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物語
第12話 そして闇は動き出す



  天空世界編第12話
     そして闇は動き出す




  小さな宿で一日を過ごしたフレイ達一行。
  重傷を負っていたフレイは、皆の援助があったおかげで一日で完治する事が出来た。
  瞼を開けると、仲間たちが自分を心配そうに顔を覗かせているのが、目で確認とれた。するとフレイは、気不味そうに頭の後ろに手を当てると、誤魔化すように微笑んだ。


フレイ
「スマネェな…皆…ハ…はは…ッ」



メル
「うわぁああ!フレイお兄ちゃん生きてて良かったよぉおお!!!」
フレイ
「うわぁあ!泣くんじゃねぇよメル!!;」
ネリア
「泣いて当然だ馬鹿者!お主はどうしてこうも死にたがりなのだ!!」
フレイ
「…?!オレは死にたがりなんかじゃ…ッ」
イルフォンス
「命は一つしかないんだ。いくら傷の治りが他のヒトと比べて早いとはいえ、致命傷をくらったら……ここまで言えば分かるよね、フレイ?」
フレイ
「……でも!」


  反論しようとフレイは俯いていた顔をあげたが、皆が自分を心配そうに見つめる表情を見て、言葉をつづけるのをやめた。
  そして再び顔を俯くと、


フレイ
「……ごめん」


  …と、脱力しきって語尾が消えていくように、でも納得いかない様子で呟いた。
  そんな彼の様子を見てキィリルは真剣な表情を見せ、近くへと寄ってくる。


キィリル
「フレイの言いたい事は分かったよ。君の周りには治癒心術を使えたり手術してくれる心強い仲間がいる。だから…皆が自分を治してくれるから大丈夫だって思ってる……違うかな?」
フレイ
「……ッ」
キィリル
「でもね…治癒心術とはいえ、あくまでそれは応急処置にすぎない。仮に治癒心術で応急処置をして手術に頼った所で、傷が酷くて致命傷だったらそれも役に立たない。つまり…死を意味することになるんだ。……りん、君なら分かるよね?医者としての君なら…」
りん
「………ッ、…はい」
アルヴォンド
「何が言いたいんや自分!」


  キィリルの言い方に腹が立ったアルヴォンドは、彼の胸倉を掴んできつく睨みつける。
  だがキィリルは表情一つ変えず、アルヴォンドの顔を黙って見つめていた。


アルヴォンド
「フレイはただ、俺らを必死に守ろうとしてるだけなんや!それを自分は」
キィリル
「フレイと君は似ているね。自分の命を顧みず人を守ろうとするその気持ち、称賛に値するよ。でも……そうすることで自分が死んでしまったら、周りがどんな想いをするか。君はそれを考えたことがあるのかい?」
アルヴォンド
「な……そ、それは……ッ」
キィリル
「ほら…それがさっき僕が言った事に繋がるんだ。甘えは幸福を呼ぶけど…不幸も呼び寄せてしまう。結局……自分の命を守れるのは自分だけなんだ。他の者に命を守ってもらえる、その甘えこそが死を呼ぶと……僕は、そう思っている」
アルヴォンド
「く……ッ!」


  アルヴォンドは悔しそうに顔を歪ませると、キィリルの胸倉を掴んでいる手を乱暴に解く。
  そしてすぐに彼はキィリルに向けて背中を見せると、悔しそうに手をきつく握りしめて顔を俯いて肩を震わせていた。


メル
「アルお兄ちゃん…」
フレイ
「アリガトな…アル、キィリル…皆」
ウォード
「フレイ…」
フレイ
「オレ…皆が死んじまうかもしンねェって思ったら…つい勝手に身体が動いちまってよ。…でもそれで皆を守ることが出来て、その代償に酷い傷を負ったとしても…皆が治してくれるから大丈夫だって甘えてた」


  フレイは俯き、苦笑いを浮かべながら言った。
  そして何かを決意したかのように、顔を上げて皆を見つめ、言葉を続ける。


フレイ
「でも…だからと言って、俺は直そうなんて思わねェ」


  皆は目を見開いて驚いた。仲間を真剣な眼差しでフレイは見つめる。


フレイ
「少し前のオレは…皆に助けられて、支えられてきた。今までのオレは、生心力(ヴィオゼーラ)も力も弱かった。でも今は違う!オレは皆のおかげで此処まで生心力(ヴィオゼーラ)を、力を鍛えられたんだ。…オレは皆の想いに応える為に…この気持ちを直すつもりはない。…それが、オレの“やり方”だからよ」


  フレイの発言から少々沈黙が訪れる。
  その空気を断ち切ったのは、彼の父親代わりであるガザフであった。


ガザフ
「ハッ!ったく…自分を曲げねぇその頑固さ、流石ミューレント家ってわけ…か。まぁ、俺はお前の性格を知ってるから、端から何も言わなかったんだけどよ」
フレイ
「親父…!」
ネリア
「全く…少しは注意してほしいが…まぁ言ったところですぐ変わるようなお主じゃないからのぅ」
フレイ
「あはは…;」
りん
「…どんな怪我でも任せてくださいフレイさん!…でも、無理はしないでくださいね?」


  フレイの周囲に仲間たちが集まっていく。
  その光景を、皆の後ろから目を見開いて見つめるキィリル。


キィリル
(フッ…君は僕と全くの正反対の性格だね。僕は甘えるのが…死が怖いと思ってる臆病者だ。だから誰にも頼らず、自分の力だけで護りながら生きてきた。そうしないと生きていけなかったから。……でも君たちは出来る。その勇気が…行動が、僕はとても羨ましいよ…ッ)


  心の中で羨ましそうに、弱々しい声で呟く。すると、彼の心の叫びを…唯一理解できるフィーネは、彼の隣へゆっくり近付くと、肩に優しく手を置いて、ふわりと微笑んだ。
  少々驚いたキィリルは、俯いていた顔をフィーネへと視線を移す。


キィリル
「フィーネ…?」
フィーネ
「大丈夫。それは皆誰しも抱えるモノなの。その気持ちを抑えて、誰かを守る強さに…死を恐れず立ち向かう強い生心力(ヴィオゼーラ)を持てるようになれば……フレイ君のように、本物の“騎士”と言えるんじゃないかしら?」
キィリル
「…本物の、騎士……」


  再びフレイがいる方へと視線を移す。仲間と共に話し笑っているフレイ。
  その光景を見てキィリルは、自分の中で何か見つけたような、決心したようにも伺える表情を見せていた。
  すると、キィリルの視線に気付いたフレイは、少々ムスッとした表情を浮かべてこちらを見つめてくる。


フレイ
「どうしたんだキィリル…さっき俺が言った事で何か気に食わねぇことでもあんのかよ?」
キィリル
「いや……ただ、君が羨ましいって思っただけさ」


  ふわりと微笑んで答えるキィリルに対し、フレイは理解できず、頭上にハテナマークを浮かべた。


フレイ
「は?…何言って」
フィーネ
「あ、そうだ!フレイちゃん…ずっと寝たからお腹空いてるんじゃないの?」


フィーネがフレイの言葉を遮るように問いかけた。次の瞬間、フレイの腹の虫が鳴り響く。音を鳴らしてしまった張本人は、腹に手を当てて擦ると、すこし恥ずかしそうに笑みを浮かべていた。


フレイ
「あはは…そういやオレ、昨日の昼から何も食べてなかったんだ…ッ」
ウォード
「そう言うと思ってな…宿の調理場を借りて沢山料理を作ったんだ。隣の部屋にあるぞ」
フレイ
「マジで!?よっしゃぁあああ!!んじゃ、ご飯食べに行こっと〜♪」


  軽快にフレイは嬉しそうにベットから降りると、隣の部屋へと足早に走っていった。


ネリア
「な、フレイ!まだ傷口が痛むのでは―」
フレイ
「大丈夫、皆のおかげで全然痛くもかゆくもねェしよ♪そんな事より…めっしめし〜♪」
アルヴォンド
「ハァ…ったく、フレイの脳はどんなんやろな。一度見てみたいでぇ」
イルフォンス
「君の脳みそは言わずも知れず、空っぽだって知ってるよ…僕は」
アルヴォンド
「なんやて!!?」
りん
「やめて下さい二人とも!」


  賑やかになった空気、をキィリルは五感全てで感じていた。
  そしてきつく拳を握りしめる。


キィリル
(本物の騎士に…僕はなりたい。そのためにも…僕は成長しなくちゃいけないんだ。フレイ達のおかげで…僕は今、レイラ、シュタルク…目の前にいるこの人たちが…仲間だという事に気付けた。だから…僕は…)

メル
「天使のお兄ちゃん!一緒にフレイお兄ちゃんの所へ行こうよ」
キィリル
「!……ぁあ、そうだね」


  キィリルはメルの誘いによって、考える事をやめる。メルの手に引かれながら、フレイ達の後を追った。心の中で誓った、決意を胸に抱いて…




* * * * * * * * *




  あれからフレイは、軽く10人前はあろう食事を全て平らげてしまった。
  一体彼の胃袋はどうなっているのだろうか…そう思わざるを得ない。お腹を抱えて満足げにげっぷをするフレイをみて皆は苦笑する。


フレイ
「食った食った!美味かったぜ…ありがとうな黒髪!」
ウォード
「な、私は別にお前の為に作ったわけじゃないぞ!皆が食べたいって言うから多めに作っただけで―」
メル
「ウォードお兄ちゃん、素直になった方が良いよ?」
ウォード
「これが本音だ!!」


  ドッと笑いが起きる。思わずキィリルも笑ってしまった。


りん
「そういえば、フレイさんが意識取り戻す前に、凄い事を見つけたんです!」
フレイ
「凄い…事?」
メル
「メルね、絵本が好きなんだ!フレイお兄ちゃんが寝てる間、りんお姉ちゃんとネリアお姉ちゃんに読んでもらってたの」


  メルが見せてきたのは、ごく一般的に普及している「悪魔と女神」という絵本。
  ネリアによると、天空世界(スカイピア)でも同じような絵本があるという話であった。
  絵本を見て、フレイは母親に読まされていた事を思い出した。


フレイ
「あ、思い出した…小さい頃オレ、母さんによく聞かされてたな」
りん
「有名な絵本ですからね、誰しも読み聞かされたことがあると思います」


フレイは皆を見つめると、皆はうなずく。


フレイ
「確か…悪魔が世界を滅ぼそうとするんだった…よな?」
メル
「うん、でも女神が不思議な力を使って悪魔を倒すの!」
ネリア
「そして女神は悪魔から世界を守ることが出来、未来に功績を遺したのだ」
フレイ
「……それがなんだってんだ?」
りん
「それもそうですが、この内容、何かと似ていませんか?」


  フレイは絵本の内容を思い出したと同時に、心の中に芽生えた既視感があるのだけは分かった。でもそれが何かは分からないでいる。


アルヴォンド
「俺は考古学者として世界を周ってあらゆる文献や遺物を見てきた。そこで分かったんや」
ウォード
「…!まさか…ッ」
りん
「…この絵本の中の女神と言うのは、創立者:女神アリスタの事を指しているんです」
ガザフ
「今存在している教会は、女神アリスタの想いを受け継いで出来た教会なんだ」
フィーネ
「でも教会が出来る前に、二つの教会が存在し、人々の争いを産んでいた…のよね?」
アルヴォンド
「ぁあ、でもそれは…一般人には知られていない事や。んで、その二つの教会っちゅーんは、旧アリスタ教会、そしてもう一つは…」
イルフォンス
「バルハイド教会」
フレイ
「バルハイド、教会?」


  初めて聞いた名前に、フレイは頭上にハテナマークを浮かばせた。



アルヴォンド
「まぁ簡単に言うと、アリスタの考えを全うに否定する教会って事やな。アリスタ教会は全種族に対して平和と幸せを願っていたのに対し、バルハイド教会はヒュニマのみ。そないな事を掲げてるから、バルハイド教会は9対1の割合しか存在せぇへんかった。せやから壊滅してもうたんや」
フレイ
「そうなのか…でもそれがどうしたって」
ウォード
「本当にフレイは頭が悪いな」
フレイ
「うっせぇな!!!」
キィリル
「つまり…女神がアリスタ、悪魔がバルハイドを指している…そう言いたいんだね?」


  キィリルが導き出した答えに、りんとアルヴォンドは頷いた。


りん
「もしかして…この世界と何か関わりがあるのではないのでしょうか…そう思いまして」
アルヴォンド
「せやな…今後も追及する価値がありそうや」
フレイ
「ふーん…なるほどな」
ガザフ
「確かに気になるところだが…ずっと此処で話しこんでいても解決せん。そのうち解決することを祈ろう。では…早く準備してカエレスティスの祠へと向かうぞ!」


  ガザフの一声で、皆は一斉に宿を出る準備をする為に行動する。
  フレイは移動しながらも、脳裏にはアリスタとバルハイドという言葉が、ずっと離れなかったのであった。





* * * * * * * * * * *





  1時間後。皆は身支度を済ませ、宿から出ていた。村の門をくぐり抜けていくと、目の前に広がるのはだだっ広い草原。そして10分ほど歩いていると草原を抜けた先には、木々が生い茂る森林が広がっていた。誰も手を施していないような20センチほどの草の上を、歩きづらそうにしながらも皆は進んでいく。



キィリル
「あともう少しで、カエレスティスが眠る祠に着くんじゃないかな」
イルフォンス
「どれほどで着くんだい?」
キィリル
「このペースで行くと…約1時間くらいかな。まぁ、何も魔物と遭遇しなければの話だけど…ね」
ウォード
「ならより一層、早く片を付けねばならんな」
りん
「ぇえ、そうですね」


  各々会話を交わすと、皆は先ほどより少し足早で祠へと向かって行くのであった。





  宿を出てから50分は経っただろうか。フレイ達の願いも叶わず、次々と襲来してくる魔物たちに苦戦していた。しかも今までの魔物と比べると強さは雲泥の差で、動きを封じるのが精一杯なほどであった。アリアの援助があっても戦況が厳しい中、皆は必死に挑み続けていく。
  カエレスティスの祠に近付くにつれて、魔物の出現率が上がっている気がするのだ。5回ほど戦い終わった後、皆は息を切らしながらも歩を進めていく。生心力(ヴィオゼーラ)を無限に生み出す事が出来るフレイですらも、生成が追い付かず消費が激しいのか、疲れた表情を見せるほどだ。これでは流石に、仲間たちに生心力(ヴィオゼーラ)を補充していくのは、とても厳しい状況である。


アルヴォンド
「なぁ…祠に段々近付けば近付くほどッ、敵さんよぉ来るように…なってきた気がすんねやけど…ッ!ゴホッ、カハッ!!」
りん
「大丈夫ですかアルヴォンドさん?」


  皆が心の内で思っていることを、ついに口にしたアルヴォンド。しかし無理をせず戦闘に参加しているとはいえ、流石に連戦だ…ついに身体が悲鳴をあげ、咳が酷くなってきた。過呼吸気味な咳を心配して、自分も疲れているであろうりんは、アルヴォンドに寄り添うと早速背中をさすって心配そうに伺った。そのおかげで咳が落ち着いてきたアルヴォンドは、「ありがと、りんちゃん」と礼を言うと、俯いていた顔を上げる。
  アルヴォンドが落ち着いたのを確認しホッとすると、先ほど述べた疑問点についての話題へと戻った。


フレイ
「それはオレも感じてた。強さも数も今までの比じゃねェ…ッ」
キィリル
「……もしかして、カエレスティスや魔怨者(カルト)が、そうするように術を仕掛けているのかもそれないね」
ネリア
「仕掛けだと?」
ガザフ
「まさか…関係のない者達を祠へと近付けさせないように、強い魔物を大量に呼び寄せる術を張っている……というのか?」
キィリル
「確証は出来ないけど…でも、そういう術を仕掛けていてもおかしくない筈だよ」


  キィリルのその言葉で、アルヴォンドが大きなため息を付いた。


フレイ
「そんな大きなため息つくんじゃねェよ…オレまで嫌な気分になっちまうだろうが…ッ」
アルヴォンド
「せやかて…もう嫌なんや!でっかい毛虫の魔物がぎょーーーさんおるのを相手にしたくないやないか!!」
フレイ
「それを至近距離で戦ってる俺の身にもなれってんだッ!!!接近で戦わないだけありがたいと思え―」
ガザフ
「喚くな鬱陶しいッ!!!!」


  ギャーギャーと喧嘩する二人を我慢して見ていられなかったガザフは、思い切り拳骨を下す。頭がかち割れそうな激痛に、思わず座り込んでしまう二人。苦痛のうめき声が二人分、周囲に響き渡る。


ガザフ
「喧嘩するだけで更に体力が消耗するだろ…馬鹿者」
メル
「大丈夫だよアルお兄ちゃん!めげずに頑張ろう!!」
フィーネ
「そうね…じゃあ」


  すると突然、笑顔で呟いたフィーネは懐に仕込んであったナイフを手に取ると、右にあるすぐ近くの木目掛けて放った。
  彼女の行動に皆は驚きを隠せない。


ウォード
「フィ、フィーネさん…!?」
フレイ
「急にどうしたんだよ!?」
フィーネ
「あら…気付かないと思ってるのかしら?“あなた達”の事はもう最初っから見えているの。いい加減出てきたらどう?」
イルフォンス
「出てくる…?―まさか!」



  皆は一斉にフィーネが見つめている視線の先の方へと振り向く。すると、木の枝から見える複数の黒い影が見えた。
  すぐにそれは地上へと降り着地すると、足音を立てて、皆の前へと姿を現す。


「チッ、やっぱりばれちまったか…」
「ほら、最初っから襲っていればよかったんすよ!」
「バカ、そうしたら村の住人にバレてしまうだろ!」
「本当…よく考えて行動するんだな」


  目の前に現れた4人の男たち。全員身体を覆うほどのベージュ色したマントを身に付けていた。
  そんな彼らを見た皆は、ハテナマークを浮かべる。だがただ一人、驚いた表情を見せる人物がいた。


キィリル
「!お前たちは…ッ」
ガザフ
「?知り合いか?」
キィリル
「……君たちに盗賊の話をしただろ?あの…確かアニエスっていう。あの子を襲撃したのが、この盗賊たちなんだ」
イルフォンス
「何だって!?」
盗賊1
「何だ…見てたのかよ。あの方にお前らを始末しろって言われて、どんな奴らなのか観察してたけど。…最初から知られてたんじゃあ、早く殺しておけばよかったな」
盗賊2
「…だな」


  そう盗賊は会話を交わすと、マントの中から手を出して指を前にかざす。すると指輪から光が発せられた。
  それはキィリルとウォードも持っている武器を携帯できる指輪だった。天空世界ならではの武器の所持方法を用いて、光を発して武器を出すと、それぞれ大剣、細剣、斧、銃と杖が出てくる。それらを手に持つと、盗賊たちは臨戦態勢を整った。フレイ達も続いて武器を手に取り、戦闘に入る準備を整えた。


盗賊1
「おい、お前は早くあの方にこの事を伝えてくるんだ!」
盗賊4
「了解っす!」


  突然、仲間に命令された一人の盗賊は“誰か”に現状を報告する為、この場から抜け出そうとフレイ達に背を向けて走り始める。
  咄嗟に判断した4大騎士であるキィリルも、彼を追いかけようと走り始めた。


フレイ
「キィリル!」
キィリル
「僕はあの盗賊を追う!」
フレイ
「でもお前一人じゃ―」
キィリル
「大丈夫、僕は此処で死なないよ。あの王様を止めるまではね。後は頼んだよ!!」


  そしてキィリルは報告する為に、逃亡した盗賊の後を追ってパーティを抜け出した。


盗賊3
「それじゃ、大人しく…死んでもらうぜぇえええ!!」


  その言葉を合図に、盗賊たちは一斉にフレイ達へ襲い掛かってきた。


フィーネ
「皆、連戦で疲れてると思うから…気を付けて戦うわよ!」
フレイ
「ぁあ」
ネリア
「大丈夫だ、私が援護してやる」
ガザフ
「行くぞ!!」






 * * * * * * * * * * * * 






  場面は変わり、此処は天空世界都市シエル王国のシエル城内ローリアンス・シエル陛下の自室。
  その部屋のベッドをベンチのように座って俯いているのは、本人であるローリアンス陛下であった。


ローリアンス
「ハァ…」


  小さな弱々しいため息をつく。そんな彼の元に、訪ねてくる者がいた。扉がゆっくり開かれる。
  開かれた扉の隙間から除くのは…―


「だ、大丈夫…ですか?」
ローリアンス
「…ミィリア」


  ミィリア。彼女はローリアンスの血の繋がってる実の妹で姫だ。兄を心配して弱い身体を無理してまでやってきたのだ。
  ゆっくりと兄のもとへと近付くと、手を後ろで組んで笑顔を見せてくる。


ミィリア
「シュタ爺から聞きました!…ついにこの時がやってきたのですね」
ローリアンス
「…ぁあ、そうだね」


  だが、ミィリアとは正反対にローリアンスはどこか曇った表情をしていた。そんな兄を心配して、気が気じゃないミィリア。


ミィリア
「ど…どうしたんですかお兄様…?ずっと願ってた事じゃないですか!それなのにどうして―」
ローリアンス
「覚えているかい、ミィリア」
ミィリア
「…?」


  突然質問されて、一体何のことを言っているのか皆目見当もつかないミィリアは、分からない表情を浮かべる。


ローリアンス
「母上の事さ」
ミィリア
「!…もちろん、一日も忘れたことはありませんわ」


  母上。その名は、レイナ・シエル王妃。
  そう、ローリアンスとミィリアの産みの母親でもあり、殺したサヴェル・シエルの妻でもあった。
  生みの親の事を思い出したミィリアは、切ない表情を浮かべて俯く。


ローリアンス
「母上は…父上が唱えていた「全種族が平和に暮らせる世界」を作る事に賛同しなかった。どんなに地上人が醜い奴らかを唱えても聞かず、いつしか母上に暴力をふるうようなったんだ」


----――――――――


サヴェル
『どうして分からぬのだ!!!地上人は全て悪い奴らではない!!愚かな行動をしたのは昔の事だ!!それをいつまでも固執してはいけないというのに…乗り越えて平和な世界を創るという私の気持ちが分からないのかッ!!!』
レイナ
『う…ッ!!…ッ、貴方は分かってないわ!!!地上人は貴方が思ってるほど甘くない!!!貴方だって聞いたでしょ!?地上に降りた者たちは皆殺されるって!!』
サヴェル
『なら…天空人が地上人に殺されている所を、そう言った人たちは実際に直接目で見たのか!?耳で直接聞いたのか!?』
レイナ
『それは…ッ』
サヴェル
『いるわけないよな!?地上に降りた者たちは皆、ヴィオゼリンクのせいで天空世界(スカイピア)に戻れないんだから!』
レイナ
『…―も、でも!地上人と仲良くなるのは――キャァッ!!!』
サヴェル
『うるさい!!どうして分かってくれないのだッ!!!どうして…して、分かってくれるのはお前だけだと思っていたのに!!』
レイナ
『イヤッ!!痛い…痛いッ!!!イヤァアアアアアアアアアアア!!!!』


----―――――――


ミィリア
「そしてお母様は…お父様に堪えられなくなって…自殺した。そうですよ…ね?」
ローリアンス
「ぁあ。母上が死んだのは父上のせいだ。あの地上の王様に騙されたせいで、父は壊れ、そして母上は死んでしまった…。僕は…母上の想いを無駄にしない為にも、昔の人達の無念を払う為にも…僕はなんとしても、この計画を成し遂げなきゃいけないんだッ…」


  血が出そうなほど拳をきつく握りしめ、そう決意の言葉を述べるローリアンスの姿を見て、ミィリアは不安そうに見つめる。


ミィリア
「でも…それは、本当にこの世界中の皆が望んでいる事なんでしょうか…ッ?」


ローリアンスの耳にも届かないほどの小さな声で、弱々しく吐いた言葉。それは心の底から思っている本音のようにも聞こえる。


ローリアンス
「ぇ、何か言ったかい…ミィリア」
ミィリア
「!ぃ、いいえ!私も同じですって言ったんです…ッ、お兄様」
ローリアンス
「そうか…ありがとう。……ほら、身体弱いんだから…早く部屋に戻って安静にしてよ」
ミィリア
「はい、お兄様も…お体に気を付けて」


一礼をしゆっくり歩いて扉まで近付くと、再度兄の方へと振り向き一礼。そして音をたたぬよう扉をゆっくりと閉め終えた。
そしてすぐに扉に背を向け、重い足取りで自室へと戻る。入った瞬間漂うバラの香り。数時間前にシュタルクが摘んだばかりの、庭園に咲くバラであった。そのバラを一瞥したあと、ミィリアは自分のベッドへとゆっくり歩く。そしてポフッと力なくベッドへ埋もれると、枕を抱きしめ今にも泣きそうな表情を浮かべた。


ミィリア
「…今のお兄様は私の知っているお兄様じゃない…ッ。地上人のせいで、お父様のせいで…お母様のせいで変わってしまったっていうの?どうして……してなの…ッ」


  目じりに涙を浮かべて、今にも消えそうな震えた小さな声で彼女は呟く。部屋の中に、切なくミィリアの泣き声が響き渡っていた。






 * * * * * * * * * * 





  場面はフレイ達へと戻る。あれから必死に盗賊と戦っていた。なんとか3人のうち2人を戦闘不能状態にする事が出来たものの、この盗賊のリーダーだけは一筋縄ではいかなかった。
  予想外の展開に困惑しつつも、限界ギリギリの生心力(ヴィオゼーラ)を使ってなんとか応戦していた。


盗賊1
「くっ…!」


  すると、油断していた盗賊が隙を見せる。すぐ判断したフレイは、ネリアの方へと振り向いた。


フレイ
「ネリア!!」
ネリア
「ああ!任せろ!」


  フレイとネリアは一気に畳みかける準備を整える。そう、二人一組で行う共鳴秘奧義を放つのだ。


ネリア
「不死鳥の力を解放する!」


  ネリアの身体が不死鳥―フェニックスの姿へと変化し、身体中を纏う燃え上がる炎が生まれる。


フレイ
「舞い上がれ!蒼天(そら)の彼方まで!」


  大剣を空に向かって掲げ、剣先をネリアへと向けた。


ネリア
「そして転生の焔で燃え尽きるがいい!」


  更にネリアの身体に纏う炎が大きくなり、激しく燃え上がる。その中をフレイは勢いよく突き抜けていった。


フレイ&ネリア
「鳳凰、天翔駆!」 



  炎はフレイの剣を纏わりつき、剣が紅く変化する。そして炎のように激しく燃え上がり、巨大化した剣は敵に狙いを定めると、天目掛けて勢いよく突き上げ大きなダメージを与えた。


「カハッ…!」


  共鳴秘奧義後、盗賊のリーダーは地面へと切なく崩れ落ちていった。「勝ったか…?」誰もがそう思った時だった。もう戦闘不能になってもおかしくないというのに、尚もその者は立ち上がっていく。
  だが、武器を握る手は力が出ないのか震えており、身体もがくがく揺れなんとか意地で立っているようなものだった。その光景を目の当たりにしているフレイ達は、正直見ていられなかった。結果が目に見えているこの状況で、既に戦意を失っていた。


りん
「やめてください!そこまでしてあなた方は何をしたいんですか!」


  我慢できずに悲痛な表情をしてりんは彼に問う。彼女言葉を聞き、息を切らし口の端から滴り落ちる血を力なく拭うと、きつく睨みあげてドスの効いた低い声で彼は答える。


盗賊1
「何を…?決まってるだろ。生きる為だよ!」


  彼の言葉を合図のように、仲間である2人もフラフラになりながらも立ちあがっていく。


盗賊2
「俺達は生きている意味が分からず路頭に迷っていたんだ。でも…そんな俺達を、あの方が救ってくれた。俺たちが行動することで天空世界(スカイピア)は救われるんだって…だから、俺はこの世界の平和を保つために…ここで立ち止まっちゃいけないんだッ!!」


  彼らの言葉を聞き、皆は辛そうな表情で見つめていた。


ウォード
「…哀れだな。この世界はヴィオゼリンクの崩壊のせいで、活動の意味がなくなっているというのに…」
盗賊1
「ヴィオゼリンクが崩壊した?…ウソだ、そんなのウソに決まってる!あの方はそんな事一言も…」
盗賊3
「そうだッ!デタラメな事言ってんじゃね――」


  盗賊たちは信じられないと言った表情で事実を否定した。
  だが言い終わる直前、ふと盗賊たちの背後にひどくブレており、ノイズがかったような人影が見えたような気がした。
  皆は気のせいかと思おうとしたが、その考えはすぐ否定されることとなる。その人影は徐々に人の形となっていった。
  そしてその者は盗賊の言葉を遮るようにこう呟く。


『用済みだ…』


  背後に聞こえた声を確認しようと盗賊たちは後ろを振り向こうとした―…その時だった。


盗賊1
「ぇ…―」


  ―刹那…肉を裂く生々しい音が、複数に渡って周囲に響き渡る。幻だと思った。いや、そう思いたかったのではないだろうか。
  それもそのはず、背後にいる何者かによって、盗賊三人は同時に心臓と内臓を抉るように刺されているという、なんとも信じがたい理解不能の光景を目の当たりにしているからであった。
  まるでその者の手が6本あるとしか思えないほどだが、抱いた疑問点は盗賊たちが命を終えて地面に倒れた事によってすぐに解決してしまう。

  それは、手のようなものを前に出して魔方陣を展開していた。そして魔方陣を中心に、鋭利で長い刃物が6本繰り出していた。
  6本の手の正体が魔法という事で疑問点は解決したが、また一つ疑問が生まれる。

  “目の前にいる人影がなんなのか”だ。
  いまだに全貌を現さない何者かは、魔方陣が消えたのと同時に手を降ろすと、人影にまたノイズが生まれる。だがすぐそれは治まると、足から黒色が溶けていき、徐々に正体を明るみにしていく。そして頭まで色が抜け落ちると、…それは姿を現した。







  明らかになった正体を目の当たりにしたフレイ達は、ふと脳裏にある台詞が浮かび上がってきた。


『盗賊たちを捕えて話を聞いた事があってね、魔怨者(カルト)らしき人物の特徴が“蒼いフードを全身に覆い被ったヒトだ”という共通点があるんだ』


  それはもう一人の盗賊を追ってパーティから離脱した、キィリルが言っていた言葉であった。
  そう、目の前にはまさに…その人物が立っていた。間違いない、皆は確信する。


フレイ
「ぉ、おまえが…カエレスティスの番人…ッ」
ネリア
「魔怨者(カルト)…ッ!」
魔怨者
「……」

  とてつもない…圧迫感というか、気迫を感じる。動いたら確実に殺されてしまいそうな錯覚に陥るほどである。
 冷や汗が一粒…地面に落ちたその瞬間、暫く閉ざされていた魔怨者(カルト)の口がついに開かれる。


魔怨者
「お前たちが…地上から来た者達か」
ウォード
「私とネリア様を除いては…な」
魔怨者
「ほぅ…唯一生き残りの守護騎士と天空神様もいるとは…なんと好都合」
ガザフ
「好都合…?それはどういう意味―」
魔怨者
「地上人は黙っていろ」


  地上人と天空人に対する態度に差があるのを感じる。これが長年天空人が積み重ねてきた、地上人に対する負の感情なのだろう。
  フードから除く瞳が、酷く冷たく、フレイ達をきつく睨みあげていた。


ネリア
「お主は…私とウォードと逢って何をしたいのだ」
魔怨者
「それは…カエレスティス様と私とあなた方の4人で話し合う内容で明らかになります。天空世界(スカイピア)の存続を賭けたとても重要な事なので…どうか、私と一緒にご同行いただけないでしょうか?」


  魔怨者がネリアに話をする最中、唯一りんだけは納得のいかない表情で何かを見つめていた。
  その視線の先には、儚く命を終えた盗賊の亡骸。胸辺りを中心に大量の血が飛び散っている光景を目の当たりにする。
  よく見ると、魔怨者に刺されたことにより飛び散った肉片や臓器の一部分が飛び散っているのも見えた。とても見るに堪えない光景である。
  既にその光景を見ていたメルは当然怖がり、恐怖を抑えようとガザフの身体にしがみつくと、見ないように顔をガザフの身体にくっついて視界をシャットアウトしていた。
  心情を察しているガザフは、複雑な表情を浮かびながら、メルの頭を優しく撫でて魔怨者の話を聞いていた。

  だが目の前の…かつて共に協力していたモノたちを簡単に殺めてしまう、その亡骸に一度も見向きもしない冷えた心を持つ魔怨者に対し、怒りを抑えられずにいた。
  怒りに堪える為、りんはきつく拳を握り、歯を食いしばる。しかしもう限界であった。
  りんは思い切り握っていた手を振り払うと、魔怨者に向かって思い切り怒りをぶつけようとした―…その時だった。彼女を庇うように、フレイが立ちはだかったのだ。



フレイ
「おいてめぇ…ッ」


   俯き肩を震わせながら、いつもより低い声でフレイは言った。そんな彼を魔怨者は一瞥すると、すぐ視線をネリアの方へと戻す。


魔怨者
「廃れた地上人の奴らなど視界に入っておらん。…喋るだけで虫唾が走る…一刻も早くここから立ち去れ―…ッ!?」


  驚くほど冷たい声で魔怨者は言い終わる直前、予期せぬ出来事が起こった。
  それはフレイが魔怨者顔目掛けて思い切り殴ったのだ。油断していた魔怨者だったが、表情一つ変えず殴られた勢いで吹き飛ばされそうになるのを、足を踏ん張ることで最小限にとどめる事が出来た。
  そして殴られた頬を、痛がる様子も無くすぐフレイの顔を見た。視線の先には、鼻息を荒くし呼吸する、怒るフレイを魔怨者を尚も冷たい瞳で見つめる。


フレイ
「てめぇ…こいつら無視して話進めてんじゃねェよ!!」


  フレイが指差す先には、命を終えたばかりの盗賊たちであった。
  無表情で再びそれを一瞥すると、すぐにフレイへと視線を移す。


魔怨者
「それがどうした」
フレイ
「どう…した…ッ!?お前、こいつらと協力してた仲間じゃねェのかよ!!こいつら…生きる意味と勇気を与えてくれた命の恩人だって言ってたんだぞ!!!それなのに―」
魔怨者
「ゴミに用はない。不要になった輩はゴミへと還すだけの事…」


  魔怨者が盗賊に向かって手を広げて前に突き出すと、魔方陣が生まれる。その直後、盗賊たちは黒く塗りつぶされるように真っ黒になっていった。
  あっという間に全身が黒に染まると、跡形もなく砂のようにさらさらと粒子となり、地面に落ちていく。そして風が起き、流れに乗って灰になったそれは、切なく宙に散っていった。
  一部始終を見ていたフレイ達は唖然とする。目を見開いて黙って見ることしか出来なかった。


フィーネ
「ひ…酷い…ッ」


  思わずフィーネの口から本音がこぼれる。


魔怨者
「ヒトは愚かな者だ…こうも私のウソを簡単に受け止め、いとも簡単に簡単に命を落としていく。生きる意味を失ったゴミなど生きる価値もない。意味もなくこの世に生き続けるくらいなら…この世界の為に、そして…天空世界(スカイピア)の安寧の為に命を落とす方が、よほど効率の良い事だと思わないか?愚かな地上人どもよ」


  異常である。目の前にいるヒトの言葉を完全に受け入れる事が出来なかった。いや、したくない。理解したくない…皆はそう思った。
  生きる価値は、そのヒトに対して周囲をヒトからしてみたらそれぞれだ。あるヒトからしてみたら、ずっと死なないで生きて傍にいてほしいというモノもいる。だが反対に、興味ない・死んでほしい・眼中になかった等…マイナスの価値を抱くヒトもいるだろう。
  そんなの当たり前だ。ヒトが人である以上、コミュニケーションをとるうえでは欠かせない価値だろう。そう簡単に決めつけるモノではない。ヒトに値段をつける事と同じである。
  それを、あるヒトが勝手に決めつけ、「あなたは生きる価値もないクズです」とその者に札を貼り、利用して追い詰め、殺すヒトの方が…よっぽど人として最低である。
  その醜い事を普通に普通に成し遂げているのが、目の前にいる魔怨者なのだ。なんとしても許してはおけない…そうフレイ達は思った。



フレイ
「たしかにこの世界はおかしいかもしれねぇ。でも…だからってこの世界を作った女神アリスタを恨むような事はしねぇさ。だって…どんなことであっても、人々の命を守るためには変わりない選択なんだからよ」
魔怨者
「……」
フレイ
「でも…テメェは違う!世界の平和を維持する為に、平気でヒトの命を利用してるだけじゃねぇか!!そんなヤツ…俺は許さねぇ!」
魔怨者
「吠えるな…耳が腐る」
フレイ
「なら……聴けなくなるくらい、お前を今此処でぶっ潰してやらぁ!!皆、いくぞ!」


  フレイの意見に賛同するように、皆は武器を手に取って臨戦態勢を整える。

  そして…魔怨者と交渉を交わしていたネリアとウォードも。


魔怨者
「…武器を手に取るのですか、守護騎士…天空神様」
ネリア
「私もフレイに同意見だ。私は誰かの命を犠牲にするのはもう沢山だ…ッ。だから、簡単に命を切り捨てるお主と協力などお断りさせてもらう」
ウォード
「端から貴様と協力する気などない。これは守護騎士としてではなく、私としてだ」
魔怨者
「……交渉決裂…か。なら、貴様らの命を使って、この世界の安寧の為のエサとさせてもらうのみ!!」


  次の瞬間、魔怨者の腕が白い翼へと変化した。それはネリアがよく見知っていた翼であった。ウォードは目を大きく見開いて驚く。


ネリア
「な…ッ、こ、これは…ッ!」
ウォード
「そんな…まさか…ッ!」
ガザフ
「どうしたんだ二人とも!?」
魔怨者
「フッ…驚くのも当然であろう。私の種族は飛空種族鳥タイプ隼なのだから…な!!」


  そう言い放つと同時に、魔怨者はフレイ達に向かって術を放つ。フレイ達を囲むように大きな魔方陣が出現した。


りん
「させません!」


  するとりんは薙刀を縦にして地面に置くと、魔方陣を展開していく。淡い緑色に輝く光が彼女を照らす。


りん
「大切なモノたちを守る強靭な結界 今解き放て! リアンクライス!」

  すると仲間たち一人一人に円形のバリアが出現した。
  それとほぼ同じタイミングで、魔怨者は闇心術「レアブレード」を解き放つ。それは仲間たち一人一人を、無数の刃が襲い掛かり切り刻む上級心術である。
  喰らったらひとたまりもないが、りんの咄嗟の判断のおかげで未然に防ぐことが出来た。
  間髪入れずに、フィーネ・アルヴォンド・イルフォンス・りんは詠唱を始める。


魔怨者
「ほう…やるな、ならばこちらも本気を出すとしよう」
フレイ
「そうはさせるかよ!」


  自らの羽を使って飛んでいる魔怨者に、フレイは高くジャンプした。


フレイ
「くらぇえええ!雷神け―」
魔怨者
「遅い」
フレイ
「な…!?―ぐぁ!!」


  驚くべき速さで背後に周られると、一瞬の隙を見せてしまったフレイは、魔怨者に背中を思い切り蹴られ地面へと叩き付けられてしまった。


ネリア
「フレイ!」
魔怨者
「ヒトの心配より自分を心配をしたらどうです?役立たずの天空神様」


  フレイの後ろにいたはずなのに、気付けばネリアの背後へ周っていたことに気付く。


ネリア
「!しま――うぁあああああ!!!!!」


  咄嗟の事で身体が反応できるわけがなく、ネリアに攻撃する隙も与えず、魔怨者は雷心術「スパークウェーブ」を無詠唱で攻撃を与えた。
  身体中に激痛が走り、攻撃が終わると力なく地面へと倒れていった。


イルフォンス
「ネリア!―クソッ…!!」
魔怨者
「悔しがるのもそこまでだ。一気に終わらせてもらうぞ。―フォルタ―テンポ!!」


  再び無詠唱で言い放った瞬間、魔怨者以外の時が止まった。この術は術者の意思で好き勝手に時間を止める事が出来る呪心術である。
  術の効果を使い、魔怨者は容赦なく秘奧義を発動した。


魔怨者
「世界のクズ共よ 世界の為に光となるがいい! エレメンタル・ブレイド!!!」


  唱えた瞬間、天から降り注ぐ光の刃がフレイ達に向かって容赦なく降り注ぐ。
  時を止めるフォルタ―テンポと秘奧義エレメンタル・ブレイドが同時に終える。
  時が戻り、フレイ達は何が起こったのか理解できるわけもなく、急に激痛が襲い掛かり、無情にも皆倒れていった。


魔怨者
「…ここは何処だと思っている。…もっとも蝕死力(ブラジェーラ)の濃度が多い、蝕死力(ブラジェーラ)の巣窟だ。私と逢うまで沢山の魔物と戦ってきたであろう?生心力(ヴィオゼーラ)が悲鳴を上げているというのに、それで私に戦いを挑もうなどと…無謀にもほどがあるな」


  力が出ず地面に伏しながらも、フレイはなんとか顔は上げて魔怨者の話を聞いていた。
  否定したいが、魔怨者の言っている事は正しかった。正直、度重なる連戦で生心力(ヴィオゼーラ)が、身体が悲鳴を上げていたからだ。そんな状態で戦おうとしているのは無謀すぎると分かっていた。
  だが目の前の敵から逃げるような事はしたくなかった。戦って勝利し、説得する道を歩みたかったからだ。その選択の甘さが、この結果を産んでしまった。


フレイ
「く…そ、ぅ…ッ」


  薄れゆく意識の中、フレイは魔怨者を睨み続ける。気配に気付いた魔怨者は、見下ろし口角を上げた。


魔怨者
「自分の人生を呪うのだな…」


  その言葉を最後に、フレイの意識は途絶えた。フレイ達が気絶したのを確認すると、魔怨者はフレイ達を囲むような大きな魔方陣を展開する。
  魔方陣に光が灯され発動すると、フレイ達の姿が消えてなくなってしまった。


魔怨者
「残るはあの二人…」


  魔怨者は謎の言葉を残して、この場を去っていった。





 * * * * * * * * * *





  同時刻。場面はキィリル視点へと変わる。
  フレイ達から約4kmほど離れた場所で、戦闘は起こっていた。
  しかし1対1。キィリルの圧倒的勝利だった。
  尻もちをつきボロボロになった逃亡した盗賊に剣先を向ける。
  キィリルは彼を見下ろすと、きつく彼を睨みあげた。


盗賊4
「ひ…ッ!」
キィリル
「なぜこんな事をする」
盗賊4
「そ…それは…」
キィリル
「応えろ!!」


  キィリルは未だかつて見せたことが無い気迫で彼を追い詰めていく。
  彼は彼の気迫に圧倒されつつも、それでも尚抵抗しようとしていた。


盗賊4
「い、言うワケにはいかないんだ!あの方に伝えないと…オレは―」

『その必要はなくなった。消え去るが良い』


  キィリルの背後から声が聞こえてきたと思った直後、目の前の盗賊は黒煙に包まれていく。
  断末魔の叫び声がキィリルの耳をつんざく。鼻にヒトが焼き焦げる異臭がこびりつくように匂った。身の毛がよだち、背筋が凍る。
  そして目の前の盗賊ヒトの形を失い、灰となって風に吹かれて天へと散っていった。
  一部始終を見ていたキィリルは、背後にいるのが何者かを確認する為に、振り向いた直後バックステップし距離を置いて確認する。
  その視線の先には―…


キィリル
「…間違いない、お前が魔怨者か!!!」
魔怨者
「その言葉、聞き飽きたなぁ。だが見た限り…とても良い餌になりそうだ。…良き世界を気付く為、利用させて頂くぞ」
キィリル
「なにを言って―」


  キィリルに考える隙も与えず、魔怨者は容赦なく無詠唱で闇心術「ブラッティハウリング」を解き放つ。一瞬の事で防御する暇もなく、キィリルは攻撃を受けてしまった。

  ―かのように思えた。


キィリル
「……ッ?!」


  キィリルの瞳に、信じがたい光景が映し出されていた。


「心配して様子を見に来てみれば…」
「見に来て正解でしたな」

キィリル
「な…ッ、レイラ…シュタ爺!?」

  城に戻っていたはずの…四大騎士の二人、レイラとシュタルクが目の前にいた。
  シュタルクが貼ったバリアによって攻撃は無効化され攻撃を妨げる事が出来た。
  来ていなかったら今頃、キィリルは瀕死の状態だったであろう。


魔怨者
「…くそ、邪魔者が入ったか…!本当ならばまとめて三人主の元へと連れて行きたいが……気が変わった。先に捕えたエサを報告しに行かねばならんからな」


  先に捕えたエサ?
その言葉にキィリルは嫌な予感を感じた。


キィリル
「待て魔怨者!!!先に捕えたエサとはどういう意味だッ!!」
魔怨者
「きっと地上人どもの醜い過去は絶妙なんだろうな…特に、あの蒼い髪の男は…」


  舌を出し唇を舐めて美味しそうに言う魔怨者の言葉に、背筋が凍る。同時に、走馬灯のようにフレイ達の姿が浮かんできた。


魔怨者
「くれぐれも情報を流さぬように…流したら命はないと思え。では…」
キィリル
「!!待て魔怨者―」


  呼び止めようとしたキィリルの想いも虚しく、魔怨者はあっさりと目の前から姿を消してしまった。
  自分に優しく接してくれた初めての友達を、助けられなかった事の悔しさに膝をついた。



キィリル
「……」
レイラ
「…キィリル」
シュタルク
「そこで落ち込んでしまわれるのですか、キィリル坊ちゃま」


  シュタルクの言葉を聞き、立ち上がるキィリル。そして背後にいるレイラとシュタルクの方へと振り向くと、何かを決意した表情を浮かべていた。


シュタルク
「言われなくても決心がついたようですな」
レイラ
「貴方…しばらく見ない内に随分と変わったんじゃない?」
キィリル
「ぁあ、僕はもう落ち込んでばかりの昔の弱い自分じゃないからね」
シュタルク
「きっと…あのフレイ達というお方といて何か得たものがあったんでしょう」
キィリル
「…ハッ、シュタ爺にはなにもかもお見通しだな」


  3人の周囲に暖かい空気に包まれていた。
  だが次のセリフで、一気に気分がガタ落ちする。


シュタルク
「ところで…フードを被ったあの方は…ご友人か何かですか?」
キィリル
「……は?」


  何を言っているんだこのおじいさんは。そう言いたそうな目をして呆然とシュタルクを見つめていた。
  彼の発言を聞いたレイラは大きくため息をつく。


レイラ
「随分執念深い友人なのね。そんなわけないでしょ。いいからおじいさんはキィリル達のことに口を挟まないの。私たちは私たちのやる事をすればいいんだから」
シュタルク
「な、私はまだまだ若いモノに負けてはおりませんぞ!」
キィリル
「ボケてきたんじゃないのシュタ爺」
シュタルク
「な、キィリル坊ちゃままで!」


  ドッと大笑いが起こる。だが、次の言葉で空気が変わった。


レイラ
「あ、陛下が天地戦争を受け入れたそうよ。これからその会議が行われるから…」
キィリル
「!!そう…か」
シュタルク
「こちらの事は心配しないでください、私達で何とかしますから。坊ちゃまはご友人の救出の事だけ考えてください」
キィリル
「…ぁあ、頼んだよ二人とも」


  お互い頷くと、レイラとシュタルクは己の翼で飛んで城へと戻っていった。
  姿が消えたのを目で確認すると、キィリルは拳をきつく握りめる。


キィリル
「待っててくれ皆…ッ!」


  キィリルは透明の羽を広げて、自分が飛べる限界の速度で自分を仲間だと思ってくれる人達のもとへと向かっていった。
  決意を胸に抱いて…








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