ツキとキス・6



「はー……勝った勝った……」

 入店時の数倍に膨らみ、ずっしりと重くなった財布を尻ポケットにしまいながら、カイジは満足げに呟く。
 そして、勝ち金を無造作に懐へ押し込んでいるアカギを、満面の笑みで振り返った。
「ありがとな! お前のお陰だよ。これ、今日の礼」
 言いながら、小さなハイライトのパッケージを差し出すと、アカギは動きを止めた。
「さっき、切らしてたろ? もしかするとあれが、今日の分の不運だったのかもなー……」
「礼って、あんだけ稼いどいて……どんだけセコいんだ、あんたは」
「う、うるせぇよっ……! 人の厚意に、ケチつけんなっ……!」
「……はいはい、どうもね」
 罵られて怒るカイジを面倒くさそうな顔でいなしつつ、アカギはハイライトを受け取る。

 さっそく封を切り、うまそうに一口吸ってから、アカギはカイジに尋ねた。
「……で? これから先、どうするの?」
「へ? どうする……って?」
「お裾分け。これからもしてほしいなら、オレは構わないけど」
 アカギの言葉に、カイジは燃えるように真っ赤になる。
「あんたもう、ハマっちまったんじゃない? そう簡単には抜け出せないでしょ、勝ちの快感からはさ」
 悪魔の囁きに、カイジは難しそうな顔でうんうん唸りながら迷い始める。
 一方、当然ふたつ返事で懇願されると思い込んでいたアカギは、意外そうな顔でタバコをふかしつつ、カイジの様子を見守った。

 ずいぶんと長いこと、カイジは思い惑っていたが、すっかり短くなったハイライトをアカギが揉み消す頃に、ようやく踏ん切りをつけ、顔を上げた。
「いや……もう、いい。ほんのちょっとの不運とはいえ、お前の幸運がオレに移ることで、お前に迷惑がかかることには、違いねえわけだしな……」
 それにさ、と言って、カイジは意思の強い瞳でアカギを見る。

「お前に分けて貰った幸運で勝ったって、それはオレの力で勝ったとは言えねえだろ? オレはやっぱり、オレ自身の力で、勝ちを築きたい……!」

 稀有なほど純粋な、ギャンブラーとしての矜持を感じさせるその瞳に、アカギは愉快そうに目を細める。
 それから、すっと表情を変化させ、悪漢そのものの顔つきでカイジに近づいた。
「ところがどっこい……そうはいかねえんだよ、カイジさん……」
 本能的な危機を感じて、カイジは思わず後じさる。
 しかしあっさりと壁際に追い詰められ、腕で体を囲われて、カイジの背中を嫌な汗が伝った。

「あ、アカギ……?」
 びくびくと名前を呼ぶカイジに、アカギは白々しいほどやわらかい笑みを向ける。
 そして、やにわにカイジの顎を持ち上げると、遮二無二唇を合わせた。
「!!!!」
 あまりのことに目を白黒させるカイジだったが、ぬるりと潜り込んできたアカギの舌に、半狂乱になって暴れ出す。
 今までしてきた三度のキスとはぜんぜん違う、濃厚で、水飴みたいにべたべたとした口づけだった。
「んーーーーッ!!」
 背中を拳でドンドンと殴りつけるも、アカギは動じない。
 口内を這い回る舌に噛みついてやろうとしても、するりと逃げられ、かなわなかった。

 うまく息継ぎができず、カイジが酸欠状態になりかけた頃、アカギはようやく唇を離した。
 口いっぱいの文句を今すぐにでも投げつけたいのだろうが、荒くなった息ではそれができないらしく、ただ涙目で自分を睨みつけてくるカイジにふっと笑い、アカギは唾液で濡れたその唇を拭ってやる。

「オレの方が、ハマっちまったんだ……あんたにな。悪いが、つきあって貰うぜ……」

 あんたの意思など関係ない、とでも言うように、低く喉を震わせるアカギに、カイジは総毛立った。
 逃れようと体を動かすも、すかさず足の間にアカギの足を割り入れられる。
 アカギの膝にゆるゆると股間を撫で上げられ、カイジは「ひっ」と悲鳴を漏らした。

「なぁ……キス以上のことしたら、あんたとオレのツキはいったいどうなっちまうのか……試してみねぇか?」

 耳たぶを甘噛みしながら囁かれ、カイジは首を横に振ることすらできず、やがてアカギの唇がもう一度襲ってくるまで、仔犬のようにただぷるぷると、哀れに体を震わせ続けていたのだった。




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