分断された海の片隅で:隻眼ヲ級の証言/Emily's Report ZERO若しくは序章
アメリカン・カントリーガール
2###/##/##:艦内食堂・隻眼ヲ級擬艦化形態・公海上・太平洋
「いや、未だだが努力はする。」
アルフレッドは簡潔に答える。
「後、時折誰もいないにも関わらず何か居る様な気がするのだが。」
序でにと言わんばかりにアルフレッドがエミリーに質問し返す。
「ん…ああ、それ妖精さんだよ。
艦娘用の艤裝の中には妖精さんが制御しているの、艦載機とか。
で、基本的に妖精さんは艦娘にしかその姿を見る事ができないんだ。」
「そうか…。」
エミリーからの返答を聞くアルフレッドの表情はどこか寂しそうにも見えた。
「そうだ、お兄さんはどんな仕事して来たの、良かったら教えてよ。」
そんなアルフレッドに何かを察したのか、エミリーは話題を変える。
「先ずは私から教えるね。」
自分ばかり聞く側では申し訳無いとばかりにエミリーが先に自らの経歴を語る事をアルフレッドに伝える。
「簡単に言っちゃうと、アメリカの田舎娘、それが私だよ。」
エミリーはいきなり端的に自らの出自を告げる。
「出身はアメリカ内陸部の地方都市ですら無い、良くも悪くも昔のアメリカなまんまの田舎町。
んで、そこでグランマとグランパと暮らしてたんだ。」
エミリーの幻影がその両手を後頭部に添え直すと、何かを思い出す様にその視線をアルフレッドの後方の天井へと向ける。
「彼処は本当につまんなかった、グランマとグランパが居なかったら嫌になってた位。」
艦内放送から聞こえたその時のエミリーの声はどこかうんざりしている様にも取れた。
「でもでも、グランマとグランパはすっごく大事にしてくれたよ!
グランマは手作りお菓子の作り方とか色々教えてくれたり、グランパも私がグランパのパソコンでネットを見ていたのも見るだけなら黙ってくれてたし。」
しかし、話が祖父母に及ぶと一転して幻影による身振り手振りを交えながら楽しそうに語る辺りは本当に祖父母の愛情を一心に受けて育ったのだろう。
「そんなんだから深海棲艦云々云われても、役人から私がアメリカにとって特別な“ビッグE”の名を冠した艦娘の艤裝の適合者って云われてもピンと来なかったんだ。」
そうつけ加えたエミリーの幻影は苦笑いを浮かべていた。
「その時にちょっとした騒ぎになった上に色々有ったんだけどその辺は省略。」
そう言ったエミリーの幻影の表情が一瞬憂いを帯びた物となるが、アルフレッドがそれに気付いた様子は見受けられない。
「あ、グランマとグランパは今も元気にしているよ?」
今度は真顔で祖父母が健在である事をつけ加える。
この表情の豊かさもある意味本当に愛情を一心に受けて育った事の証明なのだろうか。
「結局何だかんだ艦娘になったんだ。
ネットで見た世界各地の風景や世界遺産認定されていた建物、そして今の日本で云う所のカタカナで無い世界をこの目で見てみたかったし、グランマとグランパにも恩返ししたかったから。」
エミリーは喋り疲れたのかここで一旦言葉を区切る。
「で、艦娘になったらなったで無敵だと思ってた軍が建て直しが必要になってる程にガタガタだったり、救世主扱いされたりとか知らない事ばかりだった事を思い知らされたんだけど、その辺りも省略。」
「おいおい、省略が多すぎるだろ。」
思わず突っ込みを入れてしまうアルフレッド。
「えー、だって下手に詳しく話そうとすると“長い、三行で”とか言って拒否されちゃうかも知れないじゃん。」
ネットをコミュニケーション手段として使おうとするとよく目にする事を理由として挙げられた事にはアルフレッドも苦笑いで返すしか無かった。
「で、お兄さんの方は?」
「?」
不意のエミリーからの催促に些か間の抜けた表情を晒してしまうアルフレッド。
不意を突かれたのも有ってかアルフレッドは暫し押し黙ってしまう。
「…俺は西海岸沿いの都市部の郊外出身、見ての通り日系クォーターって奴だよ。」
今度はアルフレッドが自らの出自を語り始める。
「…十代後半の頃は単純労働系のバイトに明け暮れていた。」
この辺りは長い間が空いた辺りかなり言葉を選んでいるのだろうか。
「二十代からつい最近まではPMCSに所属していた。」
この時のアルフレッドの表情は苦虫を噛み潰した様にどこか苦しそうであった。
「…そこでの業績が悪くて社長から長期休暇と云う名の戦力外通告を受けてな、暫くある意味無為にすごしていた訳なんだが、不意に社長がPMCSの経営をほったらかして嵌まっていた提督業に興味を持ってな、パスポート偽造して実質鎖国状態な今の日本で提督業について調べていた所で君達と出会った、そんな所だ。」
「何か最後の方以外あっさりし過ぎてない?」
アルフレッドの経歴の説明に対する第一印象を告げるエミリー。
「波乱万丈の人生な方が珍しいぞ。」
エミリーの問いに対してある意味模範的とも取れる答えを返すアルフレッド。
「ふーん…うん、そういう事にしておいてあげる。」
色々腑に落ちない何かを感じつつも、エミリーは取り敢えずはアルフレッドの返答を受け入れて置く事にした。
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