物語 第3話 回復と疑惑 天空世界編 第3話 回復と疑惑 場所は変わり、此処は地下1階にある大きい屋敷のような場所…その中に入ると、若干かび臭いにおいが漂っていた。 薄暗く、何も見えないその屋敷内に、ネリアは電気をつけて明かりを灯す。 ガザフ 「此処は…?」 ネリア 「此処は私の住かとする屋敷だ…休憩場所は沢山ある。使ってくれ…若干埃くさいと思うがな…すまぬ」 フィーネ 「仕方ないわよ…しばらく使っていないんだもの」 メル 「んじゃパパ!寝室だけ簡単に掃除しちゃおうよ♪」 ガザフ 「そうだな…フィーネ、君にも手伝ってもらおうか」 フィーネ 「分かったわよ〜♪」 ガザフ・メル・フィーネはネリアに教えてもらった10人分ものベッドが用意してある大きい部屋に入っては掃除を始めた。 フレイ 「ふぁ…なんか腹減っちまった…なんか飯でもあんのかよ?」 ネリア 「確かこの屋敷の地下に大きな冷蔵庫があるはずだが…冷凍してあるから食べれると思うぞ…試しに行ってみるか?」 フレイ 「ネリアは良いよ…此処で休んでな!りん…手伝ってくれねェか?」 りん 「へ…?あ、は、はい!わかりました!!」 フレイ 「…?りん大丈夫か…ボーっとしてるけど…疲れてンなら無理すんなよ?」 りん 「気にしないでください!あまりに大きな屋敷で驚いていただけです…!;」 フレイ 「そうか…んじゃ行こうぜ」 フレイの言葉を合図に、フレイとりんは地下へと続く階段へと向かって食材を探しに行った。 そして残されたイルフォンス・アルヴォンド・ウォード・ネリアはその場に立ち尽くしていた。 周囲には気まずい雰囲気が漂う。 アルヴォンド 「あ!せや…俺この屋敷がどんなもんか…今から冒険しようかな〜…♪」 イルフォンス 「君一人で何するか分からないから…ついていくよ」 アルヴォンド 「来んでもぇえって!!うっとぉし!!!;」 そう言いながらも二人は屋敷内を回り歩きに行く。 残ったのはウォードとネリア。 ウォード (もしかして…皆は私を気遣ってくれたのか…。…後で礼を言わねば) そして再び嫌な空気が流れた。 その空気を、ウォードは自ら切った。 ウォード 「ネリア様!あの…その…」 ネリア 「…知っているぞ…お前は私を恨んでるって…」 ウォード 「……フレイから聞いてましたか。はい……あのネリア様の告白以来、何故…ローリアンスと同じように…ネリア様を恨んでいるのか…わかりませんでした…ッ」 ネリア 「……そうか」 ウォードの切ない顔を見ながら、ネリアはそう呟く。 ウォード 「でも…私はあれから考えて…分かったんです」 ネリア 「なんだ?」 ウォード 「後悔や悲しみを…自分を恨まずに、ネリア様を恨む事で…己を保っているんじゃないか…と…ッ。そう思うと…自分が情けなくて最低で、とてもネリア様の守護騎士になる資格などないと…」 ネリア 「ウォード…」 ウォード 「ネリア様がグリュエル騎士団に連れて行かれた時…私はあの後…自殺しようとしました。中途半端な気持ちが…自分が嫌で、ネリア様にも自分にも向き合わず死のうとして…。……でも…フレイが…私がネリア様と向き合う事を教えてくれました…だから…私は…―」 ネリア 「ウォード……初めて私に反抗してくれたな…」 ウォード 「ぇ…?!」 急に優しい声でそう言う主の顔を、ウォードは驚いた表情を見せながら見つめた。 ネリア 「これまでのお主は…私に怒りもせず反抗もせず…ずっと私の言うとおりに生きてきていた…それが、あの告白の後…私の事に初めて反抗したのぅ…」 ウォード 「……ッ」 ネリア 「それが…おまえが初めて私に怒りを示してくれた事を…私は悲しいと思うが、嬉しくもあるのだ」 ウォード 「うれ…しい?」 ネリア 「そうだ…私はな…ウォード。今まで私に付いていた守護騎士は…私の言うとおりに動いて反論もせず…それが私が正しいのか間違っているのかどうかも教えてくれないまま…命が尽きるその日まで皆付いていてくれた。だから…私はなにも知らぬまま生きてきた」 ウォード 「そう…なんですか」 ネリア 「でもな…フレイと出会って、初めて反論してくれる相手がいて…私は嬉しかったのだ。自分の思っていることが間違っているのか…正解なのかを…あいつは真正面に向き合って教えてくれた。言葉は汚くて不器用だが…な」 ウォード 「ネリア様…」 ネリア 「そして…ウォード、お前で初めて…私の言う事や思う事、行動に反論してくれたな。私は嬉しいぞ…。たとえそれが…私を恨む事であっても…な。いいんだ…それで…それがヒトなのだからな…」 ウォード 「でも…私は…守護騎士として…―ッ?!」 その言葉を聞いたネリアは、ウォードを優しく抱きしめた。 急な行動にウォードは目を見開いて驚く。 ウォード 「ね…ネリア様…ッ!?」 ネリア 「もう…私の守護騎士などしなくて良いのだぞ…ウォード」 ウォード 「!!」 ネリア 「これからは…守護騎士としてでなく…家族として…一人の男として生きてくれ。私は…お前の息子のような存在だからのぅ…。もう…私の為に我慢しなくて良いのだ…自由に生きてくれ…ウォード…ッ」 ウォード 「……はい…ネリア様…ッ、ネリア様を恨んでしまい…申し訳ございません…ッ。そして…ありがとうございますッ…!」 ネリア 「……馬鹿者…生きててくれて良かった…もう、自分から死ぬような真似…一生するでないぞッ…!」 ウォード 「はい…。私はネリア様の守護騎士としてではなく…これからは仲間の…世界を護る守護騎士として生きていきます…命尽きるその日まで…」 ネリア 「ウォード…!…フッ、お前らしいのぅ」 その二人の姿を…地下の冷凍庫室に続く階段の裏から、フレイは見つめていた。 りん 「気になるんですか…フレイさん」 フレイ 「当たりめェだろ…ウォードとネリア、ずっと気まずかったからよ…。まぁ、これで仲良くなってホッとしたぜ…さぁ、行くか…りん」 りん 「…はい」 フレイ 「…どうしたんだ…りん?」 りん 「最近…アルヴォンドさんの様子…おかしくありませんか?」 フレイ 「なんでだよ…?オレは特に変わってないと思うんだけど…」 そのフレイの反応を聞いて、少し切ない表情を見せたと思うと、すぐに明るい表情を見せて りん 「はい…そうですよ…ね、気のせいですよね!じゃぁ…行きましょうフレイさん!」 フレイ 「ぉ…ぉう…?」 そう話すりんの姿は、どこか無理に笑顔を作っているようにしか見えなくて…違和感を感じたフレイは一瞬疑問を抱くが、気のせいだろうと、りんの言葉撮りに地下へと続く階段を下りては食材を探しに行った。 場所は変わり、皆とはかなり離れた場所にある部屋にいた。 そこはどうやら食事をする場所のようでかなり広い。 その部屋の中には、アルヴォンドとイルフォンスの双子がいる。 彼らは此処の部屋にくるまで、たくさんの部屋を周り見て、此処の部屋にたどり着いたようだ。 アルヴォンド 「へぇ〜…ホンマにこの屋敷広いんやな…―お!これは古代粘土でつくった壷やないか!うっひょ〜…感動やで!」 イルフォンス 「なぁ…アル、こんなところに呼び出して何のつもりだい?」 古代粘土を使った高価なツボを手で持って感動してるアルヴォンドの右横にいたイルフォンスは、いつもより低い声でそう言う。 そしてアルヴォンドはイルフォンスの声に気付いてそのツボを元ある場所に戻した後、イルフォンスの方へと顔を向いてこう話しだした。 アルヴォンド 「何言うとんの自分?俺はウォードを気遣ってはなれたんや…ただそれだけやで?」 イルフォンス 「……そうか…」 アルヴォンド 「?なんやイル…変やの…」 そう疑問を抱き呟いたアルはその後、後ろを振り向いては近くに飾ってあった絵画を見ては感動の声をあげる。 そんな弟の姿をイルフォンスじっと見つめていた。 そしてそれから20分後…ガザフとメルとフィーネは寝室と食事部屋と調理室の掃除を簡単に終わらせた。 フレイとりんは地下の冷凍保存室を見てみたところ、まだかなりの量の食材が眠っていた。 ガザフに確認を取らせたところ、腐っておらず大丈夫との了承を得て、食材を持ち運ぶ。 ガザフとメルとフィーネとウォードの4人は調理担当。 フレイとりんとネリアとイルフォンスは食事の準備。 そして暇を持て余していたアルヴォンドは、調理場にいるガザフ達が火や水が出ない事を困っているのを耳に入ると、精霊の助けを借りて援助を行っていた。 そしてしばらくご飯を食べていなかった皆は沢山食事をしてはお腹を満たしていった。 フレイ (そういえば…皆全員揃って食事したのってこれで初めてだよな…?) ネリア 「良かったな…フレイ、こうやって皆がそろって」 フレイ 「ぁあ…も…離れ離れになるもんか。誰も失わせねェよ…絶対」 ネリア 「共に護ろう…世界を、家族を、仲間を…な」 ガザフ 「さて…明日に備えてもう寝るぞ!」 メル 「うわ〜い!ふわふわのベッドだ〜!キャハハ♪パパー!一緒に寝よう♪」 アルヴォンド 「わーい!りんちゃん〜一緒に寝よ―…グフォッ!!」 最後まで言い終わる前に、りんの投げた枕がアルヴォンドの顔に命中した。 りん 「何言ってるんですかアルヴォンドさんッ!!ふざけないでくださいッ!!!///;」 アルヴォンド 「痛〜…ッ、じょ…冗談に決まっとるやないかい…ッ;」 フレイ 「電気消すぞー!」 その言葉を合図に、電気が消えて真っ暗になり、皆は床についていった。 時間が経ち、深夜2時ごろ。 物音が聞こえ、その音にりんは目を覚めた。 りん (んぅ…アルヴォンド…さんッ…?) 物音を立てないようにと寝室を出たアルヴォンドを見て、 りんは不思議に思い、こっそりと寝室を抜け出していく。 そしてりんはアルヴォンドに気付かれないようにと必死に身を隠しては、アルヴォンドの行動を見つめていた。 アルヴォンドは辺りを見回し屋敷を出て行く。 りんも続いて、屋敷を出て行った。 りん 「あれ…アルヴォンドさんの姿が…!見失ってしまいましたね…」 屋敷を出たりんは、アルヴォンドの姿を見失った。 りん (もしかして…あの図書館に…?) りん 「…行ってみましょう…か」 りんはアルヴォンドがいると思われる図書館へとやってきた。 そして前回、地上世界へと降りる為の情報を得るために調べていた「歴史」の項目のある本棚の所へとゆっくり近づいて行く。 りん (……アルヴォンドさん?) りんはアルヴォンドに見えないように、彼がいる歴史の項目の本棚から斜め2つ手前の本棚から見つめていた。 そして、りんは念じては生心力(ヴィオゼーラ)の状態を調べる。 りん (やっぱり…アルヴォンドさんの生心力(ヴィオゼーラ)が大きく揺れてる…ッ。しかも昨日よりも少し小さくなってるような…?アルヴォンドさん…こんな深夜に一体何を調べてるんですか?) そうぼんやりと考えながら、りんは本棚に寄り掛かった所、中途半端に閉まっていなかった本が体に当たり、その衝撃で本棚から本が床に落ちてしまった。 本が落ちた音が静かな図書館に切なく響く。 アルヴォンド 「?!だ、誰や!!!?」 りん (ど…どうしましょう…ッ!このままだとアルヴォンドさんに見つかる…早く逃げないとッ…!!;) どんどん自分に近づいて来るアルヴォンドの足音を聞きながらも、逃げようとしても固まって動かなくなった自分の身体をりんは恨んだ。 もう見つかる…そう思った時、もう一つの足音が、りんの耳に入った。 りん (ぇ…この足音…は?) アルヴォンド 「な…イル…?!どうしてこないな時間にッ…!!」 りん (え!?イルフォンスさん?!!;) イルフォンス 「それは僕のセリフだよアル…こんな時間に何を読んでいるんだい?しかも精霊たちを連れて行かないで…無防備にも程があるじゃないか」 アルヴォンド 「大丈夫や♪こないな時間に…しかも建物の中なんかに魔物なんかおらへんって!剣があれば充分やからな〜♪」 イルフォンス 「……ッ、屋敷の事といい…君の行動はよく分からないよ」 アルヴォンド 「何言うとんの?あの時も言うたやないか!ウォードの気ィ遣ぉただけやって―…ッ?!;」 ―…ダンッ!!!! イルフォンスは壁に思い切りアルヴォンドを押し付ける。 そのあまりに急な行動にアルヴォンドは理解できず、体を思い切り壁にぶつけられて痛みに顔を歪みながらもイルフォンスへと視線を向けると、目を見開いては彼の顔を見つめていた。 アルヴォンド 「……なんや急に…?!イル…顔、怖いで…ッ?」 イルフォンス 「どうしてアルは…一人でそうやって抱え込むんだ…ッ」 アルヴォンド 「…俺は何も考えても抱え込んでもあらへん…ッ」 そう言ってはアルヴォンドは顔を俯いてはイルフォンスから顔をそらす。 その彼を見たイルフォンスは、彼の胸倉を思い切り掴んでみりやり自分に顔を向けるようにする。 アルヴォンドはそんな彼の行動に驚き、思わず前を向いた。 イルフォンス 「僕はそんなに信用がないのかッ!!?家族だろ…どうして僕を頼らないんだ!!辛いなら辛いって言えよ…!!」 アルヴォンド 「…な…ッ?!……大体…自分も人の事言えんやろがッ!!俺に相談せんで勝手に一人で行動しよって…ッ。ホンマに腹立つで自分ッ…俺が…記憶を取り戻すあの日まで…どんな思いで過ごしてきたとッ…」 イルフォンス 「アル…」 アルヴォンドの心の叫びを聞いたイルフォンスは、表情を変えることなく、ずっと弟の顔を見つめていた。 アルヴォンド 「な…なんや…文句でもあるんか…―」 イルフォンス 「……確かに…僕がアルの記憶を消さなかったら…君は悲しまなかったのかなって、記憶を消したあの日から…僕は考えてたよ」 アルヴォンド 「…ッ!」 イルフォンス 「今でも分からないさ…君の記憶を消さなくても良かったんじゃないかって。でも消さなかったら、きっと君は怒って…僕の後を追うだろうから。……死なせたくなかったんだ…ッ!大事な…たった一人の家族だからね…」 アルヴォンド 「……さよか」 イルフォンス 「だから…アル、自分から死ぬような真似は…やめてくれよ」 アルヴォンド 「…ッ」 イルフォンス 「君はいつも…昔っから後先考えずに行動して、怪我をするからね。命は大事にしないと…ねぇ…りん?」 りん (…ッ?!) アルヴォンド 「な…りんちゃん…此処におるんか?!」 イルフォンス 「さっきからずっと僕たちの斜め右…出口に近い所で隠れているんだ…出ておいで」 その言葉を合図に、りんは重い足を動かしては二人がいる場所へと向かった。 そしてアルの瞳にりんの悲しい表情が映し出される。 りん 「…ごめんなさい…私、気になって…ッ」 アルヴォンド 「りんちゃん…ッ」 りん 「アルヴォンドさん…大丈夫ですか…?もしなにか辛い事があればお聞きしますよ?」 アルヴォンド 「…な…そんなのッ」 そう悲しい表情で訴えかけるりんを見て、アルヴォンドは顔をりんから背いては震えた声で言った。 アルヴォンド 「そんな考えすぎやでー自分ら!俺はただ…皆を護ろう思って闘ってるだけやで?そんな死にたがりみたいな言い方されてもな〜♪」 イルフォンス 「実際にそうだろ…自分の命は大事にしないと―」 アルヴォンド 「大丈夫やって!イルと俺には精霊がついとる…安全やないか♪」 イルフォンス 「そういう問題じゃ―」 アルヴォンド 「ふぁあ〜…疲れて眠とぉなってきよった…寝室に戻って寝よ〜っと♪」 そう明るい声で言ってアルヴォンドはイルフォンスとりんの横を通り過ぎて寝室へと向かおうと歩いていく。 明らかにワザと明るくしているようなその声に、二人は焦りを感じた。 りん 「アルヴォンドさん…」 イルフォンス 「アル…一体君は、何を隠しているんだい…ッ」 そう考え込んで呟く二人の声を、遠ざかっていくアルヴォンドの耳にはいる。 そして俯いては悲しい表情を浮かべて、こう小さく…二人に聞こえないようにつぶやく。 アルヴォンド 「安心しぃや…絶対死なせへんで。自分らは…な」 そう言ってアルは図書館を一人出て行く。 足音を…切なく響かせて…。 場所は変わり、此処は澄んだ美しい川が流れいて、蛍が舞い、幻想的な風景を漂わせる…とある山の中。 その川のほとりにいるのは、皆と散り散りになってしまった、元グリュエル騎士団のキース。 キース 「もぉおおお!なんなのよここ!蛍もいて綺麗でいいけどさ…おかげで良い明かりよ…ったく」 そう苛々しつつも、幻想的な風景に見惚れて、大きな木の幹に凭れて座って眺めていた。 キース 「お腹空いたぁ…此処、魔物もいないのね…食事もできないわよ。それにしても…ベル様どこにいるのかしら?ぁあ…ベル様…お腹空かせて倒れてないかな…ぁあああんもうベル様ぁあああ!!愛してますぅうう!!///」 そう発言しては自分の身体を抱きしめて体をクネクネしている。 キース 「ふぁ…疲れたわ…寝ようかな…っと」 キースは木の幹に凭れかかったまま、すぐ眠りについた。 そしてそのキースのもとに、怪しい影がいくつか近づく。 その陰に気付かず爆睡するキース。 ??? 「これは…もしかして…地上人では…ッ!?;」 ??? 「なぜこの地に…?!チッ…どっちにしろ…忌々しい事には変わりはない…俺たち天空人の恨みを…思い知るが良い!!!」 ??? 「ぁあ!!」 天空人と思わしき何人もの声が、静かで綺麗なこの川のほとりに…悲しく響き渡っていった。 キース 「ぅ…ん…ベル…様ぁ…」 NEXT… [*前へ][次へ#] |