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交錯タイトロープ
9-9



薄暗い空間に細やかな音が聞こえる。ゆっくりと波打つ胸が呼吸している。瞼が緩やかに開かれ、彼女は目を覚ました。
彼女は自分の靄がかった意識を確かめるように五感を解く。
穏やかな呼吸。暗がりの天井。微かに届く夏虫の音。仰向けに掛かる自身の重さ。そして、左手を包む温もり。
その温もりの先には、彼女を見守る内に眠りに落ちたのか、少年の寝顔があった。
「……キョウ……」
起こさぬように、潜める声。呼び掛けに少年は気付かない。
しかし、左手から伝わる熱は彼女にも感じられる。まだ年若い少年だというのに、武道で鍛えられたその手から逞しさもあった。
少し胸が揺れる。男へと成長している雄々しさもあり、未成熟な可能性もある、少年らしい二律背反。呼吸を留めるが、脈動は早くなっていた。
思えば、いつもこんな感じだった。どちらかが眠り、その姿をどちらかが眺める。何故だかそんな事ばかり。気持ちは向けているのに、恥ずかしがったり、まだ早かったり。ちぐはぐだけれど、その間柄が幸せだった。
こんな静かな時間にずっと委ねていたい。でも、時間は二人を待ってくれはしないだろう。だからこの優しい静寂を愛おしく思う。
もう一度、少年に囁く。聞こえぬよう、闇夜に消えそうな声で。
そうして彼女は彼の温もりを感じながら、再び瞼を閉じた。





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