[通常モード] [URL送信]

分断された海の片隅で:隻眼ヲ級の証言/Emily's Report ZERO若しくは序章
霜川富次編:クリスマス(一部)中止のお知らせ
 2###(着任四年目)/12/23:M海域・学園艦の幻影出現地点近海・高雄(艦これ)実艦化形態・艦橋


 アルフレッド達が此方側へと確実に帰還すべく甲板部への移動を開始した丁度その頃。


 再建した明土第七七四集積地鎮守府の二年目の(ジャパニーズ・)クリスマス(パーティー)は突如担当海域内のとある地点に出現した学園艦の幻影の監視によって一部中止となった。
 本土の提督(艦これ)達は大規模作戦への参加を理由に監視任務を拒否、事の重大性を感じ取っているであろう一部の提督(艦これ)達も様々な内部事情や外的要因から所属艦娘を直ぐ様派遣する事は出来ず、結局明土第七七四集積地鎮守府だけで監視任務を担う事となり、鎮守府挙げてのジャパニーズ・クリスマスパーティーは長門(艦これ)3762275と憲兵さんの監修下での各艦娘の自主判断に任せる、という形での継続を命じると舞鈴艦隊と第三艦隊を率いて自ら該当海域へと赴き、今に至る。

 「現在学園艦の幻影は相変わらず明滅を繰り返しています。」

 仮想表示版を操作しながら霜川提督に告げるのは現在実艦化形態を採っている高雄(艦これ)41457816、今霜川提督の目の前に居る、いや映っている姿は立体映像による物だ。
 彼女は明土第七七四集積地鎮守府筆頭秘書艦にして同鎮守府内の嫁艦レースの本命である。
 一度は霜川提督の功を焦った事による判断ミスで轟沈判定となるも、応急修理女神の名を持つ明土鎮守府方式の救急医療システムによって一命を取り留めている。
 彼女はその後も筆頭秘書艦で在り続け、今では演算能力とバルジの名を冠した外付型重力防壁発生器による防御力をして火力以外はかの“霧の艦隊”の重巡洋艦級並では、とも噂されている。

 「ですがほんのコンマ数秒ずつですが明滅の間隔は短くなっていると同時に幻影自体がはっきりと形の解る様になっています。」

 高雄(艦これ)41457816が未だ肉眼では水平線の辺りに小さくそれらしい何かが確認出来るだけなかの学園艦の幻影の状況の推移を霜川提督に報告する。

 「……高雄さん、肉眼でその輪郭が確認出来るギリギリの位置まで第二船速で前進、舞鈴艦隊並びに第三艦隊は何時でも艤装を展開出来る状態で待機を。」
 「了解しました。」

 霜川提督はその報告を以て高雄(艦これ)41457816並びに連れて来た所属艦娘達に指示を出す。

 「提督、やはり援軍要請は芳しくないのですか?」

 その艤装を触媒に実艦化させた船体を前進させ始めながら高雄(艦これ)は霜川提督に援軍要請の結果を問い質す。

 「正直、芳しくは無いですね。

 その質問にその表情を苦々しい物に変えながら悲観的な答えを返す霜川提督。

 「本土の殆どの鎮守府は元より、今回の一件の重大さを理解して下さった鎮守府の皆さんでさえ各々の緊急案件故にこの海域への派遣は大幅に遅れる、との事です。」

 それはまるでそうなる事を狙っていたかの様に。
 最も日本から南太平洋の一角であるこの海域への艦娘の派遣は式神転移が使えたとしてもはいそうですかと簡単に出来る物でも無いのだが。

 (結局増援が確定しているのはニミッツを旗艦として周航しているアメリカの分遣艦隊のみ……いきなり問答無用のB-2じゃないだけ未だ有情、か……。)

 この辺りは流石アメリカ合衆国海軍といった所か。
 尚、分遣艦隊曰く必要と有らば戦術核弾頭のトマホークの使用も辞さないとの事。
 それだけでも学園艦が実在した場合何れだけの存在になるのかを端的に表していると同時に(この物語の世界の)アメリカ合衆国の本気度も伺い知れた。

 「なんぽっぽさんさえ恐怖に怯えながら近付く事さえ拒否した……多分、ただ学園艦が、という訳には行かないのでしょうね……。」

 自身の担当する海域の深海棲艦の領主とも言える南方棲戦姫(M海域)が自身で無くなると恐怖に身を震わせ、泪ながら呉越同舟的な共闘を拒否した事に言及する霜川提督。

 「もしかしたら、あの人達の居る世界線絡みなんでしょうか……。」

 高雄(艦これ)41457816が学園艦の幻影が在るであろう方向の水平線をみながら約半年程前に出会った別世界(線)の一つの鎮守府、地獄の二つ名を持ち一般的な懲罰部隊さえ天国に思える程とされているとある鎮守府の関係者達の事を思い出す。
 かの鎮守府の存在する世界(線)は学園艦、曳いては戦車道が実在する世界(線)の一つ。
 そしてその鎮守府の某マッチョな現役ハリウッド俳優(※2020時点)激似(らしい)な覆面提督の話では怪異の類いは存在するらしい世界(線)。

 (もしそうなら、なんぽっぽさんの反応、そして怪異は存在すると云うあの人の証言、それらを合わせて鑑みた場合、あの学園艦の幻影の行着く先は……。)

 右手の親指を右頬に当てながらそう考える霜川提督のその視線の先に有るのは、ようやっとこの世界(線)なりに掴み取った未来を、その歩みを引っくり返し兼ねない存在。
 只の学園艦でさえこの世界の軍事バランスを崩し兼ねない存在であり、それに怪異的要素、若しくはかの世界(線)の深海棲艦の要素が加わった存在ならば……。

 「提督……。」

 流石に見かねたのか高雄(艦これ)41457816が励ましの言葉を投げ掛けようとするべく立体映像ながらにその手を霜川提督の腕に絡めようとする。

 「な〜に、湿気た顔しているんですか。」

 そこへ霜川提督の前に仮想表示版が出現し、顔に少し煤が付いているピンク色の髪のロングヘアーの女性が写し出される。
 彼女は明石(艦これ)(分霊)、今年の秋に発動された明土鎮守府方式の鎮守府による大規模作戦である(第X次)発令!第十一号作戦の甲難易度に挑んで前段作戦は完遂した事の報奨として着任した甲勲章持ちのオリジナルの分霊達の内の一個体だ。

 「湿気た顔で嘆く前にやれる事をやっておきましょうよ。」
 「どうも明石さん、それはそうなんですが。」

 あっけらかんと励ます明石(艦これ)と霜川提督のやり取りの中、しっとりと励まそうとしていた高雄(艦これ)は何処か不機嫌そうだ。

 「私達の世界にはつい先日提督から聞いた例の別世界(線)の方々達の様な全てを解決出来る筋肉は持ってはいませんが、私達の世界にはOT装備に噂レベルですけど神話の時代の魔法すらあるらしい世界なんです。」

 そう、この世界は成すべき事を成そうとした各々違う分野の人間や艦娘、そして自らの意思で歩く事を選んだ深海棲艦の穏健(棲み分け)派によって最良(に近い)答えを得た世界なのだ。
 ならば今はそれを、掴んだ未来を手放さない為の戦いを自分達のやり方ですれば良いだけの話なのだ。

 「そして何より私達にはカラテが有るんです、それで解決すれば良いんですよ。」

 陰鬱な空気を笑い飛ばさんとばかりに仮想表示版明石(艦これ)(分霊)は手をヒラヒラと上下させながら朗らかに言い放つ。

 「で、こんな事もあろうかと用意し……」
 「あの艦娘用マ〇チ〇ルアサ〇トス〇ラ〇カー〇ックは駄目ですからね、確かにあれなら対軍から対鬼・姫級迄対抗出来ますけど、自前で使える資材を明土鎮守府方式基準でもグロ画像状態にしたいんですか?」

 霜川提督は式神転移完了後に明石(艦これ)(分霊)が持ち込んだ事が判明した(この(物語の)世界(線)の)とあるOT鎮守府から借金清算の為に接収された艦娘サイズの某日本のロボアニメシリーズの内の一つの所謂全部乗せ系背部追加装備とその装備の欠陥に言及して使用禁止を言い渡す。
 一方霜川提督を慰撫していい雰囲気になろうとしたのを結果的に阻止される形となった高雄(艦これ)41457816(の立体映像)は泪で顔を真っ赤にしながら頬を膨らませつつその両手に持った仮想表示版で霜川提督の後頭部を叩いていた。
 無論立体映像でしか無いので仮想表示版の霜川提督の後頭部に触れた部分がその都度表示が途切れながらすり抜けるだけなのだが。

 「そもそもあれ元ネタ的に継戦能力に問題が有ります、もし私達が学園艦やそれが怪異化若しくは深海棲艦化した存在と相対する事になった場合に私達が出来る事は基本増援到着迄の遅滞戦闘です、設計思想が真逆なあの装備は自殺行為に成りかねません。」

 そんな高雄(艦これ)41457816を余所に霜川提督はかの全部乗せ背部追加装備の欠点を実際に作戦行動を取る事になった場合の基本方針に絡めながら明石(艦これ)(分霊)に説明する。

 「……どうしても、というなら舞鈴艦隊の最上型姉妹の皆さんに許可を取って基本となる空戦装備部分のみを使える様にして伊勢さんや日向さんの随伴、列びに自力での海域からの離脱が出来る様にする位に留めてくださいよ?」
 「あーはいはい。」

 霜川提督の妥協案とも云うべき提案に明石(艦これ)(分霊)が塩対応な返事を返した所で明石(艦これ)(分霊)を写し出していた仮想表示版がまるでブラウン管のテレビの電源を切った時の様に消滅する。
 一瞬疑問に思った所でただならぬ気配を感じた霜川提督がその気配の方向へと視線を向けると膨れっ面な高雄(艦これ)41457816(の立体映像)が視線の先に有った。

 「あー……すみません、今は帰ったら本土の間宮で勘弁して下さい、お願いします。」

 そんな高雄(艦これ)41457816にある日の憲兵さんからの言葉を思い出した霜川提督は謝罪の言葉を先に出した上で対案も提案する。

 「……それは今回の任務に同行した皆さんにお願いします。」

 霜川提督の対案込みの謝罪に顔を背けつつ対案の条件に上乗せする高雄(艦これ)41457816(の立体映像)の表情は膨れっ面のままながら満更でも無い、と言った所だろうか。

 「そして私には帰ったら夜せ……」
 「それをこの場で告げるのは縁起が悪いので駄目です……お気持ちは嬉しいのですが。」

 膨れっ面から元に戻った高雄(艦これ)41457816(の立体映像)からの頬を赤らめながらの自身を対象とした意味深な方の夜戦の提案を霜川提督は拒否する。
 最もそれはその手の色恋沙汰な約束は縁起が悪いからと云う理由故なのだが。

 (このままあの幻影が幻影のまま消滅して終わってくれれば良いのですが……。)

 霜川提督はある意味最も望ましい展開を願わずにはいられなかった……。

[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!