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交錯タイトロープ
10-6



息を潜め、工場内を進む渋谷。手探りで壁を伝うと何かが手に触れた。
「これは…」
用心しながら触れてみる。どうやら扉のドアノブの様だ。音を立てぬ様に開くと、その先は先程の工場の中より幾分か明るい。しかし明らかに違和感がある。
「何だ、これは…?」
そこには荒れた工場には似つかわしくない整然とした廊下が見える。今までは廃材や壊れた機材などが辺りに見えていたのに、この廊下だけが異様に綺麗過ぎる。そして明確におかしい点があった。
「先が見えねぇ、だと?」
工場の敷地を考えると明らかにこの廊下は長過ぎる。そして誰も足を踏み入れた痕跡がない辺り、異質であった。
渋谷は躊躇した。自身の勘が現実では起こり得ないものを目の当たりにして、危険だと言っている。このまま向かえばどうなるのか予想出来ない。それを理解して、彼は息を吐いた。
「……チッ、訳が分からねぇ、くそったれが」
悪態と共に足を踏み出す。一歩の感触から踏み出せると分かり、そのまま彼はもう一歩、更に一歩と、歩みを進めていく。
「アイツ等、帰ったら全部説明して貰うぞ」
そう呟き、彼は扉の先へと進んでいった。





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あきゅろす。
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