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交錯タイトロープ
9-10



「オラア!」
「ヤァッ!」
近衛道場に二人の掛け声が響く。荒々しいが持ち前のセンスで拳撃を放つ渋谷と、一つ一つの攻防を目まぐるしく判断して構築する恭。
元々お互いに衝突していた間柄だけあって、競争という方向性を与える事で二人は相乗効果的に上達していた。
その力の上達は精神にも促され、渋谷は以前では考えられない程に粗暴さが鳴りを潜めている。向上心から喧嘩をする暇を惜しんで、自身の稽古に熱が入っていた。そんな彼と対峙する恭も宗十郎以外の相手に手応えを感じ、負けじと成長している。
宗十郎も活気づく道場に珍しく笑みが零れる。きっかけが何であれ、結果的に若者二人の切磋琢磨する姿を見て、成長する喜びを感じていた。そして頃合いを見て母屋の方へと声を掛ける。
「おおい、済まない理子。休憩用のお茶を用意してくれぬか?」
「あ、ちょっと待ってー!」
道場から軒先の方を覗いてみると、洗濯物を取り込もうとしていた少女の姿が見えた。仕方ないので、台所に向かおうと立ち上がった時。
「おじいさん、私が用意しましょうか?」
ちょうど理子を呼ぶ声が聞こえたサリアが二階から降りてきた。
「いや、客人にそんな事をさせる訳には」
「いえ、私もこちらにずっと御厄介になってますから。それくらいお手伝いしますね」
宗十郎は何か言おうとしたが、彼女の親切心を無理に断るのも申し訳ないと口を噤んだ。

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あきゅろす。
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