秘密(※18禁) ただのエロ だけどぬるい



 背伸びをして左耳に唇を寄せれば、それが始まりの合図。
 白く引き攣れた傷痕をそっと舌先で撫でると、体が大袈裟に跳ねて、悪戯を咎めるような視線を送られる。

 その目を笑って見つめたまま、頬に唇を滑らせる。
 三日月の形をした細い切れ込みに軽く歯を充てれば、諦めたようなため息とともにカイジが洗い物をする手を止めた。

 カイジの体の其処此処に残る傷や焼き印が、しげるは好きだった。
 それは取りも直さず、博打に対するカイジの『狂気』とか『矜持』そのものを顕している。
 だからカイジに出会った当初から、しげるはその生々しい傷痕を見るのが好きだったのだが、傷のあるところに触れるとひどく敏感な反応が返ってくることを知ってから、ますます好きになった。




 窓も扉も締め切った部屋で、しげるはカイジの手を引いてベッドに乗り上げる。
 そっと体を横たえ、肩を押さえ込むようにして覆い被さると、暗い影の下、カイジがふて腐れたような顔でそっぽを向いた。
 始める前のカイジは、いつだってこんな顔をしている。
 単に照れているだけなのだとわかっているから、こんな表情もしげるの目には子供じみて可笑しく映るのだった。

 一枚ずつ服を脱がせていって、露わになった部分に唇をつける。
 くまなく舌を這わせてゆき、この前つけた痕を見つけたら、上書きする。
 うっすらと残っている鬱血の痕を強く吸い上げるたび、カイジは体に震えを走らせた。

「見えるところにつけるなよ」と、カイジはいつも口酸っぱく忠告してくる。
 だが、しげるに言わせれば、見えるところになどつけるわけがないのだ。

 花弁のように散らばるその痕は、所有の証などでは決してなく、しげるが見つけたカイジの感じるところにつける目印のようなもの。
 誰が好き好んで、恋人の性感帯を有象無象に知らせてやるような愚かな真似をするだろうか?

 頭のてっぺんからつま先まで、ぴんと張りつめているみたいに敏感なカイジの体。
 次に会うときまで、多すぎる性感帯のひとつひとつを忘れてしまわないように、しげるは印を残す。
 そして、会えない間、服を脱ぐたびにこの痕を目にするカイジが、自分のことを思い出せば、それでいい。

『この人は自分のものだ』と、他の奴らに知らしめる必要なんてない。
 この部屋で行われるすべての行為は、ふたりだけが知っていればいいのだ。



 やがて、カイジの息が微かに上がり、大きな目に涙が溜まってくる。
 下におろした手で、戯れに鈴口を擽ってやると、仕返しとばかりに首筋を緩く噛まれ、しげるの口から笑い声が漏れた。

 そこはしげるがカイジに教えてやった、敏感な部分のひとつであった。
 はじめは、いじめすぎると行為の最中でもすぐに臍を曲げてしまうカイジへのご機嫌取りのつもりで、自分の弱いところを明かしてやっていたのだが、カイジもしげるとの性交渉を重ねるごとに、自分から動いてしげるの昂ぶるところを探し出し、覚え、責めてくるようになった。

 その変化を、しげるは愛くるしく思う。
 カイジにしてみれば、自分だけが好き勝手弄ばれていることが頗る面白くないから、しげるも同じ目に遭わせてやろうとしているだけなのだろう。
 だから、自ら能動的に動いて男の肌を弄るその様子が、しげるを愉しませているということには気づかない。
 理由はどうあれ、ただ与えられる快楽に唇を噛んで堪えるだけだったカイジが、頬を染めつつもぎこちなく指や舌を使って自分を昂ぶらせようとする、その淫らな姿を見ていると、その体を掻き抱いて、朝までじっくり時間をかけ、いろいろなことを丁寧に教えてやりたくなるのだ。

 互いの秘密を暴きあい、ときには耳打ちで教え込んで、そうしてふたりだけの世界をつくる。
 恋人と共有する秘密ほど、甘美なものはない。
 初めてのその味を知ってしまえば、到底離す気になどなれなかった。



「ここだよね。カイジさんが、いちばんすきなとこ」

 直腸の中を指で探って、指先に馴染みのある壁の一点をクリクリと押すと、カイジは「あぁ、」と声を漏らして身を捩る。
 それから、キッとしげるを睨みつけ、上擦った声で呟く。
「妙なことばっか、覚えやがって……」
「覚えさせたのは、あんたでしょう?」
 クスリと笑って言い返し、しげるがソコを撫で続けると、カイジはヒクヒクと体を痙攣させながら、自分の腕を噛んで声を殺す。

 肌の上とちがって、粘膜には印をつけられないのをしげるは残念に思う。
 ココも、口の中も、鈴口だってそう。
 濡れている部分は、カイジを特に乱れさせられるところなのに、そこには真っ赤な痕を散らすことができない。

 だから代わりに、しげるはカイジの濡れているところを、他の性感帯よりもずっとねちっこく弄くるのだが、そうするとカイジがすぐに限界を迎えてしまうため、しげるは名残惜しげに指を引き抜いた。

 くったりと力の抜けきった、猥りがわしい姿を見ながら、しげるはその体を裏返してバックの体勢を取らせる。
「ほら、ちゃんと四つん這いになって……挿れるよ……」
 硬くなったモノをすりすりと擦り付けると、カイジはノロノロと動いて言われたとおりの体勢をとる。
 唇を噛んで後ろを振り返ってくる、その視線は強気に自分を睨みつけているのに、どこか犯されるのを期待しているような被虐的な色を感じさせ、たまらずしげるは奥深くまで一気に貫いた。
「あっ! あーー、あぁぁ……!!」
 なんの予告もなくずぶりと根本まで挿入され、カイジは背を仰け反らせて獣の咆哮を上げる。
 驚いたように締め上げてくる腸壁のあたたかさを、ずっとこのまま、動かずに味わっていたいとも思ったが、しげるはその誘惑を振り払い、腰を動かし始める。
「あ、あっ……ん、しげ、る……っ」
 前についた手でシーツをしっかりと握りしめ、髪を振り乱して甘く喘ぐカイジに、視覚からも聴覚からも煽られ、しげるは目を閉じて深くため息をつく。
「きもちいいね、カイジさん……」
 うすく汗をかいた背中に覆い被さり、浮き出た肩甲骨に噛みつくと、ひときわ艶を帯びた声とともに、中が切なげにきゅっと締めつけられる。
 噛んだところに舌を這わせながら、しげるは低く喉を震わせて笑う。
「ん……ね、カイジさん。ぜったい、秘密だからね……」
 密着させた腰を揺すりながら囁くと、快感に潤んだ黒い瞳が問いかけるように見つめてくる。
 しげるは欲望を滾らせた目でその瞳を見つめながら、声を潜めて言った。
「あんたが……こんなにエッチだってこと。他の誰にも、教えちゃ駄目だよ……」
 返事を待たずに、しげるはカイジの唇に吸いつく。
 半開きの隙間から舌を差し入れ、ぴちゃぴちゃといやらしい水音をたてながら絡ませれば、カイジは悩ましげに眉を寄せながら、息継ぎの合間に反論してくる。
「ふぁ……ん……っ、教える、かよっ……、そんな、こと……んんっ、お前以外の、誰に……ッ」
ーーあらら……自分が今なに口走ったか、わかってるの? カイジさん……
 糸を引いて離されたしげるの唇が、自然と笑みの形につり上がっていく。
 快感に翻弄され、虚ろに目を見開いて霰もなくよがるカイジ。
 たまらない、と全身を使って叫ぶようなその姿に、しげるもたまらなくさせられる。
 自分だけがそんなカイジを知っていて、また、カイジだけがこんなにも貪欲に乱れた自分の姿を知っているということに、しげるは背筋がゾクゾクするほどの快感を覚え、

「ーーぜったい、秘密だよ。オレたちだけの」

 見つけたばかりの性感帯ーー硬く隆起した肩甲骨の上に、新しい秘密の印を、赤く、濃く残した。







[*前へ][次へ#]
[戻る]