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明土第七七四集積地鎮守府にて:第二部
2###年(着任五年目)06月初旬:南太平洋・M海域・明土第七七四集積地鎮守府・個人用地下工廠
 「ようこそ、私の個人用地下工廠へ。」

 地下倉庫へと続く斜めに上下するタイプの貨物運搬用リフトで降りて行った最深部にある何等かの工廠とおぼしき場所へ明石(艦これ)はそう言って霜川提督を迎え入れる。

 「ここが貴女がこの鎮守府の再建に力を貸してくれた理由ですか。」

 霜川提督が辺りを見渡すと、この工廠とおぼしき場所の片隅に2m位の長さの縦長のケースが壁に斜めに立て掛けてあるのが目に入った。

 「ああ、やはり目に入りましたか。」

 明石(艦これ)(分霊)もまたケースの方へと目を向ける。

 「あれに納めてあるのは翔鶴さんに用意したのと同じ対OT艤装用特火重粒子砲、所謂バスター砲って奴です。
 「明石さん、それは……。」

 明石(艦これ)(分霊)の言葉に霜川提督が何かを言い掛ける。

 「御推察の通り、OT艤装を破壊する為の、そして広域殲滅兵器です……全力で撃てば、ですが。」

 霜川提督に先んじるかの様に明石(艦これ)(分霊)がケースの中に納められている物がどういう物なのかを答える。

 「そもそも対OT艤装用特火重粒子砲自体私の、いえ全ての艦娘・明石やその艤装に込められた魂の元となってい第零世代、即ち横須賀鎮守府の作戦本部付きのオリジナルが作ってしまった物なんですよ。」

 続けて明石(艦これ)(分霊)はそれが本来誰が作ってしまった物なのかを霜川提督に伝える。

 「多分彼女は艦娘の本質を理解せずに艦娘からかけ離れ過ぎて最早別物な艤装を艦娘に身に着けさせ、それがどういう事になるかも考えずに只戦闘能力に酔いしれている者が少なくない状況に少なからず無意識下で怒りを抑えていた。」

 明石(艦これ)(分霊)はそのまま第零世代、本当の始まりの三人の一人である(この物語の世界線の)オリジナルの明石(艦これ)が作ってしまった理由を語る。

 「やがて魔が差した様に気が付けば由来となった実艦の馬力が一定以上の艦娘なら誰でも使えるバスター砲を生み出してしまった。」

 それは横須賀鎮守府作戦本部付きの(この物語の世界線の)第零世代、即ちオリジナルの明石(艦これ)もまた人の心を持つ存在、外見年齢相応の女性である事を示唆していた。

 「同時にそれを作ってしまった事に彼女は悩んでいたみたいですね……それこそ制式の艤装で真面目に頑張っている全ての艦娘達への背信行為でもあったのですから。」

 表情は我が事の沈痛な面持ちなれどどこか他人事な物言いで当時の(この物語の世界線の)第零世代の明石(艦これ)の心情を語る明石(艦これ)(分霊)。

 「で、悩んだ末に私を生み出して対OT艤装用特火重粒子砲の製法を良く言えば託した、悪く言えば押し付けた訳ですよ、これが。」

 一転、明石(艦これ)(分霊)はあっけらかんと笑いながら自身の出自を霜川提督に語った。

 「その後一旦他の鎮守府に配属されて暫くしてこの鎮守府の存在を知って行く機会を伺い、あの日の襲撃に対する救援を当時所属していた鎮守府の提督に進言、貴方との接触を計りました。」

 明石(艦これ)(分霊)は近くの休憩用にテーブルクロスを掛けてあるテーブルの処まで行き、椅子を引き出して腰掛けると左腕を水平に振って霜川提督に自身と対面にある椅子への着席を促す。

 「で、この鎮守府の再建にお力添えさせていただいた訳です、勿論この個人用地下工廠という下心有りで。」

 明石(艦これ)(分霊)は下心も包み隠さずかの“熱風界”に焚き付けられた深海棲艦の徹底抗戦過激派による襲撃後の明土第七七四集積地鎮守府の再建に所属の壁を越えて力を貸した理由を語る。
 どうやら決して美談の類いではなかった様だ。

 「そして昨年秋の大規模作戦で前段のみとは言えど甲作戦を達成したので甲勲章明石としてこの鎮守府に着任して今に至る、という訳です。」

 そう言いながら明石(艦これ)(分霊)はテーブルの上で掌を上にして交差させた後に両腕を外に離す様に水平に動かして自身に関する話を締めくくった。

 「あ、お茶入れて来ますね。」

 そう言って明石(艦これ)(分霊) は席を立つと奥の低賃金の賃貸住宅に備え付けて有りそうな流しへと歩いて行った。

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あきゅろす。
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