物語
第10話 黒い海
此処は港町キュリペ。
小さな町で、エメラルドの色をした海が観光地として有名である。
一度宿で宿泊し、朝になった今、皆は船に乗り込もうと船着き場へと移動した。
第10話 黒い海
フレイ「はぁ?!!今船が出たばっかだって?!!」
受付員「そうだよ。つい10分前にね。つぎに乗れるのは明日になるよ」
フレイ「なんだよその便の悪さ;」
受付員「最近海に今までとは違う狂暴な魔物が出てきてね…便を1日に1回に減らしたんだ」
ガザフ「魔物?」
受付員「そうさ、こんなのは初めてだよ。海に魔物が現れるなんてね」
アルヴォンド「どうにか行かれへんのかな…」
途方に暮れる中、ガザフは顎に手を当てて考え込む。
ガザフ「なぁ、船を貸してはくれないだろうか」
フレイ「ぇえ?!」
受付員「船・・・かい?」
ガザフ「俺は世界騎士団総指揮官の者だ。ワケあってこの世界を調査している。良かったら私がその魔物を退治してやろう」
受付員「な、せ、世界騎士総指揮官殿…!し、失礼いたしました!!た、退治してくださるとはありがたい…!どうかあそこの船を自由にお使い下さいませ」
アルヴォンド「お?」
受付員が指差す方向には、6人で余裕に乗れる立派な船があった。
アルヴォンド「なんやーあるやないか船が〜」
受付員「あれは私専用の船です」
ガザフ「いいのか使っても?」
受付員「ぇえ!もう一台船がありますので問題ありません。どうぞ、お使いください!」
ガザフ「ありがとう。大切に使わせていただく」
そうガザフが言うと、受付員は深々とお辞儀をした。
それを確認し、皆は受付員が譲ってくれた船に乗り込む。
ウォード「すごい・・これで海の上を移動できるのか?」
アルヴォンド「ぁあ、せやんなぁ…天空世界は海がないからなぁ」
ネリア「我々天空人はそのようなものは必要ない。自分で空を飛べるからな」
アルヴォンド「便利で羨ましい種族やなぁ。俺にも羽があったらええのに…―」
そう言って拗ねたような表情をするアルヴォンドを見て、りんは笑った。
それに気付いたアルヴォンドはりんを見る。
アルヴォンド「な、何笑うとんねん」
りん「いや、アルヴォンドさんが背中に羽が生えたのを想像して、おかしくて…!」
アルヴォンド「ぇ、俺そんなに似合わへんの?;」
りん「はい…とても滑稽でッ…」
アルヴォンド「酷いでりんちゃん…」
そんな4人を遠くから見つめるフレイ。
フレイ「ムカつく」
ガザフ「どうしたんだフレイ、ネリアちゃんにヤキモチ妬いてるのか?」
フレイ「「はぁああ!?!ん、ンなわけないだろ!!俺はあんな奴嫌いだね!」
ガザフ「ウソつけ・・・顔に出てるぞ」
フレイ「へ、ぇ、ウソ」
ガザフ「あいつが好きだってな」
フレイ「!!なんで分かったんだよ」
ガザフ「お前が今まで女に興味なかったのが、興味を湧いている。見ればわかるぞ」
フレイ「…ッ。なぁ、親父」
ガザフ「どうしたフレイ?」
フレイ「俺…間違ってるかな…」
ガザフ「!…さぁな、それはお前が考えろ」
フレイ「な」
ガザフ「お前がこの旅を通して善悪かどうか判断するんだ。それは俺が決めることでない…お前のことだ、自分で考えろ」
フレイ「…善悪…か」
フレイはそう呟き、顔をうつむいた。
フレイ(そういや…俺って種族なんだろう。今まで気にしなかったけど…ネリアたちと出会って気になってきた。俺だけだよな…自分のこと分かってないの…)
フレイ(知りたい。もちろんネリアのことも知りたいけど…俺の両親のこと、種族のこと、この不思議な体のこと、そして…額の宝石のこと)
フレイ(俺はいったい…何者なんだ?)
ガザフ「さぁあて!移動するぞお前ら!」
アルヴォンド「なんや、おっさん船運転出来るんかいな?」
ガザフ「俺を舐めるんじゃないぞ。昔は船で漁もしていたからな?」
アルヴォンド「マジですか・・!;」
ガザフ「訓練の一環で、船で1か月生活するんだ。あの時は楽しかったな―みんなの目が死んでいた」
アルヴォンド「なんか…」
りん「心配です;」
ガザフ「安心しろ!荒い運転しないから!安全第一で行くぞ!目指すは――」
―世海都市 ルーネだ!!
ウォード「おい…ルーネとやらはどこにあるのだ?」
ネリア「全然着かぬではないか」
アルヴォンド「ウォオオオオオオオオオオオエ…」
りん「うわぁああああ大丈夫ですかアルヴォンドさん!;;」
アルヴォンド「おれ…実は船大嫌いなんや…酔いやす…うぷ…!;」
りん「しゃべらないでください;気管に入ったら一大事です!」
フレイ「親父どういうことなんだよ!」
ガザフ「実は俺…ルーネという街自体存在している事自体知らなかったんだ」
『『は?』』
そのガザフの衝撃的な発言を聞いて、空気が凍った。
ネリア「じゃぁ…場所も知らないで当てずっぽうに船を出したのか?」
ガザフ「…あ、でも!ちゃんと調べたんだからな!!キュリペから北東にある大陸の港町ガジュアから北東の位置にある…と!」
りん「で、今どこなんですか?」
ガザフ「・・・たぶん北東」
フレイ「親父ぃいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!」
ガザフ「ひぇえええええ済まない皆ぁあああああああ!!」
フレイがガザフの胸倉を掴んで怒っている姿を見て、残りの皆はうなだれた。
アルヴォンド「終わりや…うぇ…ッ」
りん「ガザフさん…意外にも適当なところがあるんですね…」
ウォード「こうなったらお前らを飛んで大陸まで行くか…―」
ネリア「馬鹿者!そんなことしたら天空人だとバレるではないか!」
ウォード「そうでした…ごめんなさい」
『『はぁ…;』』
フレイ「親父てめぇ…いったん海に落とした方が自分の行動に気付くんじゃねェか?ぁあ?!」
ガザフ「ちょ、落ち着け息子よ!;―…!!おい!う、後ろ!!」
フレイ「は?後ろがどうしたって…―ッ!?;」
ガザフが指差す方向を向いてみると、そこは海。
海の様子がおかしい。
美しいエメラルド色の海のはずが、なぜかドス黒く染まっている。
それを確認できた後、黒く染まった海が渦を巻き、フレイたちが乗っている船を飲み込もうとしていた。
りん「きゃぁあああ!!」
アルヴォンド「な、なんや?!いったい何がおこっとるんやぁああ!!;」
ウォード「ネリア様!絶対手を離さないでください!」
ネリア「な、何が起こっておるのだ!!ガザフ!」
ガザフ「そんなの、俺にも分かるかぁあああああ!くっそ…!上手くコントロールできない!!;」
フレイ「どういうことだよ!親父!!―ヤバっ、みんな海の中に飲み込まれちまう!!」
ガザフは必死に何とか落ちないようにコントロールしているが、その渦による引力には逆らえない。
必死に船の淵にしがみついて堪えている。
すると、渦巻きによって生まれた大津波がフレイたちが乗る船に向かってきた。
これには避けきれるわけもなく・・・
『うわぁああああああああああああああああああッ!!!』
あっさりと津波に飲み込まれてしまった。
そして徐々に渦が消えていき、海が静りかえる。
静まった海の上には、フレイたちが乗っていたはずの船の破片がばらばらに散らばっていた。
―…ゴボゴボ
フレイ(ぁあ…光が遠くなってく…おれ、死ぬのかな…?)
―…ゴボリ…ッ
フレイ(息が苦しい…ぁあ…おれ、自分のこと何も知らないで死にたくないな…)
―ゴボゴボ…!
フレイ(やばい…意識が…ッ)
フレイの意識視界は、黒く染まった。
???「…?何かしらあれは…人?あら、大変!」
第11話に続く
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