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分断された海の片隅で:隻眼ヲ級の証言/Emily's Report ZERO若しくは序章
旅の始まり
2###/##/##:海岸沿いの歩道・本州・日本


 (誰かが通報したかどうかは解らないが、防衛軍とやらに気付かれた様だな。)

 隻眼ヲ級は他人事の様に自らの推測を述べる。

 「もう、ヲっちゃんが速攻でバラすから。」

 エミリーはそんな隻眼ヲ級に改めてダメ出しをする。
 最も、端から見ればその様は一人漫才している様にしか見えないのだが…。

 「で、お兄さんはどうする?」


 エミリーはアルフレッドに決断を促す。
 彼自身にしてみれば判断材料は少ないと言わざるを得なかった。

 「…解った、ついていこう。」


 しかし、彼はある事を思い出すと一旦瞼を伏せて数秒の後、瞼を開き力強く返答を告げる。
 やらない後悔よりする後悔、今回はその言葉に該当する機会、そんな気がしたのだ。

 「OK、じゃ先ずは此処から離れよう♪」

 エミリーはそう告げながら自身の腰の辺りの何も無い所に出現したキーボード風のエネルギー体の数ヶ所に軽く触れると、履いている靴が瞬時に水上移動用の艤装へと変化して行く。

 「しっかり手を握っててね、お兄さん♪」

 エミリーはアルフレッドの手を握ると、荷物を含めたアルフレッドの重さを物ともせずに駆け出す。

 「待て、俺はニンジャじゃな…うおおおっっッ?」

 そのまま沖合に出ようとするのを制止しようとするアルフレッドの言葉はエミリーに引っ張られる事で中断される。
 如何に艦娘と言えど、筋肉質気味な成人男性を荷物込み且つ水没させる事無く牽引する事は出来ない。
 にも関わらずエミリーはそれを実行してしまっている理由の一つは今の彼女自身の状態故なのだが。
 海岸から離れた所でアルフレッドは足元が何かの上に乗っているのに気付く。
 良く見るとアルフレッドの足下に二つの黒い何かがいる事に気付く。
 それは黒い涙滴型の体型と緑色の目を持つ、駆逐イ級を単純・無害化した様なぬいぐるみじみた何かが必死にアルフレッドを支えながらエミリーに追従している事を示していた。

 「あ、大丈夫だよ、それヲっちゃんのペットだから♪」

 アルフレッドが驚いているで在ろう事を見越してエミリーがフォローの言葉を入れる。

 (…全く、相変わらず深海棲艦使いが荒いな。)

 二人の意識に半ば呆れ気味に響く隻眼ヲ級の溜め息混じりの呟き。

 「私を乗っ取ろうとした事が運の尽き、って事で♪」

 エミリーはそんな隻眼ヲ級の呟きに対してさも楽しそうに言葉を紡ぐ。
 軈てある程度沖合いにでるとやはり波が無視できない大きさになり始める。

 「ヲっちゃん、擬艦化とマジカルステルス宜しく!」

 エミリーは隻眼ヲ級にむけて呼び掛けると、精一杯の跳躍を行う。

 「うおわあぁぁぁッッ!」

 そんなエミリーと隻眼ヲ級に対してアルフレッドは最早エミリーの手を握る事と荷物を手放さない事で精一杯だった。
 次の瞬間、跳躍したエミリー(と彼女に引っ張られているアルフレッド)の眼下に艦橋の形状がが空母ヲ級の被り物を思わせる航空戦艦が実体を伴って出現していた。
 その形状は最近になって出没し始めている一般的な空母ヲ級の擬艦化形態とはまた別の威容を海原に誇示しており、その艦首は初期の化物じみた外見の深海整艦の頭部を思わせる形状を持つと同時に剥き出しの歯の様な模様が刻まれていた。
 エミリーはその後部甲板へと着地するが、アルフレッドの方は何とか転倒しない様にするのが精一杯となった。
 エミリーとアルフレッドが後部甲板に着地すると同時に駆逐イ級を単純・無害化した様な何かは蜃気楼の様に消え去り、謎の艦船は全速力で沖合いを離れて行く。
 気が付けばいつの間にか周囲の空は嘘の様に晴れ上がっていた。


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あきゅろす。
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