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交錯タイトロープ
10-7



渋谷が長い廊下を進んでいる頃、0時前に恭達を乗せた車がCCC廃工場に到着した。
辺りの幾つかの工場が夜間稼動している中、この工場敷地だけは暗闇に沈んでいる。夏の熱気を漂わせながらも、人気の無さがどこか寒々しい。そこに渋谷が赴いた時とは違い、明かりが点いている場所があった。
「これ見よがしに誘っていますね」
「それでも行くしかない。リコちゃんが心配だわ」
「理子…」
恭の表情は硬い。闘志が漲ってはいるが、焦りも見える。この非日常の闘いに巻き込むまいと誓ったのに、人質という最も最前列に立たせてしまった。今となっては悔やむしかないが、それでもまだ無事である以上、急いで助けなくてはならない。
「キョウ」
強張った表情の少年にサリアは努めて静かに話し掛ける。
「リコちゃんの事は分かるけれど、冷静さを欠いてはダメよ。貴方の力は貴方の精神に左右される。落ち着いて」
「ああ」
焦りに追い立てられているが、サリアの言う通り、助ける側の自分が返り討ちになっては決していけない。頷いた恭は一つ呼吸と共に自身の焦りを少しでも落ち着かせる。
恭が深呼吸をする横でデジタル式の腕時計を目にする蒼史郎。時刻が丁度0時になった所で声を掛けた。
「それじゃ、お前等、行くぞ!」
年長者である蒼史郎が先を進み、後を恭、サリア、キースと続く。
工場の奥へと向かい、しばらく進むと、明かりの照らす先には扉が二つ並んでいた。

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あきゅろす。
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