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交錯タイトロープ
9-7
「な、んだ?」
とどめの一撃が突如止まった事に戸惑う恭。突き出された鉄棍が引かれた先ではクェルナの姿に異変が起きていた。
「これは…」
彼女の姿はいつぞやの様に、像が乱れていた。それはサリアがクェルナに変わった『魂の転換』と同じ現象。
「…ふむ、予想外だったが、あの結界から抜け出せたのか」
自身の崩れた掌を眺め、クェルナは眉根を寄せる。その表情は硬く、微かに哀傷に滲んでいるとはその場の誰も気付いてはいない。そして金色の魔女クェルナは恭に視線を向けた。
「いいか。修業したとはいえ、お前の、そして魔女サリアの技量はまだまだだ。もし、成す術無い窮地に立たされたなら、逃げろ」
「俺だけならまだしも、じっちゃん達を置いて逃げれるかよ。少なからず俺には出来ない選択肢だ」
決意を込めた視線を返す少年。だからこそこれから始まるであろう戦場は少年の正義を徹底的に試してくるだろう。
「分かっている。それでも、だ。お前が守りたいものを見誤るな。否応なしに容赦の無い択一の選択を迫られる時はくる。それを、忘れるな」
そう告げた彼女の眼は、以前魔女を殺せと語った時と同じ眼をしていた。その眼差しを受けている恭は明確な答えを出せない。
「…そんな顔をするな。それでもお前にはこれからの戦いへの力は与えた筈だ。それをどう使おうとお前の選択次第、そして魔女サリア次第でもある。お前達はこの戦いで決定的な何かを選ぶ筈だ。その分水嶺を見誤るなよ」
その言葉と共にクェルナの像はサリアの物へと戻っていった。そのまま眠ったままのいサリアが力無く倒れると気付いた恭は慌てて彼女を支える。
「おい、サリア!大丈夫か!?」
「……すぅ…」
静かな寝息を立てる彼女の横顔を確かめ、ほっと安堵する少年。駆け寄ったキースもその姿を確認して微笑む。
「眠っているようですね。このまま寝室まで連れていきましょう」
「ああ。それ終わったら済まないけれど、稽古に付き合ってくれないか?」
「分かりました。このまま待っていますね」
サリアを抱える少年の後ろ姿を見つめ、キースは彼の背に強い決意を感じていた。硬く真っすぐな一本の剣の様に、純粋で強い意思。彼の守りたいという気持ちの表れはキース自身にも覚えがある。
「…私も負けていられないな」
二刀の剣を再び抜剣し、騎士は鍛練を再開した。





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