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交錯タイトロープ
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名前からすると中国人の様だが、実は恭達が住む「一蕪木野市」は政府指定の経済開発特区として発展しており、外資系企業から派遣される外国人も増え、市内ではその姿は珍しくはない。
外国から来た新しい保険医の彫刻の様に調った表情にざわつく体育館内で、その人は静寂を引き連れているみたいだと理子は感じた。
周囲がどう騒ぎ、見て判断しても、揺るがない視線と姿勢。あたかも機械の様でもあり、人が思い描くロボットとはこういう物なのだと見本そのものが現れたみたいな、非現実感すら漂っている。
そして壇上の女性は視線は正面を向いたまま、マイクに向けて口を開いた。
「……皆さん、初めまして。今日、明日から浅川先生に替わり、保険医として赴任する事になりました『燕明』です」
その抑揚の無い日本語は、丁寧でいて透明な言葉遣いであり、更に彼女の印象を機械的にさせていく。
「何分、此の街に来て日は浅いので不手際があるかもしれませんが、皆さん是から宜しくお願いします」
余りにも綺麗な言葉遣いに、始めはざわついていた生徒達も次第に沈黙していき、小さな礼と共に短い挨拶は終わる。

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あきゅろす。
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