天使の梯子をのぼったら ページ:6 ぐん!と圧がかかったような感覚のあと、急に静かになった。 「もう目、開けてもいいか?」 「勝手に開けても良かったのに。どうぞ?」 甲斐のOKが出たから目を開けたのに、そこはまだ地上ではなかった。 空が近くて、眩しい。 それに、足元に広がる一面の濃い緑色。 (これと同じ景色を、どこかで見たことがある……) 「どうかな、ここは穂稀が好きだった場所に似てるから、連れてきたかった」 「『似てる』? ここじゃなくて?」 「ええ、残念ながら……」 「ここに来ることが、おまえの『所用』なの?」 甲斐は一瞬キョトンと目を見開いてから、小さく笑って、首を横に振った。 「『所用』を教えてくれるんじゃなかったのか?」 「物事には順序があるでしょ? 先に僕の翼を見せたかった」 秘密を持ったままだと恋人同士とは言えないでしょう? そう続く甲斐のセリフにまた顔に熱が上った。 甲斐に見られないように、少し顔をうつむかせる。 (秘密だらけのくせして、よく言う) 「その、羽根……だけど」 「はい」 「おまえ、人間じゃないの?」 「ああ。そうだね」 そうあっさり肯定されると、二の句が出てこないんだけど。 「天使……?」 「はい」 にこっと笑って見せる。 笑顔が眩しい……天使だと言われても納得してしまう。 「天使に思いを寄せられるのは、怖い?」 ううん、と首を横に振る。 多分俺の記憶の中の、緑の世界──あの場所で、小さかった俺を抱きしめてくれていた光は……。 (そばにいるのが悪魔でした、なんてことなら怖いしかないけど、天使なら、まぁ……) 顔を上げて、ちらと甲斐を見る。 目が合うと優しく微笑してくれる。 こんな天使ならまぁ、そばにいても…… 「んんむ!?」 柔らかな唇が、俺のそれに重ねられた。 体を抱く腕に、きゅっと力が入る。 [*前へ][次へ#] [戻る] |