物語 第8話 魔怨者(カルト)と謎の事件 キィリル 「今から話す事は他でもない…今この天空世界(スカイピア)に起こっていることだ。…それはいずれ君たちに降りかかるだろう」 フレイ 「…オレ達に…降りかかる事…?」 天空世界編 第8話 魔怨者(カルト)と謎の事件 キリクは自宅に皆を招き入れ、続けてキィリルが口を開いた。 キィリル 「…天空世界(スカイピア)は蝕死力(ブラジェーラ)で出来ている。そして蝕死力(ブラジェーラ)を生心力(ヴィオゼーラ)に変換する役割を天空神であるネリア様が行っているのは皆も知っているな?」 ガザフ 「ぁあ…知っている」 キィリル 「次から話すことは、ネリア様も…あまり誰にも知られていない事実だ」 ネリア 「私も知らない事…だと…?」 キィリルのその言葉から少し間が出来、そして再びキィリルが口を開く。 キィリル 「ネリア様がローリアンスの武力干渉によりアリアを歌えなくなってしまってから今日までの間、ネリア様の代わりの役割を担っていたモノが蝕死力(ブラジェーラ)を浄化していたんだ」 ネリア 「なんだと!?」 ウォード 「それは一体誰だというのだ!」 キィリル 「君たちも知っている通り、この天空世界(スカイピア)は聖獣カエレスティスが見守っている。だが誰もその姿を見たことがない故、存在しているかどうかも怪しまれていたんだ。もちろん、僕も疑っていたうちの一人だけどね…」 アルヴォンド 「!まさか…ッ!」 キィリル 「そう…聖獣カエレスティスは間違いなく存在していたんだ。ネリア様と同じく…蝕死力(ブラジェーラ)を生心力(ヴィオゼーラ)に変換する役割を背負ってね…。ネリア様がいなくなった代わりを聖獣カエレスティスが行っていたんだ」 緊迫した空気が辺りを漂っていた。 フィーネ 「ちょっとまってちょうだい。ネリアちゃんがアリアを謳えた時でも…カエレスティスも同様に何かしらの方法で生心力(ヴィオゼーラ)に変化させていたのよね?ネリアがいなくなった代わりも負担したのであれば…力が及ばないんじゃないかしら?」 イルフォンス 「確かに…もう1人分を負担することになるんだから、その分をどうやって補って…」 キィリル 「…聖獣カエレスティスは不足分を、ヒトの生心力(ヴィオゼーラ)を犠牲にして補っていたことが分かったんだ」 フレイ 「な…ッ!?」 ネリア 「何という事を…!」 キィリルの告白に皆は凍りついた。 キィリル 「また…聖獣カエレスティスを保護し、また生贄となるヒトを受け渡す役割を持つ“魔怨者(カルト)”というヤツが居るんだ。そして魔怨者(カルト)に生贄にするヒトを探しては捕獲し渡す橋渡しを盗賊が担っていると噂が出ていたが…僕はその一部始終を見て確信したよ。…確かにその噂は本当だったんだ」 そうキィリルは言うと、両手を前に出すと光の球が現れる。 そしてまぶしくなったかと思うと、その光が無くなり何かが現れた。 それは―… キィリル 「彼らが立ち去った後に…これが落ちていたんだ」 イルフォンス 「それは…貸してくれ!!」 イルフォンスはそれを見た瞬間、目を大きく見開いて驚くとキィリルの所に駆け寄り、彼の手にしているモノを奪い取ってじっと見つめ始めた。 彼の行動に皆は驚きつつも、イルフォンスが手にするモノを見て既視感を覚えた。 フレイ 「あれ…それ、たしかどっかで見たことが…ッ」 イルフォンス 「間違いはないよ…これは…ッ!」 イルフォンスが手にしているモノ―…それは、手のひらサイズの小さいハンマーと柄の下の鎖の先に小さな玉がついている武器のようなものであった。 キィリル 「君の知り合いかい?」 イルフォンス 「……あぁ、これは…アニエスの武器だよ…間違いない。どうしてアニエスは天空世界(スカイピア)に…?!」 フレイ 「もしかして…他のグリュエル騎士団も此処に来ているんじゃ…!」 ガザフ 「オルグユ…ッ」 キィリル 「なるほど…何らかの形で君たちの世界の騎士団がやってきて…次々と彼らを盗賊たちが襲っては魔怨者(カルト)に身柄を引き渡す。そして聖獣カエレスティスの餌食にしている可能性が高いかもしれないね。…ここ最近、このような神隠しに似た事件が、ネリア様が天空世界(スカイピア)からいなくなった時期に比べて…今は異常なくらい多発しているからね…」 キィリルの言葉を聞いたフレイは、イルフォンスより前に出るとキィリルの目をじっと見つめ、 フレイ 「なぁ…聖獣カエレスティスがいる場所を教えてくれねェか?」 キィリル 「!!」 ガザフ 「フレイ?」 フレイ 「もしかしたら…オルグユやアニエスたちが、そいつの所にいるかもしれねェンだろ?なら…オレは助けに行きてぇと思ってる」 アルヴォンド 「んな…何言うとんのやフレイ君!つい最近まで戦ってた敵を助けに行くやなんて…もしかしたら罠かもしれへんやろが!」 フレイ 「それでもかまわない!罠なら戦えばいいだろ!!オレは…アイツらを…見捨てる事なんて出来ねェ…ッ!」 ネリア 「フレイ…お主…ッ!」 背中を僅かに震わせながら喋るフレイ、続けてイルフォンスも全員に語り掛ける。 イルフォンス 「僕からもお願いだ。…何故アニエスたちが此処に来ているのかを知る為に、聖獣カエレスティスの所に行かせてくれ…」 フレイ 「イル…」 イルフォンス 「僕は彼らと共に長い時間を過ごしてきた。裏切ったとはいえ仲間であり家族のような温かさもあって楽しかったんだ。だから…その家族を…ぼくは放ってはおけない…ッ」 ガザフ 「…皆、フレイとイルの意見に異論はあるか?」 りん 「そこまで聞いてしまったら…反論なんて出来るわけないじゃないですか」 フィーネ 「助けに行きましょう…彼等達を♪」 メル 「あのお姉ちゃんお兄ちゃんたち怖かったけど…きっと心はやさしいはずだよ!」 ウォード 「貴様に賭けよう…」 ネリア 「私も…聖獣カエレスティスというモノに会ってみたいからのぅ」 アルヴォンド 「仕方あらへんなぁ…行こか」 イルフォンス 「…ありがとう」 フレイ 「よし、決まったな!キィリル…教えてくれねェか?」 皆の意見が固まったのを見て、キィリルは再び口を開いた。 キィリル 「僕が調べた結果…ここから遠く離れた森…その奥にある山の洞窟にいることが分かったんだ。クッティルのワープを使って違う大陸に行って、そこからしばらく歩くことになるね」 フレイ 「なるほどな…」 キィリル 「移動道中、君たちに魔怨者(カルト)が襲いかかる可能性が高い。だから僕も君たちの旅に同行させてくれないだろうか?」 アルヴォンド 「ぇえ!?」 キィリル 「僕はローリアンスの計画を阻止するため、また聖獣カエレスティスの行動を阻止するために世界中を動き回っている。そして君たちは地上世界(アスピア)に戻るため…仲間を救うため…最終的な目的は違っていても、そこに至る過程は同じだと思っている。お互い…世界中のヒトを救いたいとおもっているからな…」 フレイ 「確かにそうだな…よし、いいぜ!よろしく頼むな、キィリル!!」 キィリル 「少しの間だけど…君たちの役に立てるように頑張るよ」 そう言うと、フレイとキィリルは握手を交わす。 そして天空世界(スカイピア)都市シエル王国4大騎士の一人キィリルが仲間に加わった。 キィリル 「説明も終わったことだし…君たちに身に付けて欲しいものがあるんだ」 そう言うと、またキィリルは光の球を出し、その光が無くなったかと思うと何かが入った袋が彼の手のひらの上に出てくる。 フレイ 「なんだ…それ?」 キィリル 「これは僕たちの天空騎士が使っている通信機器で、イヤリングとして耳に付けるんだ。そしてこれに生心力(ヴィオゼーラ)を込めることで、付けているヒト同士かつ特定の相手に対して離れていても連絡が取ることが出来るモノだ」 フレイ 「すげぇ…!こんなの初めて見たぜ!!」 ガザフ 「そういやウォードもキィリルも、光で出来た剣で戦っているな…」 キィリル 「もしかしたら天空世界(スカイピア)の方が地上世界(アスピア)より技術が発展しているのかもね…地上世界(アスピア)にはこういうモノは無いのかい?」 フィーネ 「ぇえ、初めて見たわ」 ウォード 「私とキィリルの武器は生心力(ヴィオゼーラ)を込めることで剣を生み出す事が出来る指輪なのだ。かさばらないし移動する時も楽だからな」 キィリル 「そういうことだ。さて、このイヤリングを予備用として沢山用意しておいた。離れていても連絡を取り合えるようにしよう」 フレイ 「わかった…サンキュ!」 そう言いうと、皆はキィリルから渡されたイヤリング型の通信機器を耳に装着していく。 その最中、キリクはキィリルに近付くと静かに言葉を放った。 キリク 「あなた…私に剣を向けておいて私に言うことが何もなかった…なぁんて言うんじゃないでしょうね?私に何か用があったんじゃないのかしら?」 キィリル 「ぁあ…忘れていたよ。キリク…クッティルの噂によると、君の所に一度怪しいモノが来たと噂があった…それは本当なのかい?」 キリク 「怪しい…ぁあ、あのよくわからないヒトかしら…それがどうかしたの?」 キィリル 「実は…盗賊たちを捕えて話を聞いた事があってね、魔怨者(カルト)らしき人物の特徴が蒼いフードを全身に多い被ったヒトだという共通点があるんだ」 キリク 「!!」 キィリル 「君が見たヒト…それは間違いなく蒼いフードをかぶっていたヒトなのか?」 キリク 「ぇえ…あなたの言うとおりだわ。急に私の家にノックをして現れてきた…そして奴はこう言ってきたの」 『君の所に…患者はいないか』 キリク 「その時、私は気持ち悪くて…患者はいないと返事をしたわ。そしたら奴は何も言わず私の目の前で姿を消していった。まぁ、実際患者はいたけどね。気持ち悪くて本当のこと言ったら…だめな気がして…言えなかったのよ。今思うと…言わなくて正解だったのかもしれないわね…」 キィリル 「…本来は魔怨者(カルト)は自ら動かず、門番のように聖獣カエレスティスが棲む洞窟の前に立っていると聞いた。それが今は自ら動いている…となると、よほど生贄となるヒトが足りていないんだな」 ガザフ 「病気や弱っているのヒトの生心力(ヴィオゼーラ)を生贄にしようとしていたのか…」 りん 「酷い…まだ生きているのに、弱い人たちを狙おうだなんて…ッ」 フレイ 「ぁあ…奴らのやっていることは絶対許せねぇ。…だから、俺達がなんとしてもその行動を食い止めようぜ!!」 フレイの言葉に同調するように、仲間は皆うなずいた。 フレイ 「よし、準備が整ったし…行くか。ありがとうキリク!」 キリク 「気をつけて行きなよ♪」 フレイ 「じゃあなー!また来るよ―!」 そう遠くなっていくフレイたちの姿を見て、キリクは軽く手を振った後、空を見上げて小さくため息を吐く。 キリク 「いつか…この世界が一つになればいいなぁ…なんて!さてと…家の掃除でもしますか!!」 元気よく言うと、キリクは家の中へと戻っていった。 場所は変わり此処はとある湖のほとり。 そこには意識を取り戻したばかりのオルグユの姿があった。 オルグユ 「僕は…弱い!!奴に勝てなかった…ッ」 そう叫んでは大粒の涙を流して悲しんでいるオルグユ。 その後ろから、怪しい影が。 ??? 「では…償いの為…貴様の心を使って世界の役に立ちたくはないか…?」 オルグユ 「え…?」 ??? 「ヒトは醜い…過ちを犯し過去に捕らわれ前に進むことができない哀れな生き物だ」 ??? 「ハッ!その通りでございます…聖獣カエレスティス様…!」 暗い所から現れてきたのは、聖獣カエレスティス。 その姿は白いライオンに似ており、額にユニコーンのような細長い角をもち、背中には大量の水晶を背負っている、体長2mから3mほどの大きな獣であった。 聖獣カエレスティス 「魔怨者(カルト)よ…生贄は…」 魔怨者(カルト) 「いつもの場所に集めております…しかも今回は珍しく地上人です」 聖獣カエレスティス 「ふむ…ヴィオゼリンクが無くなったことにより地上人が天空世界(スカイピア)に訪れるようになってしまったとは…これから先戦争が起きてしまうのではないか…?」 魔怨者(カルト) 「カエレスティス様が気にする程の事ではございません。カエレスティス様はいつものように御身の役目を全うしてください」 聖獣カエレスティス 「…分かった。それでははじめよう」 魔怨者(カルト) 「ハッ!それでは…私は門番を務めます故…どうかお気を付けて事にあたってくださいませ…」 そう言うと、魔怨者(カルト)はこの場からワープして聖獣カエレスティスの前から姿を消していった。 聖獣カエレスティス 「…このままだとこの星は滅んでしまう…その前に何か手を打たねばな…」 噂の聖獣はそう呟くと、重い体を動かして闇の中へと消えていった。 NEXT [*前へ][次へ#] |