天使の梯子をのぼったら
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校門を出た途端、探している本人に声をかけられたのだ。
「穂稀。学校抜け出してどこ行くの」
ぎょっとして振り返ると、制服のままの甲斐が立っていた。
所用はどうしたのか。
「おまえこそっ……、どこ行ってんだよ?」
詰問するような顔つきだった甲斐の表情が、あからさまに緩んだ。
「穂稀、僕の行き先を気にして、出てきてくれたんだ?」
「ばっ! そういうわけじゃ……」
そういうわけ、だ。
甲斐の行き先を気にして、学校を出てきた。
(会って、昨日の今日だぞ?)
自問しながら、頭を掻いた。
指に触れる肌の温度が上がっているのが、自分でもわかる。
多分、顔が赤い。
胃袋を掴まれたから、甲斐が気になるのか?
我ながら単純極まりない。
「全然? おまえを気にしたりしてないし。俺が出てきたのは腹が痛いからであって──わっ?」
語尾が変。
セリフの途中で、甲斐が俺の腹に手のひらを当ててきたのだ。
「お腹、大丈夫みたいだよ?」
「なんでそんなことっ?」
「わかるよ。穂稀のことなら何でも」
腹に当てていた手が、俺の手を取った。
ふわり、と風に浮きあげられたみたいな感覚だった。
俺の手の甲が、甲斐の手に運ばれてこめかみに触れる。
熱い──。
「穂稀もわかって、穂稀のこと。僕を探して、見つけて、こんなに頬を染めてること」
「……。おまえを見つけたわけじゃない。おまえが勝手に俺を見つけて声をかけて来たんだろうが」
「それでも探しに、教室を出てくれたのは穂稀の意思だよね?」
「…………」
なんか、どんどん恥ずかしい方向に運ばれているのはわざとなんだろうか。
何を言わせたいのか、なんとなくわかってしまう自分が嫌だ。
こめかみに当てられた手がふっと浮いて、今度は甲斐の唇に触れた。
「──っ、甲斐っ……やめろ、恥ずかしい……っ」
手に唇を触れたまま、甲斐はくすくす笑った。
「昔の穂稀はそんな照れ屋さんじゃなかったけど。今の穂稀も可愛いな」
「男に可愛いとか、ない……」
絞り出している反論に、甲斐はあっさりと、あるよ、と返してくる。
「ね、穂稀。どうしても僕の所用が知りたい?」
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