物語 第14話 裏切り ウォード「ネリア様…お目覚めですか?」 ネリア「ウォード…此処は?」 ネリアが目を覚ましたのは翌日の深夜2時ごろ。 ずっと傍について看病をしていたウォードは、主が目を覚ましたのを確認すると、ほっと息を吐いて微笑んだ。 ウォード「ここはルーネ城のフィーネさんのお部屋です。彼女はこの国の王女なんです、国王に事情を話してもらって、昨日今日ここでゆっくり休んでくださいと了解を得ました」 ネリア「そうなのか…ところで、皆の姿が無いようだが…」 ウォード「皆はこの部屋の隣にある病室のベッドで寝ています」 ネリア「…なぁ、私が寝ている間に、アルヴォンドとフレイはどうしておった」 ウォード「…昨日の件で整理がついておられないのでしょう、フィーネさんがお話の場を設けてくださったものの、アルヴォンドは嫌だと申し、フレイの事を知っているガザフも拒否し、記憶を失っているフレイは焦っておりました。りんはアルヴォンドを怒らせてしまった事を後悔しているようで、心に傷を負っているようです」 ネリア「そう、か…」 俯いてぼんやりとした様子を見せるネリアを見て、ウォードはネリアの手を自分の手と重ねて、ネリアに向かって微笑んだ。 ウォード「私も、そして皆も待っています。“アリスタの涙”が自分の事を話すその日を…」 ネリア「…」 第14話 裏切り 朝の9時。 皆が目をさまし、食事をする部屋で朝食を摂っていた。 いつもの和気藹々とした楽しい食事風景とは打って変わり、静まり返って誰も口を利かず、とても気まずい雰囲気だ。 フィーネ「あらぁ、皆朝から元気ないわね〜♪みんなで楽しくお話ししながら食事しましょうよ」 フレイ「…」 ネリア「…」 アルヴォンド「…ッ」 ガザフ(気まずい…) りん(アルヴォンドさん…ッ) ウォード(ネリア様…フレイ…アルヴォンド…ッ) ルーネ城の門、そこで皆は出発をしようと出ようとした時、 ガザフ「ぇ、フィーネ王女様も付いて行かれるのですか?!」 フィーネ「私はこの国の長になる身として、このルーネという狭い世界だけでなく大陸の世界、そして天空の世界を見て、世界を学んでいきたいの。あと、私がいれば心強いでしょ♪」 ウォード「はい!助かります!!ぜひよろしくお願いいたします!」 りん「ウォードさん…目が輝いてます、ね…;」 フィーネはにっこりとほほ笑むと、フレイの方へと近付き、うつむく彼の両頬を両手で包み込んで顔を自分の方へと無理やり向かせる。 突然のフィーネの行動に目を見開いて驚いていると、 フィーネ「フレイちゃん……大丈夫、額にあるその宝石は…きっと貴方を、ネリアちゃんを、皆を、そして…世界を救うモノの力となるわ」 フレイ「…何を根拠に」 フィーネ「記憶は失った、それは事実よ。でもそれと同等に、手に入れたものが沢山あるじゃない。そして、これから先記憶を全部取り戻したら、更にあなたの元に沢山プレゼントがやってくるわ。それは…きっとこの先に、未来にかけがえのない大切なモノよ」 フレイ「…」 光を失ったフレイの瞳を見て、フィーネは額の宝石に軽く口づけた。 フィーネ「自分を見失わないでフレイちゃん」 フレイ(!?) フィーネが額の宝石に口づけをしてそう発言した直後、フレイの脳内に映像が映し出された。 フレイ「なんだ…これッ」 りん「?フレイさん…?」 赤と黒とオレンジの世界。 その中に、ぼんやりとして誰だかわからないが、黒い人の形をした影がこちらに手を伸ばしては、自分の額の宝石に優しく口づけては、 『―――、自分を見失わないでくれよ…?』 ―ズキンッ!! フレイ「ぐぁッ!!;」 頭の中に響いた女性の声が聞こえたと思った瞬間、映像が途切れたのと同時に頭に酷い頭痛が起こった。 あまりの痛さにフレイは地面に伏して四つん這いになっては片手で頭を抱えては苦痛の表情を見せ、声を上げた。 その様子にいち早く気付いたネリアはすぐさま駆け寄り、 ネリア「だ、大丈夫かフ―…お前!」 フレイ「ネリア…だ、いじょうぶだ…ッ、ぐぅ!」 『あなたがフレイちゃんね?よろしく』 今度は言葉のみがフレイの脳内に流れた。 またもや女性の声だが、さっきの声とは多分別の人物であろうと思われる。 そしてまた訪れる頭痛。 フレイ(もしかして…失った記憶が戻りかけているのか…?だとしたらこれは…失っていた記憶の部分ということか…くそッ) りん「フレイさん大丈夫ですか!」 フレイ「…ハァッ、大丈夫だ…頭痛は治まったよ。迷惑かけたな…ごめん」 アルヴォンド「…」 その光景をアルヴォンドは冷たい目で見ているのを、ガザフとフィーネとウォードは見逃さなかった。 ガザフ(…?) ウォード(アルヴォンド?) フィーネ「…ねぇ、アルちゃん♪」 フィーネはそう問いかけ、フレイから離れては門を超して橋の淵に寄り掛かっているアルヴォンドに近づいて行った。 アルヴォンド「なんやぁ〜王女様?」 フィーネ「ふふ♪」 アルヴォンドに向かってフィーネは微笑むと、裾から出てきた仕込みナイフを手に掴んではアルヴォンドの首元に突きつけ始めた。 皆(アルヴォンドとフィーネ以外)『?!?!??!』 アルヴォンド「…何のマネや」 フィーネ「あらァ?それはこっちのセリフよアルちゃん」 フィーネ「貴方いま、フレイちゃんとネリアちゃんを殺そうとしたわね?」 フィーネの言葉に、空気が凍った。 フレイ・ネリア「ぇ…ッ?!」 ガザフ・ウォード「な…ッ!」 りん「アルヴォンド…さん…?!」 衝撃的な事実に驚きを隠せない中、アルヴォンドは俯いて肩を震わせたかと思うと、急に笑い始めた。 アルヴォンド「ふふ…はははッ!!王女様に伝わんように意識してたんやけどなぁ…気付かされてしまうとは…敵わんなぁ自分」 フィーネ「言ったでしょ?私はあなたたちの考えてることはすべてお見通しだって」 アルヴォンド「ハッ…」 鼻で笑ったアルヴォンドはフィーネから2メートルほど奥に離れた。 そして口角を上げて前を向いたかと思うと、アルヴォンドの足元とアルヴォンド以外の周りに巨大な魔方陣が出現した。 ガザフ「な、アルヴォンドお前何をする気だ!!」 アルヴォンド「ここで話すのもあれやし…もっと広い所でしようやないか……―テレポーション!!」 ―ドサァッ!! フレイ「―…痛…ッ、どこだ…ここ;」 ガザフ「大陸…?瞬間移動したのか…此処はこの光景からすると―」 アルヴォンド「ルーネから北西に位置する大陸で、砂漠地帯より手前にある草原や」 フレイ「…ッ!!;」 声がした後ろへ、尻餅をついて座り込んでいるフレイは振り向く。 すると自分の頭上に双剣を向けては、フレイを冷たい眼差しで見下ろすアルヴォンドの姿が、目の前に映し出されていた。 フレイ「アルヴォンド…なに、してんだよ…?冗談はよせよ…」 アルヴォンド「冗談でこんなことが出来ると思っとるんか」 ネリア「アルヴォンド!お前どうしてこんな事をするのだ!!お前は私たちの仲間ではないか!!」 ネリアの言葉を聞いた瞬間、肩をびくつかせたアルヴォンド。 そしてすぐに彼は笑い声をあげた。 ウォード「な、何がおかしいのだ貴様!!」 アルヴォンド「バカやなぁ…俺は最初から自分らを仲間とも友達とも思った事なんかないでぇ?」 フレイ「ぇ…ッ」 フレイは一瞬、心臓が止まったのかと錯覚した。 アルヴォンドのセリフを聞いて、心臓が飛び跳ねた。 アルヴォンド「確かに俺は自分らの仲間になった。ただ受け身でなったわけとちゃう。ちゃんと計画してたんや」 ガザフ「計、画?」 アルヴォンド「俺は世界騎士の活動の事と、自分らが一体どんな奴らかを知りたくて、あえて仲間になるように仕向けたんや」 りん「な、それをして一体何の意味が―」 口角を上げていたのが下がって、ドスの聞いた低い声で、アルヴォンドは言った。 アルヴォンド「なに?決まっとるやないか……俺は世界騎士団とグリュエル騎士団、天空人が死ぬほど大嫌いやからや」 そう打ち明けたアルヴォンドの瞳は、憎悪の念にあふれていた。 そしてアルヴォンドはフレイに向けていた双剣を下ろすと、その隙にフレイは立ち上がって後ろへとバッグする。 それを確認したアルヴォンドは左手に握っている片方の剣を前に突き出すと、 アルヴォンド「さて…お遊びは此処までや。殺し合いのお時間や……ネリアちゃんとフレイ君…大人しく、死んでもらうでぇえ!!」 アルヴォンドがそう声を上げた瞬間、隠れていた八大精霊全員現れたかと思うと、フレイへと今までに見せなかった物凄い速さで突っ走り切りかかろうと動き始めた。 フレイ「嫌だ…嫌だよ!!俺は―…」 フレイ(俺…アルヴォンドを…殺したくない) ガザフ「何やってるんだフレイ!!剣を握るんだ!」 アルヴォンド「もう遅いで!!」 フレイ「ぁ…ッ!」 目の前でアルヴォンドの剣が振り下ろされるのを、フレイはスローモーションで呆然と見つめていた。 フレイ(そうだよな…俺、ほんとは生きていけない存在なんだよな…) フレイ(…?なんでそう思うんだ?どうして…) ―ブシャァアアアッ!!!! 視界が、紅に染まった。 第15話に続く [*前へ][次へ#] |