ追撃の前蹴りが飛ぶが、体勢を整え、両腕で防御。濡れた靴の感覚と衝撃を受け止めた痺れが腕に残る。 [*←前][次→#] [戻る] |