short 前髪/甘 前髪が長いのは自分の顔を少しでも見せないようにするため。 クラスでも目立たず、ひっそり生きてるつもりだったあたしに、何故だか彼、田島君は毎日話しかけてくれる。 「苗字、おはよ−っ!」 「おはよう田島君」 席が近いわけでもない。 実のところ田島君が話しかけてくれるまで、あたしは田島君のこと、ぜんぜん知らなかった。 何であたしなんかに話しかけてくれるんだろう。 一日考えたけど、分かんない。 放課後、あたしは一人教室の窓から野球部を覗いていた。 ああ、田島君ってすごい野球上手なんだ、なんて思いながら。 ぼーっとしていたら田島君を見失った。 まあ良いか、なんて思った瞬間教室のドアが勢いよく開いた。 「苗字っ!」 「たじま、くん」 何で此処にいるの?練習は? って聞いたら、 「今はきゅーけー!」 ってニコって笑って答えてくれた。 「何で教室なんかに来たの?」 「苗字が居そうな気がしたから!」 どうしてあたしなんかに話しかけてくれるの? 一番聞きたかった質問が、今なら聞けるような気がした。 「田島君はどうしていっつもあたしなんかに話しかけてくれるの?」 地味だし、可愛くないし。 田島君はびっくりしたような顔をして、 「苗字は可愛いよ?」 なんてさらっとそんなことを言ったのであたしは思わず 「嘘、冗談でしょ?」 なんて聞き返してしまった。 「嘘でも冗談でもねえよ!」 「田島、くん」 「後な、ずっと思ってたんだけど苗字、前髪切った方がぜってえ良い!」 ゲンミツに! なんて言って笑う、 君の言葉一つで切ってみようかな、なんて思ったあたしは単純なんだ その後ヒロインちゃんは前髪切ります。 田島くんがそのとき、 「やっぱそっちの方が良い! ゲンミツに俺そっちの方が好き!」 なんてさらりと爆弾投下します← 勿論確信犯です彼は!(( ←back [戻る] |