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ぼくと女の人
これの続き
※殺人描写注意




ぼくの仕事の「お相手」に、女の人が回ってくることは珍しい。もうずいぶん体も大きくなったし、力も付いてきたから弱い人と対峙する必要も無いだろうとママは言った。仕事を選ぶのはぼくじゃないから、何でもいいんだけどね。
さっきのは表向きの理由で、本当はぼくの性癖に理由があるとも聞いた。ママからじゃなく、たまたま同じ仕事をしたお兄さんに。性癖、偏った性質、もしくはくせ。……癖。仕事を遂行する前に、「お相手」にキスをすることだろうか。最近のおまわりさんは優秀だから、唾液からどこの誰がした事なのかを特定してしまうらしい。そうだね、それじゃあ意図的に止められたって仕方がない。最初のうちは男の人にもキスしていたけど、女の人より唇は薄いし、がさがさしていてぼくの唇が痛くなってしまう。それをママには話しているから、男の人との仕事ばかりを回されるんだろうな。

「お前さんも物好きだな。どうせ死ぬヤツとキスするなんてよ」
「……うん」

ぼくが可笑しいだろう事は、初めてキスした時から知っている。白いスカートを穿いたお姉さんとのキスが、一番最初。次の仕事から、死出の餞って訳じゃあないけど口付けをするのが当たり前になっていった。なんでだろうね。忘れられないくらい、お姉さんの唇が柔らかかったからだろうか。


ぼくはまた一人、夜の中を走っていた。何ヵ月か振りの女の人。どこぞの令嬢ってわけでもなく、ごく普通の女の子らしい。詳しい事情は知らないけど。何か取り返しのつかないことでもしちゃったんだろうか。ちょっとくらい可愛い子が良いなあ、前にキスした子は正直可愛くなかった。唇は柔らかかったけど。やっぱり綺麗な人とキスしたいんだもの。
やがて扉の前へ辿り着いた。一人暮らししてるらしいから、家族に気付かれる可能性は無い。手袋をしっかりはめて、インターホンを押した。

「はーい?」

馬鹿な人だ。確かめもしないで扉を開けるなって習わなかったのかな?
これ幸いと、細く開かれた扉の隙間に体を捩じ込んだ。後ろ手でしっかり扉を閉める。ついでに手探りで鍵も。女の人は、状況を読めないのか呆然とぼくを見ている。髪は短いけれど、きれいな印象の人だ。

「初めまして。ごめんね、いきなり押し入ったりなんかして」

にっこり笑って見せる。顔だけなら天使みたいだとママに皮肉られた日から、「お相手」を油断させる手のひとつになっている。案の定女の人の頬が上気した。そんなに簡単に見惚れちゃだめだよ。彼氏さんに浮気だって思われても知らないよ?

「……あの、私に何か用ですか?」
「うん。とっても大事なね」
「でもあの、私、あなたを知らないんだけど……」

そりゃそうだよ。だって知られないような人間だもん。口端を釣り上げて、女の人を壁に追いやる。前兆も何も見せてあげなかったから簡単に壁に張り付いてくれた。化粧を落としてないのかな、不自然に長い睫毛が上がったり下がったりを繰り返している。でも、なんだかわざとらしい。これでたくさん男の人を落としたのかな、なんて思った。

「ぼくが何をしに来たか、当てられる?」
「え……?」
「ふふ、分からないよね。でもあなた、色々恨み買ってるでしょ」

ヤマを張ってみただけだ。でもどうやら当たっていたみたいで、女の人が目を見開いた。まんまるなんかじゃない。醜く見える驚き方。目尻も目頭もヒビが入りそうだ。ああ、せっかくきれいだったのに。中身は汚いんだね。

「残念だ」
「ん……!?」

もはや流れ作業のようになったこの行為。塞いだ唇はべたべたしていた。不快さに顔をしかめる。逃げないように後頭部を押さえて、懐からナイフを取り出した。

「ん゛んん!」

何言ってるか分からないよ。歯茎を舌でなぞる。素直に開けてくれた歯の間に、素早くナイフを差し込んだ。

「喋らないでね。口の中、切れちゃうよ」

恐怖に染まった顔は、幾分きれいに見えた。純粋な感情。こわい。どうして。しにたくない。いきたい。だけど酷く滑稽だ。込み上げてきた笑いをどうにか噛み殺す。さあ、仕上げだ、覚悟はいい?

「さよなら」

今日の人は即死だった。割れた喉や口からだらだらと血液が流れ出す。白い服が赤色に染まっていく。どんなに汚い人だって、血の色だけはきれいだと思う。
あの日の夜のお姉さんの血は、もっともっと綺麗だったんだろうなあ。ねえママ、ぼくは今でも明るい光の下で、お姉さんの死にゆく姿を見られなかったのが残念でならないんだ。











ごめんなさい、私こういうの大好きなんです
うまく書けやしないけれど

2011/1/12



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