交錯タイトロープ
5-1
記憶は、油絵の様に。
足跡は、詩歌の様に。
私を創っていく。
でも、これだけは、
塗り潰したくない。
忘れたくない。
遠い──遠い──風景。
─
──
───
──……ぁ。
少女は青空の中で目覚める。
その耳に聞こえるのは柔らかな旋律。
その唄と合わさって、緩やかに白い雲と共に流れていく気分だった。
カサッ…
頬を緑の葉が撫でる。
その度に青空に大きな緑が横切り、世界を青と白と光に照らされた淡い緑に染めていった。
──う、た──
何処までも広がり、自分の存在はまるで風の中にいるかの様に錯覚しながら、少女は柔らかな唄の中を漂っていた。
不意に手を伸ばしてみる。
あの、目映い太陽へと。
その伸ばした腕が僅かな影を落とし、彼女は風の中ではなく、草原の下で寝ていたのだと気付いた。
──……あれ?
瞬間、身体の重さを感じ取り、自分は風などではないと知る。
認識した情報は次の情報へと結ばれ、自分の輪郭を形成。構成した情報がただひとつの生き物と理解させる。
息をしている。
音が聞こえる。
雲が流れる。
わたしはここにいる。
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