物語 第19話 雪国の少女 ???「はぁ…はぁ…ッ」 吹き荒れる砂嵐が続く砂漠地帯。 その中に、棒のようなものを杖代わりにして、フラフラと力なく前を歩く小さな少女。 すると、疲れ果てたのかその場で倒れてしまった。 ???「ぅう…ッ」 その少女は倒れたまま、そのまま動かなくなり、砂嵐がさらに悪化し、少女の姿は見えなくなった。 場所は変わり此処は砂漠地帯にあるオアシスの村「ラクリマ」。 そこの休憩所にて暑さにばてて疲れ果てたフレイたちの姿がいた。 フレイ「あつぅうううう〜…もう無理…動けない…ッ;」 ネリア「なんだ、これしきの暑さどうってことないだろ」 りん「どうしてネリアさんは平気なんですか…ッ」 ウォード「多分、炎属性だからではないでしょうか…ッ」 ネリア「正解だ。暑いのは平気だが…寒いのは大嫌いなのだ」 ガザフ「なるほど…ねぇ;」 フィーネ「蒸発しそうだわ…ッ」 ベッドに横たわり休憩をとる皆。 フレイ「ぁ、そういえば…ネリア」 ネリア「なんだ」 フレイ「この前話していた内容にさ、生心力(ヴィオゼーラ)が定着せず悪性化すると蝕死力(ブラジェーラ)になるっていう話を少ししていただろ?」 ネリア「ぁあ、その話か」 りん「それが今この星全体には蝕死力(ブラジェーラ)が溢れているんですよね?という事は魔物の狂暴化と突然変異はもしかして…」 ネリア「多分、蝕死力(ブラジェーラ)のせいだろう。その影響は順番があるのだ。魔物の変異が初めで、その次は感情の暴走、最後に天変地異で世界は崩壊…だな」 ガザフ「おいおい…さらりと恐ろしい事を言うんじゃないよ嬢ちゃん!;」 フレイ「なぁ…それって、ネリアの歌でどうにかなるんじゃないのか?今この場で歌って生心力(ヴィオゼーラ)を定着させれば問題無くなるんじゃないのか?」 ウォード「そうですよネリア様!今この場で歌ってその問題を―…」 ネリア「…」 ネリアは悲しい顔で顔を俯いていた。 その様子を見た皆は驚く。 りん「ネリアさん…?」 ネリア「歌えないのだ」 フレイ「歌えない…?」 ウォード「…ウソですよね…ネリア様?」 ネリア「本当だ…この世界に降りてから何度も試した!でも…歌えないのだ…ッ」 ガザフ「そうか…もしかしたらシエル新国王の狙いはそこなのかもな」 フィーネ「ネリアちゃんの心術を使えなくして、歌を歌えないようにする…シエル新国王の狙いがこれで分かったわね」 ―ダァンッ! 大きな音がした。 その音がした方を振り向いてみると、フレイが顔を俯いて壁を殴った姿があった。 りん「ふ、フレイさん?!一体どうし―」 フレイ「シエル国王だか何だか知らないが…ネリアを傷つけたあいつを俺は許さない!!」 ネリア「フレイ…ありがとう」 ウォード「どうしたらネリア様の心術を取り戻すことが出来るんだ…」 ガザフ「それも含めてこの旅でその方法を探さねばいかんな」 フィーネ「そうね」 村人「たたた大変だぁああ!!;」 皆「「?!!」」 第19話 雪国の少女 フレイ「なんだ!何がったんだおっさん!」 休憩所の外に出てみると、そこには何かを抱えて慌てている村人がいた。 村人「君たちは旅の!大変なんだ、さっき狩りを終えて帰宅途中でこの子が倒れているのを見つけて…」 ネリア「こ、子供?!」 よく見ると、村人が抱えているのは10歳ほどした小さな女の子だった。 村人「多分服装からして北国の子なんだろう…一体どうしてこんなところに…!」 フィーネ「病院はないのかしら!」 村人「ここは医師がいない・・・ここで病気になったらおしまいだ。あぁ…残念だ…此処で人生を終えるだなんて…ッ」 村人のそのセリフを聞いたとき、りんは村人が抱える女の子をむりやり奪って抱きかかえた。 その行動に驚く皆。 りん「死なせはしません。まだ助かる可能性は十分あります」 村人「な、君のような女の子が何言ってるんだ!大人しく命を落とした方がその子の為に―」 りん「その言葉、本気で言ってるんですか」 ガザフ「りんちゃん…?」 りん「そんなの…勝手な押し付けです…誰も死にたくはない筈です!」 りんは村人の顔を睨み付ける。 そんな彼女を見た村人はその気迫に負けて、焦っている表情を見せた。 りん「わたしは卵とはいえ医者です…もう誰も死なせはしません!それが、私の使命ですから…ッ」 フレイ「…りんの言うとおりだ。助けれる命を見捨てられない!それに…りんなら大丈夫だ」 りん「フレイさん…」 フレイ「おれはりんを信じる。りん…休憩所で診察始めるぞ」 りん「…はい!」 りん「幸い肺の中や体の中に砂は入っていませんでした。あと目立った傷跡もないようで…多分熱中症で倒れたんでしょう。少し安静にすれば大丈夫です」 ネリア「よかった…!」 フレイ「はぁ〜…これで安心して休めるぜ;」 診断結果が分かり皆安堵した中、休憩所に先ほどの村人が入ってきた。 村人「先ほどはすまなかったな…嬢ちゃん」 りん「あなたはさっきの…!いえ、私こそきついことを言って申し訳ありませんでした」 フィーネ「ところで何か用があってきたのでしょう?」 村人「あ、そうだ。これ…あの女の子が手に持っていた杖だよ。あの子が目が覚めたら渡してくれないかな」 そう言って村人の後ろから女の子の杖を前に出して見せると、彼のすぐ隣にいたガザフは目を見開き、その杖を奪い取ってしまう。 村人「な、なにするんだね急に!;」 ガザフ「これは…ッ!」 フレイ「?どうしたんだよ親父、そんな顔して…」 ガザフ「…いや、なんでもない…気のせいだ」 ネリア「?おかしなやつだな…」 フィーネ「では、今から自由行動にしましょう♪各々買い物したり寝たり…ね♪」 フレイ「だなー!俺は疲れたから寝るぜ〜」 フィーネの言葉を合図に、皆思い思いの時間を過ごすために散らばっていく。 そんな中、ガザフは休憩所のフレイとは反対側の出口の前にあるベッドに腰掛けては、女の子の杖をずっと眺めていた。 ガザフ「…」 ガザフ(似ている…いや、気のせいだよな…きっと…ッ) 夜の22時ごろ。 夕食も食べ、そろそろ皆寝床に就こうとした時だった。 ???「ん…ッ、んぅ…!…あれ…此処どこ?」 りん「目が覚めたのですね!体の調子はどうですか?治癒術を掛けたのでもう大丈夫かと思うのですが…」 フレイ「お、起きたかお前!」 ???「ふぁ…誰…?」 フィーネ「ふふ…砂漠で倒れていたのを村の人が助けてくれたのよ?」 ???「ぁ…そうだ、倒れちゃったんだ…」 そう言うと、起き上がってベッドから足を出してベッドに腰掛けるようにした少女。 ???「ぁ、ぁあああ!杖、杖がない!!どこ、どこにあるの?!;」 ガザフ「これか嬢ちゃん?」 必死に周囲を見回して自分の杖を探す少女に対して、手に持っていた杖をガザフは前に出して見せると、それを少女に渡した。 ???「ぁ!それだよー!ありがとうおじちゃん♪」 ガザフ「おう、大事なもんなんだろ?しっかり持っておくんだな」 ウォード「ところで君はどこから来たのだ?」 ネリア「確かにこの地方にはあり得ない服装だ…たぶん雪が降る寒い地方だろうな」 ???「そうだよ!北の大陸に住んでるんだ!メルっていうの♪ハーフエルフなんだーよろしく!」 りん「北の大陸はエルフ種族が住む大陸として有名なところですよね!うわぁ〜初めて見ました!でもハーフエルフと言いますと…?」 メル「うん!ママはエルフ種族でパパは俊人種族なんだぁ!」 ガザフ「!」 フレイ「へぇ〜!俊人種族っつったらあの杖を渡してくれたガザフっていうおっさんとメルのパパは同じ種族なんだぜ!」 メル「ホント?!おじさんはパパと同じ種族なんだ!!」 ガザフ「ぁ、ぁあ…そうだよ、メルちゃん♪」 ガザフはそう言うと、メルの頭を優しくなでた。 それを嬉しそうに微笑むメル。 ネリア「母上と父上がいるのであれば、なおさら両親が心配してるであろう。何故一人でこんなところにおるのだ」 その何気ない素朴な質問を投げると、メルはさっきまでの元気な表情から一気に悲しい顔に変化して、静かにこう言った。 メル「パパとママ…いない」 りん「ぇ…?!」 ウォード「いない…?」 メル「メルのう〜んと小さい頃に、事故で死んだって…じいちゃんが言ってたの」 ネリア「そう、だったのか…すまないな、辛い事を聞いてしまって」 メル「ぅうん、いいんだ!メルが家を出たのは…パパとママを探しに行くためなの。パパとママは本当は生きてるんじゃないかって思うんだ!だって、メルは死んだところ見てないんだもん!だから絶対生きてるはず!」 フレイ「メル…お前強いんだな。絶対メルの両親は生きてるはずだ!一緒に俺たちと旅をして両親を探そうぜ!」 メル「ほんと!?ありがとうお兄ちゃん!」 ガザフ「…」 メルと仲良くなり皆騒いでいる中、ガザフだけはメルを見つめて立ち尽くしていた。 機械音が鳴り響く不気味で無機質な部屋、どうやら何かの研究所らしい。 その部屋の奥、そこに二人の姿がいる。 ???「うわ…相変わらず気色悪い実験してるねお前」 ???「なぁ〜に〜ソルティーなんか用?」 ソルティー。それはりんを襲いに来たあのグリュエル騎士団の一人だ。 彼に向かって白衣にも似た衣装を身に纏った女は言う。 ソルティー「だから、気持ち悪いんだって言ってんだよ!!なんだよそれ!;」 ???「うひゃひゃはは!で〜きた!ぇ、知りたい?特別に教えてあげる〜うひ♪」 ソルティー「いや言ってないし、っていうか人の話聞けよ!;」 ???「これね〜」 ソルティー「話聞け!」 ???「新しい蟲だよ〜!これがあれば〜たぁああくさん!紅くなるんだ〜うひ〜楽しみ!!」 嬉しそうにそう言う彼女の手には、気持ち悪く蠢いている毛虫のような蟲がいた。 ???「さて、早速実験しようかな…!あいつらを殺すのは僕が先だよ…ソルティー!」 そう言い、後ろの大きな試験管に薄黄色い水の中に入っている女性を見ては、不気味に笑みを浮かべてそう呟いた。 20話に続く [*前へ][次へ#] |