彩りの残花
5
過去を振り返りながら、彼女の微笑みが歪む。
その両目に涙を溜めて、笑みを崩さないように堪えていた。
「もっと、いっぱい一緒にいたかった。本当に君と一緒にいたかった。
こんな時に、言うのはおかしいけれど、君が私を好きになってくれて本当に良かった」
ああ。遂に涙が零れた。
それでも、さっき手を繋げなかったように、彼女に触れる事が出来ない俺にはその涙を拭う仕草しか出来ない。
だとしても、貴女に寄り添わずにはいられなかった。
「…有り難う」
彼女の感謝の言葉を耳にしながら、現実は容赦しない。
最後だからといって彼女を抱き締めてたくても、奇跡が起こる事などない。何もする事を許さない。
この最後が来る事を覚悟していたが、それでも彼女の生きていた感触や温もり、重さを感じ、覚える事が出来ないのは辛かった。
貴女は涙を止める事が出来ないまま、再び笑みを作る。
涙をこぼしながら笑う貴女の姿は、悲しさと共に不思議と綺麗だった。
「君は生きて。
君の一生を生き尽くして。
そうして、また私に会えたら、君の人生を教えてね」
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