[携帯モード] [URL送信]

物語
第22話 種族と心







真っ黒い、暗闇の世界。

その世界に、ぽつんっと立っているのは寝込んでいたはずのガザフ。





ガザフ「あれ…おれはメルの家の前にいたはずじゃあ…?」


そう言い終わった時、暗闇の中にポツンと淡い大きな円の光が灯された。
その光には―…


ガザフ「メル?!」


そこに元気に動きまわる今のメルが映っていた。
それを見て一瞬微笑むが…次の瞬間、ガザフの顔は曇った。


メル『キャァアアアアアアア!!』
ガザフ「?!!」


メルは何者かに襲われてしまった。
何者かに首を絞めつけられ、苦しめられている。
ガザフはその光に近づき助けたくてもその光に触れることが出来ず助けに行けない…


ガザフ「メル!??やめろ離せ!!メル―」

ガザフは悲痛な叫び声をあげる。
何かを言おうと言葉をつづけようとしたが、目の前の光景に驚いて出てこなかった。


ガザフ「フレイ…?!」

自分の娘の首を絞めるその姿は、フレイだった。
表情はとても冷たく、それはまるでフレイじゃない誰かが乗り移っているようにも見えた。
あまりの衝撃に目を見開いて驚いていると、フレイは首を絞めているメルに向かって剣を向けた…


メル「ぁ…ぁう…!ゃ…フレイ兄ちゃ―」
ガザフ「やめろ…やめろフレイ!!やめ―」



―ブジュゥ…ッ




メル「…コフッ」
ガザフ「ぁ…」


フレイはメルの心臓に深々と剣を刺し込み、メキメキっと骨が砕ける音が鮮明にガザフの耳に響き渡る。
よく見ると、フレイはニタァっと怪しい笑みを浮かべて、その行為を楽しんでいるようにも見えた。


ガザフ「うぁ…メル…うぁああああああああああああ!!!!!」











ガザフ「ぐぅ…ッ!はぁ…はっ…!」
フィーネ「ついに悪夢が出始めたわね…これは酷い…ッ」

現実に戻り、悪夢を見て大量の汗を出してうなされているガザフを見て、ベッドの横で看病をしているフィーネは頭の中に入ってくる夢の内容を見てはそう切なく呟いた。
同じくフィーネの隣に座ってガザフとフィーネを交互に見つめては、ウォードは辛そうな表情を浮かべる。


ウォード「フィーネさんは…辛くはないのですか…?」
フィーネ「あらぁ?急にどうしたのかしらウォード君?」
ウォード「その…人の記憶や夢や心を…見たくもないのに見てしまうその能力、辛くはないのかなって…」
フィーネ「…そうねぇ、かれこれ生まれた時からずっと付き合ってきたから…最初は嫌だったけど、もうあきらめちゃった」
ウォード「あきらめ…た?」
フィーネ「ぇえ、だって消えるわけでも無いもの。逆にその自分の能力を生かして、占術師を始めたのよ。それなら相手が嫌な思いもせず相手に忠告できるじゃない?」
ウォード「…フィーネさんはお強いのですね…」


その言葉を聞いてフィーネは一瞬目を見開いて驚くも、ウォードの曇った顔を見ると笑顔を見せて


フィーネ「ネリアちゃんの事について…悩んでいるのかしら?」
ウォード「…」
フィーネ「…あのショックが…抜けないのね。仕方ないわ、当然の反応よ」
ウォード「…私は、私は…ッ」
フィーネ「私、容器のお湯変えてくるわね♪」
ウォード「…」


うなされているガザフを見つめながら、ウォードは悲痛な表情を見せてこう言う。


ウォード「私は…どうすればよいのでしょうか…ガザフさん」











第22話 種族と心









フレイ「ふぁあ〜!!やっと着いたぜ!ここがエルフの街ノエルか…」


4人の目の前には高々とそびえたつ5メートルもの大きい壁に囲まれており、4メートルもの大きな門を見て驚きを隠せないでいた。


りん「大きい塀に門…入るなって言っているようなもんですよ…ね;」
ネリア「これ入れるのかメル?」
メル「いや、ほんとは入っちゃダメなんだけど…」
フレイ「よーし!悩んでても仕方ねェ!おっ邪魔しまぁ〜す♪」
ネリア「あ、こら馬鹿者!!もう少し考えて行動せんかフレイ!!」
メル「まぁ…悩んでても入ってみなきゃわからないよね!レッツゴー!」
りん「あはは…」










メルとフレイの突き進むままにノエルに入ると、街には誰一人いなく、ガランとしていた。
よく見ると、街の所々がボロボロになっており、どこか焦げた匂いもする。


フレイ「な、なんだよ…これ…!?」
ネリア「家や町の所々がボロボロじゃないか…これはまるで何かに襲われたような…」
メル「うそぉ…こんな街じゃなかったはずだよ!いつもはたくさん人がいて明るくて元気なのに―…ッ?!きゃぁあああ!!!!;」


そう話している途中に、メルは顔を青くしたかと思うと、近くにいたりんに思い切り抱き着き始めた。


りん「うわぁあ?!め、メルちゃんどうかしましたか?」
メル「ぁ…ぁあ…ッアレ…ッ!」


メルの指差す方向を見ると、地面の所々に大量の血痕が散らばっていた。
かなり酷い光景に、思わずりんも悲鳴をあげる。


りん「こ…これは…!」
フレイ「間違いない、何者かにノエルは襲われたんだ!!」


―ドォオオン!!


『??!!』


どこか遠い所で大きな爆発音が聞こえた。


フレイ「気になるな…音がした方に向かってみるぞ!」
ネリア「聞こえたのは此処から北西方向だな…」
りん「メルちゃん大丈夫?」
メル「うん…メル、パパを助ける為に頑張る!」
フレイ「その意気だメル!よし…行くぞ!」













************************













音が聞こえたと思われる北西の方へと向かっていると、そこは大広場。
そこは厚い灰色の煙に覆われ、終いには血の匂いが充満していた。


フレイ「うッ…!ケホッ!!煙と血の匂いが…ひでぇ;」
ネリア「ぅッ…はぁ…はっ…」
りん「ネリアさん…もしかして牢獄の頃を思い出して―」
ネリア「大丈夫…だ、あの時のような弱い私じゃない…平気だ」
メル「メルに任せて…タービュランス!!」


メルは杖を掲げ風魔法「タービュランス」を放つと、風がやってきて厚い煙が嘘のように無くなっていった。
そしてその無くなった光景の先には…



メル「ひぃいい!!何あれ!!!;」
ネリア「白い衣装を纏った人たちが沢山…あれは一体…」
フレイ「こいつらか…ノエルを無差別に襲ったやつらは!!」


目の前にはざっと20人以上の白い衣装を身に纏った人々がいた。
多分、ノエルを襲った張本人だろう。
苛立ちを隠せない3人の中、りんだけは違った。


りん「またです…ッ!」
ネリア「どうしたのだりん?」
りん「あの人たち…生心力(ヴィオゼーラ)が全くないんです!!」
フレイ・メル「ぇえ?!」
ネリア「んじゃ…あいつらはまさか…」
りん「多分…間違いありません。道具化されてる人たちでしょう」
フレイ「チッ…!初めて見たが…こうやって道具化の奴らは戦争や町を襲う道具に使われるんだな…惨いぜ」
メル「あ!!あれ!!」


メルが指差す方向を見ると、メルと同じ年くらいの男女の子供が恐怖で腰を抜かして逃げれなくなったのだろう、悲鳴を上げて怖がっていた。
そこに道具化の集団はその子供に近づき、殺そうと手を掛けようとしていた。

メル「あぶない!!」
りん「メルちゃん!!」


そこにメルは走って助けに行こうとした。
さすがガザフの娘、俊人種族の血を受け継いだメルは物凄い足の速さであっという間に子供の元へたどり着き、杖を振って抵抗した。


メル「やめろぉおおおおおおお!!」
女の子「ぁ…」
男の子「きみ…は?」
メル「私が守る!!殺させないんだからぁ!!!!!」
フレイ「でかしたメル!!よし、あいつらを殺させない程度にやっつけるぞ!!」
ネリア「ぁあ、そうだな…操られているとはいえ、人だ。気絶させるようにしよう!」
りん「わたしも援護します!」
フレイ「いくぜ!!」











*************************












ざっと20人ほどの道具化された人を殺さず、気絶させるような形で倒した。
闘い終わり、息をあがる4人。


メル「だ、大丈夫…もう怖いのいなくなったからね?」
女の子「ふぁ…怖かったよぉおおお!」
男の子「ありがとうお姉ちゃんっ…」
メル「パパとママはどうしたの…?」


大粒の涙を流してメルに抱き着く男女の子供は、メルの質問に対して、小さな声でつぶやいた。


男の子「パパとママ…死んじゃった…こいつらに」
女の子「もう…動かなくなって…さっきの爆発で…パパとママの身体無くなっちゃったの…」
メル「…ッ!!」


メルは目を見開いて、子供たちの発言を聞きショックを受けた。
そしてすぐに二人をきつく抱きしめて、


メル「辛かったね…もう大丈夫だよ…ッ」
りん「ひどい…」
フレイ「こうやって…悪はまた悪を生む…悪くなる一方に決まってる…ッ!グリュエル騎士団のやつめ…許さねぇ…」
ネリア「!!何者だ!」


ネリアは何か気配を察知し、かばうようにみんなの前に立ちふさがった。
そこには―――


フレイ「!!お前は…!」
ネリア「ミニルではないか!」
ミニル「お、お久しぶりです…みなさん!!この街に来ていらしたんですね!」
りん「確かウォードさんを助けた…天空人のお方ですよね?」
ミニル「はい、主人の母親が倒れてしまったとの手紙が来たので…病院に駆け付けたのですが…来てみたらこの始末です;」
フレイ「あ、あれ…ハーフエルフの男の人は…?」
ネリア「確かに…どうしたのだ?」
ミニル「主人…エリアは…この道具化の方々に襲われそうになった私をかばって…重傷を…ッ」
りん「ぇ?!」
ミニル「町中の病院も手がいっぱいで…今医師が足りなくてパニック状態になってしまって…しまいにはハーフエルフなど受け入れてくれるはずもなく…!どうにか受け入れてくれる所が無いか今探していた所だったんです!!もう…もうどうすれば良いのか…ッ!同じ人間なのに…どうして!ハーフという事だけで嫌われるのか…ッ」


大粒の涙を流して泣き崩れる彼女を、ネリアは肩を支える。
その姿を見たりんは、


りん「エリアさんは…今どこにいるんですか」
ミニル「主人は…その病院の外に…」
りん「案内してください。あと、その病院のちかくに宿屋はありますか?」
ミニル「あ…はい、すぐ病院の前に…一体どうする」
りん「エリアさんを含め、傷を負っている人たちを救いに行きます」
ミニル「あなたは…一体…?」
フレイ「ミニル、りんはああ見えても凄い医師なんだ!だから…エリアさんは必ず助かるよ」
りん「ああ見えてってどういう意味ですか!!〜もうッ!///」
ミニル「ありがとうございます…ッ!では、こちらです!」










*************************










ミニルの案内の通りに歩みを進めていくと、病院だと思われる建物の外には先ほどの戦禍で襲われてけがを負っている人たちでごった返していた。
その中に、病院の建物の壁に力なく寄り掛かっているエリアを見つけた。


ミニル「あなた!!しっかりして…」
エリア「ぅ…っミニル…!ぁ…き、君たちは…!」
りん「喋らないでください…!…臓器は奇跡的に破損していないので、すぐ手術をすれば助かりますよ…ご安心を」

フレイ「なんでだよ!!人が死にそうなんだ!貸してくれたっていいだろうがよ!!」
ネリア「フレイ落ち着け馬鹿者!!」


フレイの怒鳴り声が病院の目の前にある宿屋から聞こえた。
りんはミニルと二人でエリアの方を掴んで宿屋の方まで連れて行くと、そこには宿屋のおじさんの胸倉を掴んで怒るフレイを宥めるネリアの姿が見えた。


宿屋のおじさん「ハッ、エルフ以外の野蛮なやつは受け入れるつもりはない…あきらめてのたれ死ぬんだな!!」

フレイ「同じ人…心だっていうのに…見捨てるのか!!」

宿屋のおばさん「お前らは私たちにしたことを知らないからそう言えるんだ!!私たちは覚えてる!!昔あんたらが私たちにしたことをな!」

フレイ「そんなの昔の奴らだろうが!!俺たちが…いまの時代の奴らがお前らに何かしたか?!文句があるなら昔の迫害したやつらに言えよ!」

ネリア「フレイ落ち着けと何度言えば―」
りん「フレイさん…ネリアさん、どいてください」
フレイ・ネリア「ぇ…?!」


一瞬りんの声と認識できなかった。
なぜなら、今まで聞いたことのない物凄く低い声でそう言ったのだから。
唖然としたフレイとネリアは自然とりんから離れた。すると――


りん「あなたたちエルフ種族は…昔迫害していた人たちと今同じことをしているというのが…分からないのですか?」

宿屋のおばさん「な…ッ」

りん「あなたたちのしていることは間違ってる。私がもしその立場だったとしたら…どうにかこういう種族だということをみんなに少しでも知ってほしい、理解してほしい、同じ人間なんだと、頑張って…死ぬまで伝えようとします。貴方たちはそれしようとせず、ただ逃げて、迫害した人と同じことをしているだけです!!!」

宿屋のおじさん「それは…ッ」

りん「確かに世界中に恐怖する人はいないとは限りません。でもそういう人たちはその種族を知らないから、分からないから怖いんです!または言い伝えで聞いていて、そう思い込んでいるだけ。でもふたを開けてみると…耳の形と魔術と血が違うだけで、心は皆同じ…私はこの世界を回ってきて学びました。種族なんて関係ないです!!協力して、生きていけば必ずともに過ごせる日が来ます!世界には私たちのように…優しい人もいるんですから」

フレイ「りん…」


男の子「そうだよ!ぼく…この人たち優しいよ!だって、襲ってきた悪いやつらから助けてくれたもん!」

メル「君たち…」

女の子「そうだよ!悪くないよ!!それもあの紫のお姉ちゃんはこの街の皆を救おうとしているだけだよ!それに、種族とか関係あるの?!大人はひどいよ…」

宿屋のおじさん「…」
宿屋のおばさん「…」


ノエルの街男「なぁ…嬢ちゃん、俺の部屋を使ってくれ!」

りん「ぇ…」

ノエルの街女「あ、あたしの部屋も使いな!なぁ、いいだろおじさん!」


ノエルの街男2「この人たちは悪いヒトじゃない…それに、俺はもうこんな想いはまっぴらごめんだ。昔の奴らと同じ事をしている…それに今気付けた。これから少しずつ変えていこうよ!俺たちが冷たいと相手も冷たい想いになるのは当然だろ。同じ心を持つ人間なんだから…さ」

フレイ「へへ…ッ」
ネリア「ふ…同じ心を持つ人間…か」

その町の・りんの言葉を聞いた宿屋のおばさんとおじさんは二人顔を合わせると、大きなため息をついて


宿屋のおじさん「勝手に使え…馬鹿者」
りん「…!あ、ありがとうございます!!それに…みなさんもありがとうございます!」
街の男「気にするなよ!早く手術して多くの人を救ってくれ!」
街の女「世界中にはあんたたちのような人がいるんだな…安心したよ」
りん「わたしは手術に専念します。ここは私に任せて―」





『きゃぁああああああああああ!!またあいつらが来たわぁああああああああ!!』
フレイ「?!!な、やば…起きたか?!」
ネリア「行くぞフレイ!メル、お前はそこにいろ!」











宿屋から外に出ると、そこには 先ほどフレイたちが気絶させていた道具化の人々が起き上がってきたのだろう、この病院に向かってぞろぞろと歩き始めた。
距離は5メートル先、フレイとネリアは臨戦態勢に入る


フレイ「俺たちだけで…やれるか?」
ネリア「やるのだ…いくぞ!」


二人はそう意気込み、道具化の集団に駆けつこうとして足を前に踏み出した
―その時だった。













???『…消え去れ、プリズミックワープ!!』

フレイ・ネリア「?!!」





声が聞こえたかと思うと、目の前の道具化の集団を囲むように虹色の魔方陣が出現しはじめる。
そして淡い光が集団を包み込むように現れ、そして更に光が強くなるとその集団は泡のように姿を消えていった。


外の街の人々、フレイとネリアはそれを呆然と見つめる。
そして二人はこの技の名前…そして声を知っていた。

その光と魔方陣が消えて無くなると、その奥から見覚えのある人物が。



ネリア「ま…まさかッ…」
フレイ「…うそ…だろ…?!」






???「ぁーあ…なんか焦げた匂いがしたかと思って寄ってみたら…来て正解やったわ。なぁ…」







フレイ「アルヴォンド…なのか…?!」


アルヴォンド「なんやフレイ、ネリアちゃん?俺のように見えへんかいな?」


ネリア「アルヴォンド!!」








第23話に続→





[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!