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物語
第27話 生きる資格





フレイ「はぁ…くッ…!」


戦い始めてから30分は経っているだろうか、
皆が疲労の色が見始め、体中血だらけになりながらも応戦していた。

また、ウォードも同じ。
身体中傷だらけで血まみれになりながらも、まだ戦おうとするウォードに、皆焦りを感じていた。
このままだと、本当にウォードは死んでしまうと


イルフォンス「どうしてだ…此処までくれば元に戻るはずなのに…ッ」
りん「やめてください…ウォードさん!目を覚ましてください!!」
ウォード「ぅう…はぁッ…がふッ!!―はぁッ、ァアアアアアアアアアアアア!!!!」
フィーネ「!!や、やめなさいウォードく――」







―−ブジュゥ…ッ








第27話 生きる資格








フレイ「…ぇ?」




ウォード「ガフッ…ッ!!!」


りん「―…ッ?!」
メル「キャァアアアアアアアアアアアア!!!!」
イルフォンス「…?!」
フィーネ「…ぁ…ッ!」

アルヴォンド「何が起きとるんや…ッ」





皆、目の前の光景が理解できなかった。
ただ、フィーネを覗いては。

それは、ウォードが自ら自分の腹部を自分の剣で突き刺したのだ。

思わぬ行動に、皆呆然とした。


そして、ウォードは笑みをこぼして、



ウォード「     」


何かをしゃべったかのように、口をパクパクしたが、声は聞こえず、そして刺した剣を抜き取って、そのまま剣と一緒に地面へと倒れていった。


フレイ「!ウォ……ウォードッ!!!」
りん「どういう…事なんですか…ッ?」
フィーネ「…彼が自分を刺す直前、一瞬だけ意識を取り戻したの。その時…なんて言ったと思う?」


フレイ「ウォード!!しっかりしろよ!!!おい!!」



フィーネ「殺してくれって…言ったのッ…」
メル「ぇ…?」
イルフォンス「…どうして、彼はそう思ったんだ…?」


フレイ「りん!!ウォードを…助けてくれよ!!」
りん「!は…はい―…?」


フレイの声を聴き、りんはウォードに駆けつけようとしたが、りんの視界が一瞬暗くなり、そしてりんは力なくその場に倒れてしまった。


フィーネ「!りんちゃん!!」
りん「ぁ、あれ…?力が…でない…ッ?」
フィーネ「心術の使いすぎね…」
りん「でも、私は…ウォードさんを助けるために…ッ!」

イルフォンス「僕に任せてよ…出でよ“アニマ”!!」


そうイルフォンスは淡い緑を基調とした女性の姿をした精霊“アニマ”を出す。


イルフォンス「彼女は癒しの精霊、回復の神様さ。―…フレオリジェネレイション」


そうイルフォンスが言った後、アニマは歌い始めた。
その歌声は、やさしくこの場に癒しを与える。
すると、ウォードのみならず、傷を負っている全てを治した。
人だけではなく、折れた木々も元の木の姿へと戻る。
そして歌が終わると、アニマはイルフォンスをやさしく抱きしめて微笑んだ。


イルフォンス「ありがとうアニマ」


そうイルフォンスはお礼を言うと、また笑顔をこぼしたアニマは姿を消していった。
そして完治したウォードを見て、フレイはホッと胸をなでおろす。


フレイ「ありがとうイルフォンス、助かったよ」
りん「ありがとうございます」
イルフォンス「気にしなくても良いよ、助け合いさ」


すると、ウォードが動き出し、重たい瞼をそっと開かせた。
その様子を見て、りんも駆けつける。


りん「良かったです…ウォードさんッ…!」
ウォード「……」
りん「?ウォードさん?」


よく見ると、ウォードの瞳は何も映っていなかった。
何か様子がおかしいと、皆が感じる。

すると、ウォードは自分の右手の近くにある自分の大剣を目にすると、すぐに手にし始めた。


フレイ「―ッ!?そうはさせるかよッ!!」


何かを察したフレイはとっさに大剣を掴んだウォードの右腕を右足で踏みつける。


ウォード「ぐぁッ…!!!」
フレイ「うりゃぁあ!!フィーネ!それを持っててくれ!」
フィーネ「ナイスよフレイちゃん!」


痛みで声を上げたウォードは、大剣を掴んでいる手を離して、それを確認したフレイは左足で大剣を思い切り蹴ってウォードから距離を離させた。
離れた大剣をフィーネに持つようフレイは声を上げると、フィーネはその通りにウォードの大剣を手にしては更に距離を遠ざける。
それを確認が取れたフレイは、ウォードの上に跨り、思い切り彼の胸倉を掴んだ。


フレイ「どうしてあんな馬鹿な真似したんだテメェッ!!!!」
りん「!フレイさん何もそこまで―」
フレイ「りんは黙ってろ!!」
りん「!!」


フレイの剣幕に、りんは驚いてその場で固まってしまった。


フレイ「おい…なんとか言えよオラァア!!ぁあ?!」
ウォード「……」
フレイ「!!」


―パタ、パタタ


光が映らない赤黒いウォードの瞳から静かに涙が零れ落ちている。
それを見て、フレイは驚た。


フレイ「…お前、ネリアのあの告白から…様子がおかしくなったよな?特にネリアに対して」
ウォード「…ッ」
フレイ「いつものお前だったら、オレがネリアに近付くと怒ってきたりするのに、あの時から怒ってこなくなった」
りん「そういえば確かに…ッ」
フレイ「なぁ、何があったんだよ?お前が死にたいと思った理由を聞かせてくれよ…なぁ?」


その問いかけに、ウォードはゆっくりと口をあけた。


ウォード「…ネリア様がグリュエル騎士団に連れて行かれた事に、私は安心しているんだ」
りん「え…!?」
フィーネ「…ッ」
アルヴォンド「ウォード…」
ウォード「酷いだろう?嬉しいんだ…喜んでいるんだ!!私の生心力(ヴィオゼーラ)はッ!!!!」


そう叫ぶと、ウォードは右手を思い切り地面に殴り始めた。


ウォード「分かってる!!悪いのは全てあの新国王だって事も!!全ての原因はあいつだって事も!!なのに…私の心は……ネリア様を恨んでいる…憎んでいるんだ…ッ」
フレイ「…」
ウォード「黒い気持ちが私の心を支配している…ッ、私は…私はもう…ッ、ネリア様の傍にいる資格も…お前達と一緒にいる理由などもう無くなった!!だから…死のうと思った…それの何がいけないんだッ!!!!」
フレイ「――…ッ!!」



―ドゴッ


フレイは思い切り、ウォードの頬を殴った。
そして更に2発、3発と…続けて殴り続ける。


ウォード「…ッ!…貴様が怒って当然だ…ネリア様を恨んでいるこんな生心力(ヴィオゼーラ)なんか…体なんか…」
フレイ「オレは怒っているのはそんな事じゃねぇよ!!」


そう叫ぶと、フレイはまた胸倉を掴んで顔を近づけると、


フレイ「テメェが…自分から死のうとした事にムカついてんだよッ!!」
ウォード「!?」
フレイ「お前の母さんやダチ…それに…オレの母さんや父さんは…死にたくて死んだワケじゃねぇんだ!!お前は…俺たちは…そいつらの分まで生きなきゃいけないんだよ!!!!」
ウォード「…ッ」
フレイ「自分から死んだら…死んだ自分も…関わった奴らも…お前に生きていて欲しいと願って逝った奴らの想いを無駄にして…自殺なんて…ッ、何よりお前は…」


フレイは更に掴む手をきつくし、


フレイ「ネリアの泣き顔が見たいのかよ…ッ!!!!」
ウォード「――…ッ!!」


フレイの顔は、涙を流し、そう叫んだ。


フレイ「オレは…お前と出会うまでのネリアは泣いてたり、いつも辛そうな顔をしていたんだ。それがお前と会ってからのアイツは…ムカつくほど嬉しい顔をしてるんだよ」
りん「フレイさん…」
ウォード「…ネリア様ッ…」
フレイ「アイツ…お前がいない時、オレの前でこう言ってるんだ」






ネリア『…ウォードは私の息子のような者でな…かけがえの無い、大切な存在なのだ』
ネリア『アイツは…私を恨んでいるだろう。それは覚悟してる。私はそれだけウォードに辛い想いをさせたんだ。だから…私はその重い罪を一生償って生きていく…それが、あいつに出来る精一杯の出来る事だ』









フレイ「ネリアは気付いてるんだよ。お前の気持ちに、だからあいつはお前に何も言わないんだ。お前が話してくれるのを待ってるんだよあいつは」
ウォード「―…ッ、ネリア…様ッ……ぅッ…」


フレイはウォードの泣き崩れる様子を見て、掴んでいた胸倉を離しては立ち上がった。


フレイ「生きて、これから一緒にネリアを取り戻しに行こうぜ…な?」


そう言うと、フレイはウォードに左手を差し伸べた。
それを見たウォードは涙をぬぐい、そのフレイの手を見ると


ウォード「良いのか…私は、お前らを殺そうとして―」
フレイ「何度も言わせるなよ!あと、お前さっき俺たちと一緒にいる資格ないとか言ってたけどよ…間違ってるぜ。相手がお前を一緒に居ていいか判断するんだ。なぁ、どうだよお前ら」


そうフレイが皆に問いかける。


りん「もちろんです!一緒に居てくれないと寂しいですよ…特にネリアさんが…ね」
フィーネ「やっと自分から話してくれたわね…ウォード君。これからも、一人で溜め込まないで、お姉さんでも誰でも良いから愚痴こぼしたり弱みを見せなさい?私たちは貴方の新しい“家族”なんだから♪」
アルヴォンド「一緒に来てくれへんと、フレイくんとウォードの喧嘩見れなくてつまらんのや〜」
イルフォンス「グリュエル騎士団を倒す力…そしてその新国王とやらの事を知っているのは君なんだ。…僕からもおねがいだ、一緒に来てくれないかい?」
メル「メル…ウォードお兄ちゃんの優しい顔を沢山見たいしもっと知りたいし話したいよ!」

???「そうだな…お前が居てくれるだけで心強い…一緒に来てくれないかウォード」


フレイ「!!親父…おきてたのか!!」
メル「!パパ!!」
ガザフ「お前がウォードにのしかかってきたあたりで目を覚ました。話に参加したくても参加できる雰囲気じゃなかったからな…」
ウォード「ガザフさん…」
ガザフ「お前と俺…生きる理由が山ほど出来たな?仲間に沢山助けられて借りも出来た。その倍を…返してあげねぇとな…?」
ウォード「…ッ」


ウォードは、フレイの左手を強く握り締め、そしてそれを確認したフレイは引っ張ってウォードを立ち上がらせる。
フレイの助けによって立ち上がったウォードは皆の顔を見つめると、ゆっくりと笑みをこぼし、



ウォード「ありがとう…皆。改めて…よろしく頼む。一緒に…ネリア様を助けに行こう」
フレイ「おう!!よろしくな黒髪!!」
ウォード「…ッ、何度言えば分かる!私は黒髪じゃなくれっきとした名前があるんだ!!」
フレイ「うるせぇな!!そっちのほうが言いやすいんだからいいじゃねーかよ!」
ウォード「なんだと?!だいたい貴様…私を何度も殴りおって…倍返しにしてやる!!」
フレイ「ぐふぉッ?!…へへ、痛くも痒くもないぜ!そんなの、親父の鉄拳の方が死ぬほど痛いね!」

りん「もう!!二人ともやめてください!;」
アルヴォンド「せやせやそれ!!おもろいなーー相変わらず二人の喧嘩は!!!」
イルフォンス「喧嘩するほど仲が良いって正にこの事だね…ふふ」
フィーネ「いつものウォードちゃんに、皆に戻ってお姉さん嬉しいわ〜♪」


その光景をガザフは幹に体を預けて遠くから見つめていた。









『やめなさい二人とも!!』
『いいぞ〜もっとやれーー!!』
『悪化させるような事言わないでくれ!;』
『相変わらずだな…ったく』
『ほんとに…癒されるな』
『んだと?!だいたいお前のせいでこんな事になったんだろ!』
『ハッ、人に責任押し付けて…ガキくせぇな!』








メル「パパ?」
ガザフ「!!」
メル「パパどうしたの…大丈夫?」
ガザフ「…なんでもないよ」
メル「…生きててくれてありがとう…パパ」
ガザフ「!…それはこっちの台詞だ…生まれてきて、生きててくれてありがとう…愛してるよ、メル」


そうガザフは言うと、メルをきつく、強く、でも優しく抱きしめる。
メルはその行動に驚きつつも、嬉しくてメルも続いてガザフを、父を抱きしめた。


ガザフ「二人で…ママを助けような」
メル「うん…ママとパパと3人で一緒に暮らしたい!」
ガザフ「パパもだよ…」




メルの祖父「なんの騒ぎじゃ…ふぁ〜…!」


メルは飛び起きて聴こえてきた声の方を向くと、家から外に出てきたメルの祖父の姿があった。



メル「ぁあああ!じいちゃんもしかして今まで寝てたの?!」
メルの祖父「おう!…って、その様子だと無事ガザフは治ったようじゃのぅ♪」
メル「もう…じいちゃんったら、一度寝たらどんな音でも起きないんだから…」
ガザフ「迷惑をおかけしてしまい申し訳ございませんでした」
メルの祖父「おう、気になさんな…生きているだけで十分じゃ」





―ぐぅうう〜…




フレイ「ぁ…やべぇ…オレ、お腹へって動けない…」
メルの祖父「ぉお!そうじゃ…今日帰ってくると思ったんで昨日から大量に作っておいた雪熊カレーがあるんじゃ…ほら、家の中に入り!」
フレイ「やっりぃ〜!!ありがとうじいちゃん!」








―ネリア様、私は…あなたに逢って謝りたいことがあるのです。



待っていてください、まだこの黒い気持ちが消えていないですが…正直に向き合って、貴方と面と向かってお話をさせてください。



だから…助けに行くまで、どうか無事でいてください…ッ、今、私、守護騎士に名に掛けて…貴方を助けに参ります。







フレイ「早く来いよウォード!飯が無くなっちまうぞ〜!!」
ウォード「!貴様…全部食べる気か!?そうはさせぬぞッ!!」







ウォードは歩み始めた。
生きて、ネリアに想いを伝えるために…











28話に続く



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