物語 第9話 守護騎士 フレイ「うへぇえ〜…じめじめして…汗が止まらない…;」 りん「仕方ないです…此処は湿原、湿っているのは当然ですし、此処しか次の街に行くにはルートがないのです」 アルヴォンド「ところで、りんちゃん本当に良かったん?俺らと一緒にこの旅についてきて…?」 りん「良いんです。私は…実はハイカラ一歩も出たことがないので…世界を見て色々な方の手助けをしたいのです。それに…母さんのように困っている種族もいると思います。もう二度と生み出さないためにも…私はどうしてもグリュエル騎士団を止めたいのです」 アルヴォンド「ぉお!すごい目標やないの!ぇえでぇえで、この調子や♪」 りん「あと、私がいるとすぐあなた方を手術できますから…どんな傷でも治してみせます!沙月らんの娘として誓います」 フレイ「心強いな…改めてよろしく頼むぜりん!」 ガザフ「嬢ちゃんも無理しないでくれよ?」 アルヴォンド「よろしゅう頼むで♪」 りん「はい、よろしくおねがいします!」 ネリア「…」 ただ一人、輪から外れて黙って立ち止まっているネリアがいた。 それに気付いたフレイはネリアの方へと近付き、手を掴んだ。 ネリア「な、何をするのだ貴様!」 フレイ「ネリア!これから旅をするりんに挨拶も何もなしかよ?ほら!」 ネリア「な、やめろ…わぁ!」 無理やりフレイに前に突き出され、目の前にりんが。 一瞬目が合うが、すぐにネリアはそらしてしまった。 あのやり取りの後だ。相当気まずいのであろう。 ネリア「ぁ、その、よろしく…たのむ」 りん「…ネリアさん」 ネリア「………っ、なんだ?」 りん「わたし、あなたが大嫌いです」 ネリア「!!」 フレイ・ガザフ・アルヴォンド『なッ…!;』 りん「助けてもらった命があるのに…それでも死にたいと思うあなたの気持ちが分かりません」 ネリア「…」 りん「だから、貴方を仲間と思っていませんので。そしてこれからも仲間として接するつもりもありません」 ガザフ「ちょ、りんちゃん!」 りん「あなたは過去にきっと嫌なことがあったんでしょう。何かはわかりませんが…あなたの生心力が悲鳴をあげています。もしかして…心術が使えないのではないのですか?」 ネリア「!!?」 フレイ「!!生心力の状態もわかるのか?!」 りん「意姿種族は傷の状態や病気の有無以外にも、相手の精神状態や生心力の状態も見ることが出来るのです。見るからに…あなたは私たちが想像できないほどの辛い事があった。だって心術が使えなくなる程ですもの…相当のものだったはずです」 ネリア「…ッ」 りん「私はあなたが死にたいと思う心と、心術が使えなくなるほどの苦しいことを私たちに話さない限り、私は一生貴女を仲間と思いません。それを覚悟してください。それと…よく覚えておいてくださいね」 りん「あなたが死んだら…悲しむものがたくさんいることを…」 りんはそうネリアに告げると、一人で先に前へと歩いて行った。 フレイ(うわ…女同士の争いって怖いって親父から聞いたことあるけど…怖ぇえ;…にしても) ネリア「…ッ」 フレイ(俺たちが想像できないことがネリアに有ったってこと…か。早くネリアの背負っている過去を…苦しいことを軽くしてやりたい…おねがいだネリア。話してくれ…!) 第9話 守護騎士 あれから4時間… やっと湿地を抜け出し、広がった草原と木々を見てホッと一安心する一同。 フレイ「ぁああ!!やっと湿った空気からからっとした気持ちい空気に変わったぜ―!なぁ、皆―…」 し〜ん… りんとネリアがあれから一言も会話しておらず、ずっと雰囲気が気まずいままだった。 そして今現在も。 フレイ(気まずい…) アルヴォンド「ぁあ〜腹減ったな〜ここらへんに近くに町とかなかったかな〜ね、りんちゃん?」 フレイ(ナイスだアルヴォンド!;) りん「町は此処からもう少し歩いたところに港町キュリペがあります」 アルヴォンド「ぉお!せやな〜忘れとったわ!早よ行くで〜―――…」 ???「ネリア様!どこですか…痛ッ!!」 ???「まだ怪我が治っていません!勝手に動かれましたら―」 ???「ぅ…すぐ近くにネリア様が…ネリア様!」 ネリア「!!?」 ネリアの名を呼ぶ男の声を聴いた途端、ネリアはその声のする方へと真っ先に走り出していった。 そのネリアをみんな追っていく。 ネリア(まさか…この声は…!!) ネリアは走り、目の前の大きな木を抜けると… ネリア「ウォード!!」 ???「ネリア…ネリア様…ですか?!」 皆の目の前には、外にはねているような黒くて長い髪をしていて、目がまぶしいくらい白くて、そして…見た目がまるで天空人特有の袖が幅広な衣装を纏った男性が、二人の男女に支えられている光景だった。 その男性―ウォードと呼ぶネリアの目が見開き、そして、大粒の涙を流した。 ネリア「馬鹿者…どっからどう見ても私であろう…!!ウォード…生きていたのだな…幽霊ではないのだな・・・?!」 ウォード「もちろんです…あなたの直属な守護騎士が…そう簡単に死ぬわけがありません」 ネリア「―…ッ、ウォード!!」 ネリアはそう言うと、ウォードの胸に飛び込んで抱きついていった。 それをしっかりとウォードは受け止め、ネリアをきつく優しく抱きしめる。 ウォード「待たせてしまいましたネリア様…申し訳ございません。それと…生きていてくれてありがとうございます」 ネリア「ぅう…ッ、嬉しいぞ…ウォード…!」 フレイ「!!」 フレイ(ネリアが笑ってる…!あれが…ネリアの笑顔か…) りん「すごい…ウソのようです…」 アルヴォンド「んあ?どゆことや?」 りん「きっと、ネリアさんはウォードというお方をとても信頼しているようです…心の支えになっているのですね。生心力が喜んでいます」 ガザフ「ほほぅ…熱々だなぁ…♪」 その3人の会話を聴いていたフレイは段々イラつき始め、顔をムスッとしてはウォードとネリアを見つめている。 フレイ(なんだよ!!なんかよくわからないけどイライラする…くっそ・・・どうして俺だけ名前で呼んでくれないんだ…!俺のこと嫌いなのかな…そうだよな。だから俺の名前呼ばないんだよな…余計イライラしてきた) フレイ「ネリア!こいつ誰なんだよ!!」 八つ当たりのようにネリアに向かって怒鳴りだすフレイは、ネリアに近づいていく。 だが――… ―シャキンッ! そんなフレイに剣の先を首に刺さるギリギリのところを向け、それに気付いたフレイは歩く足を止めて固まった。 前を見ると、きつく睨み付けるウォードの姿が。 ウォード「ネリア様に近づくでない…醜い地上人が」 フレイ「な…ッ!?;」 ウォード「お前らが私たちにしてきたあらゆる侮辱と行動…忘れないぞ」 フレイ「んあ、それは…グリュエル騎士団のやっていることだ!俺たちは関係ない!!」 ウォード「ハッ、これだから地上人は…お前らがしてきたことを認めようとしない!」 フレイ「ぁあ!?おれは関係ない!俺たちはお前らを侮辱なんかしてねぇしむしろ助けたいと思ってる!怒るならグリュエル騎士団に言え!」 ウォード「冗談ばっかり言いおって…このー」 ネリア「やめてくれウォード!こいつの言うとおりだ!!」 フレイ(こいつ…?!;) ウォード「な、ネリア様…?」 ネリア「あいつが言っていることは本当なのだ!天空人を痛みつけているのは地上人全体ではなく、グリュエル騎士団。そして地上人もその存在に苦しめられているのだ!」 ウォード「そうなのですか…!」 ガザフ「ウォードくんっと言ったかな?今からその経緯を話そう…それと、そこの二人さんは?」 ???「おれはエリアだ。エルフ種族とヒュニマのハーフだ」 ???「わたしはミニル。天空人よ」 ガザフ「なら話はして大丈夫だな?」 ミニル「私たちもグリュエル騎士団を知っています。私たち二人も彼らに苦しんでいますから・・・是非お話をお聞かせください」 それから、ガザフの説明によってグリュエル騎士団のことについてなどを教えていった。 その説明を聞いたウォード・ミニル・エリアは悲痛な表情をみせて顔をうつむいていた。 ウォード「なるほど…そういうことか…」 ミニル「酷い…グリュエル騎士団って…」 エリア「私たちもいずれ狙われるのか…」 重い空気が周囲を包み込んでいた。 それを切り裂いたのはガザフ。 ガザフ「エリアとミニルの家はこの近くかい?」 エリア「はい、自給自足で二人で暮らしています」 ガザフ「そうか…この先狙われぬよう、私の世界騎士の者を護衛に使わせよう」 ミニル「ほんとうですか?!」 ガザフ「安心してくれ、俺たち世界騎士団はグリュエル騎士団から命を守ると約束しよう」 エリア「ありがたい…これで安心だ」 ガザフ「早く家に戻ってください、今すぐ騎士を向かわせますので…」 ミニル「ありがとうございます、ガザフ総指揮官様」 そう二人が離れる間際、ウォードの方へ振り向いた。 エリア「それでは…ウォードさん」 ウォード「なんだ」 エリア「私たちはあなたたち天空人を受け入れます」 ウォード・ネリア「!」 ミニル「ですから…いつか天地共に平和になった時…差別などで辛い事があったら私たちのところに遊びに来てくださいね」 エリア「私たちで良ければいつでも愚痴を聞きますから」 ウォード「…ふっ、あぁ…そうさせてもらおう。いつかそんな時が来たら…遊びいく」 エリア・ミニル「それでは…」 エリア・ミニルの姿が見えなくなったのを確認した後、ウォードはガザフの方を振り向いた。 ウォード「申し訳ない…疑ってしまって」 ガザフ「いいんだ、勘違いするのも当然だ」 ウォード「グリュエル騎士団のやっていることは許さない。それは天空世界の悪で地上世界の悪だ。私もその旅に同行しよう」 ガザフ「助かる。これで天空人が二人か・・・心強いな。…ところで、ネリアを様づけで呼んでいるが…それに守護騎士とは?」 ウォード「そ…それは…ッ」 ネリア「…ッ」 アルヴォンド「なんやなんや?そこまで言ったのになんも言わんの?」 ガザフ「まぁまぁ、言えないこともあるだろう…この旅の中で話したいと思ったら言ってくれ」 ウォード「済まない…」 そう謝りお辞儀をすると、ウォードは前を向いて話し始める。 ウォード「私はウォード・フォコンと言う。天空人で飛空種族の鳥タイプ:ハヤブサだ。ワケあってネリア様の専属の守護騎士をしている者だ。これからは色々と迷惑を掛ける…よろしく頼む」 ガザフ「よろしく、おれは俊人種族のガザフだ」 アルヴォンド「俺はヒュニマのアルヴォンドや、よろしくな〜♪」 りん「私はヒュニマと意姿種族のハーフで医師のりんです。よろしくおねがいします」 フレイ「…フレイ」 フレイはそう自分の名前をドスの効いた低い声でそっぽを向きながらウォードに言った。 それを気に食わなかったのかウォードの頬に怒りマークが。 ウォード「フレイ…か、貴様…礼儀がなってないようだね」 フレイ「はッ、そりゃこっちのセリフだよ。俺に刃物を向けた挙句に疑われて濡れ衣着せられた俺に謝りもしないとか、そんな礼儀知らずの野郎てめぇしか知らねぇなぁ?それで仲間に入る…だぁ?ざけんな!!イライラするんだよ!」 ウォード「!気に食わないのはこっちのセリフだ…貴様の話し方といい態度といい、人の怒りを誘うような奴は視界に入っておらん、消え去れ。もしくは私が消してやる。骨も残らずにな」 フレイ「へぇ・・俺と戦おうってか?いい度胸じゃねェか…来いよ、ぶん殴ってやらァッ!!」 ウォード「受けてたとう…粉々にしてくれる!!」 そんな今にも戦闘が起きそうな一触触発の中、無理やりガザフとネリアが止めた。 ネリア「やめろウォード!!どうしたというのだ、お前らしくない!;」 ガザフ「この馬鹿者!!何をそんなにイラついている、礼儀をわきまえてないのはどこのどいつだ!!!」 ウォード「…ッ、私はお前を許さない。きっと貴様はネリア様に酷いことを言ったのだろう…その口調で。だからお前は嫌われるのだな」 フレイ「!!確かに俺は口が悪いさ。ただ俺は…ネリアの死ぬ姿が、道具化にされた姿を見たくないだけだ。…別に嫌われても構わない、それでも…俺はネリアに生きていてほしいんだ。約束したんだ、おれは道具化から…グリュエル騎士団から護るって」 ウォード「!…ネリア様、死にたいとおっしゃっていたのですか…?」 ネリア「…ッ」 りん「その死にたいと思う絶望の気持ちは…生心力が衰弱化して危険を察知して、心術が使えなくなる程です」 ウォード「―…くッ、許さない…!!」 フレイ(許さない…?) そうウォードは呟くと、ネリアをきつく抱きしめた。 知らなかった真実に、ウォードはショックを受けた。 ネリア(だって…あれは仕方がなかった…あれは…) ウォード「申し訳ありません…ネリア様…わたしは、貴方を死なせません。ですから、貴方も死ぬとは言わないでください…死んでしまっては…私は悲しいです…ッ!」 ネリア(私の心は…どうしようもないくらい) ウォード「おねがいします…生きてください!」 ネリア(黒く染まってしまったのだからな…) 一本の大きな木と草原が広がるこの場所に、ウォードの悲痛な泣き声が響きわたっていった。 場所は変わって、此処はとある研究所。 研究員1「た、大変です!」 ???「どうしたのだそんなに慌てて」 研究員2「驚くべき事実が判明しました…!」 研究員1「グリュエル騎士団によって絶滅したと思われていた種族に…まだ生き残りがいたことが分かったのです!」 ???「!!何ィイッ!!!!?;」 研究員2「しかもその種族が…」 研究員1「宝心種族と、操霊種族です」 ???「数は!」 研究員1「どちらとも1名です」 ???「これは大変だ…グリュエル騎士団の皆に報告するのだ!」 ―即刻、その生き残りを抹殺するのだとな!!― 静かに、その歯車は動き始めていた。 第10話に続く [*前へ][次へ#] |