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物語
第10話 動き出す時間と繋がるピース



第10話 動き出す時間と繋がるピース





りん
「嘘ですよね…イルフォンスさん…?」


信じたくない…そんな思いを込めてりんは声を震わせて、恐る恐るイルフォンスに問いだした。


イルフォンス
「僕は…あの時確かにお前を殺した…なのに…なのにどうしてッ!!」


そう大声を上げた彼は、その人物に対して疑問を投げる。
彼の質問を聞くや否や、すぐに高笑いをし始めた。


???
「あのあと…崖に落とされて死にかけていた所を…通りすがりのヤツが助けてくれたのさ。そして見事この通り……生きている!ぁあ…命ってすばらしいなぁ!!本当に…ねぇ…?」


少し嫌味を含めたような言い方をする男性を見て、イルフォンスは眉間にしわを寄せて怒りをあらわにする。


イルフォンス
「お前ッ…」
アルヴォンド
「どうしたんやイル!あのおっさんを殺そうとしたって―」
イルフォンス
「近づくなアルッ!!!―…アイツが…母さんと父さん達を殺した……元グリュエル騎士団No.Tのヴォルティス…僕たちの仇さ…ッ!」


イルフォンスの言葉で、この場の空気が凍りついた。



アルヴォンド
「な…ッ!?」
ガザフ
「やはり……!」
フレイ
「ということは…アイツが……俺のとうさんとかあさんを…!」
イルフォンス
「ぁあ…そうだ…ッ!!」


憎しみと怒り…そして悲しみに満ち溢れた表情を浮かべて言うイルフォンスの姿を見て、ヴォルティスは鼻で笑うと、


ヴォルティス
「あの時の目と全く変わらないな…憎しみに満ち溢れたその目つき……抉って一生見えないようにしたいほどだ…ッ」
イルフォンス
「お前だけは……お前だけは絶対許さない!今此処で殺してやるッ!!」


そう叫んでイルフォンスは自分の蛇腹剣を手に取り、親の仇をとろうとヴォルティスに襲いかかる。
いきなりの彼の行動に皆は動揺を隠せない。


フレイ
「やめろイル!」
フィーネ
「イルちゃんッ!!」
メル
「きゃぁあああああああ!!」

イルフォンス
「はぁああああああッ!!」

『イルッ!!!』

イルフォンス
「ぇ―…?」

―…ピタッ


目の前の人物と声に反応したイルフォンスは、ヴォルティスを殺そうとする手を止めた。
そして少々荒くし息を吐きながらも…その人物をじっと見つめ…そして彼はゆっくりと口をひらいた。


イルフォンス
「何をするんだ…アル」
アルヴォンド
「……ッ!」


イルフォンスがヴォルティスを斬りつくところを制止したのは、弟であるアルヴォンドであった。
両手を広げて、彼の行動を制止させると、アルヴォンドは彼の瞳を真っ直ぐと見つめる。


フレイ
「アルヴォンド…おまえ…ッ」

イルフォンス
「そこを退け……アル」
アルヴォンド
「嫌や」
イルフォンス
「お願いだ…退いてくれッ!!」
アルヴォンド
「嫌やッ!!」
イルフォンス
「どうしてだ!!…あいつは、父さんと母さんを殺した奴だ…それなのにどうして…―」
アルヴォンド
「そんなん決まっとるやろがッ!!…そんなことをしたら、自分―」


―ブジュゥ…ッ


アルヴォンド
「も…ッ?!」


―刹那、不快な音が耳に入る。


イルフォンス
「―…ッ!」

ヴォルティス
「フッ…!」


皆は、目の前の光景を信じたくなかった。


りん
「ぃ……嫌ぁああああぁああああぁああああッ!!!」

フレイ
「てめえ!!」

―ズボッ…

アルヴォンド
「ゴフッ…!」

―ドサッ…

胸に刺さった剣をヴォルティスは引き抜くと、そこから大量の血が溢れ、そして吐血したアルヴォンドはそのままイルフォンスの腕に受け止められるように倒れていった。
そしてイルフォンスは弟の血で塗れる自分の身体を見ると、身体を震わして小さな声でこう呟いた。

イルフォンス
「アル……?」

ヴォルティス
「どうだ…仲間を殺された気分は…小僧!」

イルフォンス
「――…」


ふと、イルフォンスの脳裏には走馬灯のように次々と浮かび上がってくる。




『いや…いやぁあああああああ!!近付いてこないで化け物ッ!!』

『お前は弱虫だ…心も力も根性もなッ!!!』

『ぼくは…大切なヒトを護るためなら…なんだってする。それが…ぼくだッ!!』

『どうだ…?己の身体が…手が、紅に染まっていくのは…』

『ぼくは…ぼくは仇の為なら…なんでもする…たとえそれが悪の道だとしても…』




フィーネ
「!!イルちゃん駄目よ!!正気に――」
イルフォンス
「……るさない…ッ!!!」

小さな声で震えた声でつぶやくと、仇であるヴォルティスを紅い瞳となったその目できつく睨みつける。
そして―…


フレイ
「!!そうはさせるか…よッ!!」

イルフォンスが剣を握ろうとするのを読んだフレイはすぐに自分の剣を以って彼の剣を振り落とす。
そしてイルフォンスの後ろからガザフが来ると、羽交い締めにし彼が暴走するのを止めた。


イルフォンス
「やめろ!!…アイツは…アイツはアルを…父さんと母さんを殺した…―!」
フレイ
「落ち着けよイル!!アルはまだ死んでなんかいないッ!!」
りん
「出血が激しいですが…命に別状はありません!アルヴォンドさん大丈夫ですからね…今治しますから…ッ!キュアッ…!」
イルフォンス
「……ッ!うるさい黙れッ!僕は」
―ドッ…!

イルフォンス
「―…ッ?!」


首に衝撃感、そしてぐらつく視界…


イルフォンス
「な…ッ、が…ザフ…さ…ッ?!」
ガザフ
「少しは頭を冷やせ…馬鹿者」


視界が暗くなり…イルフォンスは意識を手放していった。
気絶したイルフォンスを腕で支えるガザフはため息をつくと、すぐに目の前にいる元グリュエル騎士団であるヴォルティスを見つめる。


ガザフ
「何年振りでしょうか…ヴォルティス教官」
フレイ
「きょ…教官?!;」
ガザフ
「ぁあ…俺とオルグユ達の剣術や騎士の心得を教えてくれた…いわば師匠だ」


そのガザフの言葉を聞いて目の前にいるヴォルティスは鼻で笑うと、


ヴォルティス
「そんな昔の事…とっくに忘れたなぁ」
ガザフ
「教官…あなたに辛い事があったのは私も存じております。ですが、仲間を…そして沢山の種族を…ヒトを殺してきた貴方の行動は決して許されることではありません。どうしてこんな事をして…―」
ヴォルティス
「…ガザフ、お前には分かるだろ?俺様の気持ちが…!…風のうわさで聞いたが、お前の妻であるルーシィが死んだそうではないか?お前の不注意でなッ!!」
ガザフ
「…それは…ッ」
メル
「そ…そうなの…パパ…ッ?」
ヴォルティス
「かつてのお前なら分かるはずだ…俺様のこの行動の意味が…なッ!!許さないのだよ…この醜い世界が…ヒトが!!俺様の大切なヒトを殺した奴は…絶対にゆるさない」


ヴォルティスの言葉で黙ってしまったガザフを、フレイは心配になって横顔をみつめる。


フレイ
「親父…?」
ガザフ
「たしかに…教官の気持ちが分からないわけでもない…。俺も道を間違えたら…グリュエル騎士団に入っていたかもしれないからな…ッ」
りん
「ガザフさん…ッ」
ガザフ
「でも…そんな俺を止めてくれたのは…他でもない。メルとルーシィと…そしてフレイの存在があったからここまで来れたんだ。俺は1人じゃないと…教えてくれたからな」


そう安心したような柔らかい笑みを浮かべるガザフを見て、ヴォルティスは俯く。


ヴォルティス
「……ぁあ、俺様はずっと1人さ…誰も俺 様を受け入れてくれる奴なんていない…」
ガザフ
「いいえ…あなたにもいるはずです。貴方を信じて待ってくれているヒトが…必ず。生きて生き抜いた先に…どんな形であっても…必ず幸せがやってくるんです」
ヴォルティス
「……俺様を待ってくれるヒト…か。……まさか、お前に説教される時がくるとはな…」
ガザフ
「俺はこの言葉を…ずっとあなたに伝えたかった。これが…死ぬことを諦めずに必死に生きてきた…俺が導き出した答えです」


そのガザフの言葉を聞いたヴォルティスは鼻で笑うと、弟子に背中を向けた。
そして背中から黒く大きな羽が現れ皆は驚く。
それを見て確定した、彼は天空人なのだ…と。


ヴォルティス
「…小僧に言っておいてくれないか…。過去に捕らわれていては何も前に進めない。俺様のようにならないことを願う…と。あと…小僧を試すためにあのメガネの子を刺したが…急所は外してやった。その子にも悪かったと…伝えておいてくれ」
ガザフ
「!!教か―」
フレイ
「おい、おじさん!!!」


飛んでいこうとするヴォルティスを、フレイは大声で呼んで止めた。


ヴォルティス
「どうした小僧」
フレイ
「いや…その、おじさんって意外と良い奴なんだな!だから…おじさんにもきっといいことがあるよ!」
ガザフ
「フレイ…おまえ」
キィリル
「…ふッ…」
ウォード
「あのバカ…ったく」

ヴォルティス
「―…ハハッ…あははは!…面白い小僧だな…お前、名前はなんという?」
フレイ
「ふ…フレイ・ミューレント…だけど…?」
ヴォルティス
「…ミューレント家の子供か…どいつもお人好しな奴ばっかなのだな。−…感謝する…小僧」


そう言い残すと、ヴォルティスは大きな黒い羽を舞ってこの場を去っていった。
黒い羽を地面に残して…。
















イルフォンス
「んぅ…ッ」
フレイ
「あ…やっと目を覚めた…」


時間は変わり、真っ暗な夜。
集めた木の枝や葉っぱなどで出来た焚火を囲むように皆は座り込み、気絶していたイルフォンスが目を覚ましたことに気が付いた皆は心配そうにイルフォンスを見つめた。


イルフォンス
「僕は…一体…ッ?」
フレイ
「お前、生心力(ヴィオゼーラ)をかなり消費してたせいか生心力(ヴィオゼーラ)が不安定になっててたんだよ…。あの後回復したけど…どうだ、気分の方は?」
イルフォンス
「…ぁあ…そうか、また僕は…暴走して…。ごめん…皆」
ネリア
「無理もない。空いた生心力(ヴィオゼーラ)の隙間を狙って蝕死力(ブラジェーラ)が入り込んだのであろう…正常な判断が出来ないのは当然だ」
アルヴォンド
「あんなに取り乱したイルを見たのは初めてや…ホンマビックリしたで…!」
イルフォンス
「アル…傷はもう大丈夫なのか?」
りん
「急所は外れておりました…私の心術で完治しましたのでご安心ください」
イルフォンス
「そうか…それは良かった…ホントに…ッ」


ホッと安心するイルフォンスの姿を見たガザフは、


ガザフ
「イル…お前が気絶した後の話なんだが―…」








ガザフは一通り、イルフォンスが気絶した後の出来事を事細かに説明した。
それをイルフォンスは、冷静になった頭で聞いていく。
そして説明が終わると、彼は小さなため息をついて、


イルフォンス
「そうか…そんなことが…」
ガザフ
「教官は…お前の事を気にかけていたらしい。…過去に捕らわれるお前を…な」
イルフォンス
「…なにが気にかけているだ…こうなったのは…他でもない、アイツのせいじゃないか!」
ガザフ
「…たしかに…お前の言うとおりだ。だが…教官もお前と同じ境遇にあったんだぞ…」
イルフォンス
「え…?」





それは…今から13年前、例の事件が起こる1年前の出来事だった。
教官には長年連れ添ってきた妻がいたんだ。
その妻がな…盗賊であるエルフ種族に襲われて殺されたんだ。
死んだ妻の亡骸を見た教官は…生きる意味を失った。
…そこに悲しんでいる教官を察してか、オルグユはグリュエル騎士団へと勧誘し…そして教官は入団したんだ。

それから教官は変わってしまった。
狂気的な行動をとるようになったんだ…。
まるで…妻が死んだことを忘れるかのように、教官は沢山のヒトを殺していった。






イルフォンス
「……ッ」
ガザフ
「……お前と教官は似ている。ただ…お前は早くに自分の過ちに気が付いた。…それが、お前と教官との違いなんだろうな」
イルフォンス
「……僕は…」
ガザフ
「俺も…ルーシィが死んだと思っていたあの時…落ち込み精神が崩壊し…自暴自棄になっていた時期があった。俺も道を間違えていたら…教官のような事をしていたのかと思うと…今でも頭が痛くなる」
イルフォンス
「ガザフ…さん…」

フレイ
「親父!!イルッ!!」
ガザフ・イルフォンス
『!?』


フレイの突然な大きな声に、二人は異常なくらい肩を大きくびくつかせて驚いた。
近くで拾ってきた丸太に座っていたはずのフレイは立ち上がり、真っ直ぐと二人を見つめていく。


フレイ
「かあさんが言ってたんだ。悪人とはいえ…そいつらにも悪人になってしまった原因が必ずある。だから…誰も恨まず…真っ直ぐ見つめていける心を持てって…」
イルフォンス
「誰も恨まず…真っ直ぐ見つめていける心…」
ガザフ
「コニスの口癖だな……あいつ…ッ」
フレイ
「オレ…最初はさ、すぐ怒ったり恨んだり…憎んだりしてた。でも…ネリアやアルや親父や皆、とうさんとかあさんの支えと言葉のおかげで…オレは間違いに気が付くことが出来たんだ」
アルヴォンド
「フレイ…」
フレイ
「ヴォルティスは確かに悪い事をしてきた…でも、アイツにだってそうなる原因があったんだ。心は俺たちと同じ…ただ、道を間違えただけなんだよ」
りん
「…そうですね」
フレイ
「でもさ…親父とイルのおかげで…アイツは間違いに気付けたのかもしれねぇ。だから…イルや親父にあんな言葉が出たって…オレはそう思ってる」
フィーネ
「…フレイちゃんの言うとおりよ」
イルフォンス
「フィーネさん…あいつの記憶を見ていたんですか…?」
フィーネ
「ぇえ…。イルちゃんがあのヒトを襲撃し救出されてから…彼は自分の過ちに気付く事が出来たの。今は少しずつだけど、正しい道を歩んでいってる。…イルちゃんのようにね」


フレイとフィーネの言葉を聞いたイルフォンスは、ふと頭の中にとある言葉が思い浮かんできた。



『イル…よく聞きや。悪いヒトは生まれた時からずぅううっと…悪いとちゃうんや。理由があったからそうなった。その原因を探り救い出すんが…自分たちの役目や。記憶の端っこでよぉ覚えておきや…いつか必ずこの言葉が…自分らを助けてくれるやさかい…』



イルフォンス
「…!……父さん…ごめん…なさい…ッ、今更……僕は…ッ」
アルヴォンド
「イル…もしかして、今おとんの言葉を…ッ」
イルフォンス
「僕は最低だ…お父さんの大事な言葉を忘れていたなんて…僕は…ぼくは…ッ!」


ポタポタ…っと、俯いてイルフォンスは大粒の涙を流す。
自分を責めるイルフォンスを見て、フレイはふわりと微笑むと、


フレイ
「…お前ら双子だよな…本当、つくづく思うよ」
アルヴォンド
「な…?!ど、どういう意味やフレイ!!;」
フレイ
「そのまんまの意味だよ!…でもよ、アルとちげぇのは…仇をとる為に自分を見失っちまうところだよな〜…なんて。…なぁ…イル、今思い出しても良かったと思うぜ?今日からその言葉を忘れないで、この先過ごしていけばいいだけの話なんだからよ」


揺らぐ木々と風の音が辺りに響き渡る。
そしてイルフォンスは俯いたまま…静かに笑い始めた。


イルフォンス
「…僕の時間はあの時から全然動いてなかったんだね…心も周りも…ずっとひとりぼっちのままだった…僕は…―」

フレイ
「一人ぼっち…か…、前向け…イル!」


目を見開いて驚いたイルフォンスは、俯いていた顔を前へと向けていく。
そして視線の先には…彼の仲間が皆立ち上がって優しく微笑んで見つめている姿が見えた。



フレイ
「…どうだ…イル。これでもお前は…一人ぼっちって言えんのかよ…?」


フレイの言葉に、イルフォンスは更に涙を流し…そして自然な笑みをこぼしては、


イルフォンス
「はは…そうだね。僕は…昔のような一人ぼっちなんかじゃない。…僕にはフレイたちがいる。皆と出会えて…本当に良かったよ…ありがとう皆…ッ」



イルフォンス
(僕は…最後にヴォルティスを殺したことで…仇は終わり、自分の今まで行ってきた行動に間違っていると気付いて…前を向いていたと思っていた。…でもそれは違って、今まで僕の心は…あの時から全く進んでいなかったんだ)

イルフォンス
(フレイたちのおかげで…それに気付くことが出来た。僕は…やっと前を向いて歩くことができる。変わってみせるよ…父さんのような、誰かの心を救えるようなヒトに…!)

イルフォンス
(どうか…遠くから見守っていてください。そして…また道を外しそうになったら…夢の中で僕を叱ってください…父さん、母さん…)













『悪人とはいえ…そいつらにも悪人になってしまった原因が必ずある。だから…誰も恨まず…真っ直ぐ見つめていける心を持て』


ガザフの脳裏にはフレイのあの言葉が延々と流れていた。



ガザフ
(俺は…コニスやスティルたちの言葉を信じて、お前が道を違えてしまった原因をあれから探してきた。…だが…あれから12年、何も分からないままだ。…俺は、闇に染まってしまったお前の原因を知りたい。何故お前はこの天空世界(スカイピア)に来ているんだ?…なぁ、教えてくれオルグユ…ッ)
「パパ…」


小さな幼い声が耳に入り、声がした下の方へと向くと…そこには愛娘であるメルがガザフの服の裾を握りしめて心配そうに見つめていた。
すぐに察したガザフは優しく抱きしめると、


ガザフ
「メル…パパはな、友達のオルグユがどうして悪くなったんだろうって…ずっと考えていたんだ。でも…ずっと分からない。どうしたら…わかるんだろな…」


珍しく弱音を吐くガザフに少し驚きつつも、メルは


メル
「…う〜ん…!」


…っとメルは唸り声をあげ、抱きしめられながら答えを考えていた。
自分の子供になんてことを言うんだと…後悔し「気にするな」と口にしようとした。
―が、何かを思い出したメルは、間髪入れず大きな声でこう言った。


メル
「分かった!メルね…オルグユはずぅうっと…一人ぼっちで寂しいからと思うんだ!!」
ガザフ
「ひとり…ぼっち…寂しい?」
メル
「うん!あのね…メル、ガルヴァンで初めてオルグユを見た時…あのおじさんすっごく寂しくて…悲しそうな目をしてたの。…なんか、助けて!って言ってるような…」
ガザフ
「……」


何故助けを求めているのだろうか…何が寂しくて悲しいのだろうか?ガザフは必死に考えていた。
だが…今必死に考えても何も浮かびはしなかった。
ガザフは大きなため息を吐くと、そんな父親の姿にメルは力いっぱい喝を入れるように思い切り胸を叩く。
少し痛いのか、若干顔を歪ませてメルを解放し顔を向き合わせた瞬間、愛娘に思い切りデコピンされてしまう。
驚きを隠せなかったガザフは少し痛むおでこを手で抑えて、目を見開き、動揺を含んだ声を発した。


ガザフ
「め…メル…ッ?!」
メル
「答えは簡単!直接オルグユにあって話せばいいの!オルグユも同じヒト…話せばきっと分かるよ!!…ママも…ね」
ガザフ
「…メル…!」


どうしてこんな簡単な事に気付けなかったのだろうか…と、頭が固くなっているガザフは頭が柔らかいメルの言葉のおかげで悩みが簡単に解決してしまった。


ガザフ
「そうだ…な。メルの言うとおりだな!会って話して…そんで一発殴って目を覚まさせてやる!!そうすれば…アイツの行動のワケがきっと分かるよな…」
メル
「うん!その意気だよパパ!」
ガザフ
「それに…ママは今、生心力(ヴィオゼーラ)はないけど意識はまだあるんだ。俺達のことをまだ覚えているに違いない。次逢ったら…必ず俺たちの親子の絆というものを見せつけようじゃないか!」
メル
「あはは、そうだね!…メル…ホントは闘うのすっごくこわいけど…でも、ママを救うためだと思えば…我慢できる!!闘っていくって…メル決めたの」
ガザフ
「…フッ、俺の見ないうちにこんなに成長していたんだな…メル。そうだな…一緒に戦おう…メル」
メル
「うん!メル…もっと強くなるよ…ママとパパの為に…ね♪」



この先…どんなことが起こっても、親友であるオルグユと妻であるルーシィの心を救い出してみせると…心の中でガザフは誓った。
そしてメルも同時に…母であるルーシィと一緒に暮らせる日を迎える為に、戦っていく覚悟を決めたのであった。
親子の絆…友の絆。
―…これは…誰にも切れぬ強靭な糸となって繋がっている。
永遠に…この糸は切れることはないだろう。















皆が疲れて寝静まった頃、キィリルは見張り番の為起きていた。
布を身体中に纏い、ボケーっと焚火を見つめていた。

―刹那、ふと自分のうしろに気配を感じた彼は…生心力(ヴィオゼーラ)をイヤリング型の通信機器に込め…心の中でその気配に向かって問いかけ始めた。



キィリル
《なんだ…僕を説教しに来たのか?シュタルク…レイラ》



キィリルから3mほど離れた場所の木々の中に…4大騎士であるシュタルクとレイラがいた。
3人は耳に付けているイヤリング型の通信機を使って会話を行っていく。



シュタルク
《心配いたしましたぞ…気配をさがして追ってみればこんなところにいたとは。しかも地上人と天空神様と守護騎士と一緒に行動しているなんて…ッ。一体何をするおつもりですか…キィリル坊ちゃん》
キィリル
《言っただろう。僕はローリアンスが気に食わないって。アイツの思想は全部間違ってる…僕はあいつの計画を止める為にこうやって別行動をしてる。あと…計画を止めるための過程がこの子たちと一緒なだけだよ…特に深い意味はない》
シュタルク
《左様…でございますか…ッ》


驚いたシュタルクの声を聴いたキィリルは、少し眉間にしわを寄せると、


キィリル
《シュタルク…君はローリアンスの使用人なのに、主の悪口なんか聞きたくないよね。ごめん…》


すこしトーンの落ちた声で申し訳なさそうにつぶやいた。
だが…次のレイラの言葉でキィリルは耳を疑ってしまう。


レイラ
《何を言ってるのキィリル…あたしとシュタルクの気持ちは…貴方とおなじよ》
キィリル
《え…?!》


キィリルは驚いた。
この考え方は…4大騎士の中ではキィリルただ一人だと思っていたのだ。
ずっと1人で考えてきた…誰にも愚痴をこぼすことも頼ることも出来ずに。
それが今…一瞬にして崩れ去っていった。
彼と同じ考え方をした人がいることによって…。


シュタルク
《私も…坊ちゃまの考え方には同調できません。天空人の恨み…それは本当に今皆が思っている事なんでしょうか?否…そんなわけがありません。坊ちゃまは勘違いしております。ですから…私もどうにか…事が大きくならない内にこの計画を止めたいと思っております》
レイラ
《あたしはどうでもいいけど…でも、喧嘩するより…仲良く暮らした方がいいのは…あたしでも分かる。だから…アイツと…あとあの暑苦しい筋肉バカのロヴェルがムカつくから…阻止する。ただ…それだけの事よ》
キィリル
《シュタルク…レイラ…》


キィリルは…ふと、数時間前にあった…イルフォンスとガザフの事が脳裏に浮かびあがってきた。
そして彼も思う、ひとりぼっちではなかったのだ…と。
心が一瞬にして暖かく感じていった。


シュタルク
《さて…本題と参りますぞキィリル坊ちゃま。今現在…深刻な事態が起こった次第でございます》
キィリル
《し…深刻な…事態…?》


シュタルクの謎な言葉を聞いて、キィリルは少し焦りを見せる。
そして…次の言葉で…キィリルの思考は固まってしまう。


レイラ
《昨日の午後17時…地上世界(アスピア)の国王より“宣戦布告”がきた…との報告があったの》
キィリル
《え…宣戦布告…だって?!ろ、ローリアンスはそれを受けたのか!!?》
シュタルク
《いいえ…どうやら坊ちゃまはまだ準備が整っていないため…受けていないようです。ただ…いつ相手がこちらを襲ってくるのか分からない状態でございます…もはや冷戦状態、戦争が起こるのも時間の問題ですな…ッ》
キィリル
《くっそ…アイツは一体何の準備をしているんだッ…!》


動揺を隠せないキィリルに対し、シュタルクは冷静な声でこう言った。


シュタルク
《古代戦艦アウローラ…》
レイラ
《古代戦艦…アウローラ…?》
キィリル
《なんだ…それは?》
シュタルク
《お食事を運ぶときに…扉の前に立っていた所…部屋でそう呟いていたのが耳に入りましてな。…準備とやらは…かつて地上人を大量虐殺するために使おうとしていた“古代戦艦アウローラ”の復活のようです。…この話を知っているのは代々使用人として任務を全うしてきた…私の家系だけしか知らない機密情報のはず。…一体坊ちゃまは、何処からその情報を知り得たのか…ッ》
キィリル
《そんな恐ろしい兵器がこの天空世界(スカイピア)に…?!それは一体どこにあるんだ!!》
シュタルク
《保管されている場所は…確かガーディアンで―…?!》


一瞬、時間が止まった。


レイラ
《ぇ…ガーディアンって…まさか…!?》
キィリル
《…かった…分かったぞ!これでやっと繋がった…ローリアンスの行動の目的がはっきりした!》


そのキィリルの声は、今まで分からなかった問題がウソのように解けてうれしい感情が現れていた。


シュタルク
《そうか…!古代戦艦アウローラが眠る場所へ行くには…守護騎士である証を必要とします。そして…動かすためには天空神様が受け継いできた『クリーヴ』、そしてカエレスティス様が持っているとされる宝珠が鍵となる。私としたことが…もっと早くに気付いていればこんな事には…ッ!》
レイラ
《今更嘆いたって仕方ないわ…それに、もう歳だから仕方ないのよ…シュタルク》
キィリル
《でもこれでやっと分かった…ローリアンスがなぜガーディアンを襲い天空神様のみならず守護騎士皆をシエル王国へと連行したのか…》
レイラ
《あ、あともう一つ。…あの天空神様たちが何らかの拍子で陛下の部屋に入ったことがあって…。何故陛下が何も言わないで逃げ道を作ったのか…それも分かったわね》
シュタルク
《天空神様たちがカエレスティスの所へ行って宝珠を取りに行くことを読んでいた…ということですな?》
レイラ
《それ以外ありえない…陛下はこの事を読んでいた、そして…》
キィリル
《宝珠を授かったのを見計らって…暗殺と同時に宝珠を奪う…か。ハッ…ローリアンスらしい惨いやり方だよ》


静かな風の音と焚火のパチパチとした音が静かに響き渡る。
そして訪れた沈黙
すぐにそれはシュタルクの声で切り裂かれた。


シュタルク
《さて…私たちはそろそろシエルに戻りますか…》
レイラ
《そうね…》
キィリル
《二人とも…ありがとう、これからもよろしく。あと…気を付けて》


キィリルの言葉を聞いた二人は、同じタイミングで小さく笑うと


レイラ
《…また何か進捗があったら連絡しに来るわ》
シュタルク
《キィリル坊ちゃまも気を付けて。…坊ちゃまがこの先何を起こしてくるのか分かりません…身体にお気をつけて事にあたってくださいませ》





キィリル
《ぁあ…》



キィリルが返事をした瞬間、レイラとシュタルクの気配が無くなった。
そして生心力(ヴィオゼーラ)を込めるのを止めて通信を終える。
同時に、タイミングよくガザフが起きてきた。



キィリル
(そうか…もう交替の時間か)
ガザフ
「ふぁ〜…!お疲れキィリル…ゆっくり休んでくれ」


キィリルの肩に軽く手を置き、ガザフは交替の合図を出してはそう言った。
その言葉を聞いて、キィリルはふわりと笑みをこぼすと


キィリル
「ありがとう…ガザフ、では…おやすみ」
ガザフ
「おう…おやすみ」



短い会話を交わして、キィリルは身体を寝かせて布を体全体に掛ける。
そしてゆっくりと目を瞑った。


キィリル
(ローリアンス…その計画を、僕が止めてみせる。たとえどんな方法を使ってでも…ね)


そう心の中で決意の言葉を口にすると、キィリルは一人じゃない安心感に包まれながら眠っていった。









NEXT…


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あきゅろす。
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