[携帯モード] [URL送信]

交錯タイトロープ
8-1



彼女は、絶望の中、世界を見ていた。


圧迫と沈没と暴風を併せた悲哀と恐怖と絶望に、今にも千切れてしまいそうな微かな理性を精一杯握り締めて、信じられない現実に釘付けになっている。
夥しい数の人が、そしてかつて人であった形が、広がる地平を朱に染め上げていたのだ。
指先が所々に散乱し、逆に折れた足が地から生え、腑から桃色の腸が零れ、割れた胸から赤い血と黄色い胃液が混ざり合っている。
肘から先が無い無骨な男の手を握った女は安堵の表情で右半身が別れ、眼球を零して崩れ落ちている。
戦士達は剣や槍など、自身が奮う筈の武器に貫かれ、苦悶と無念のまま張り付けられている。
逃げようとした男の姿は、細かく縦に寸断されたのか、千切りの野菜の様に崩れ落ちている。
腹が膨れた女は裂かれ、内からまだ瞼も開かない胎児が繋がったまま、母親の血に溺れて息絶えていた。

人の形だった物。
人の肉。
肉塊。
それですらなくなった物。

全てが無惨に撒き散らし、赤が凄絶に視覚を汚す。

[次→#]

1/2ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!