ツキとキス・5




「うおぉっ……!! 出るっ……! 出るっ……! 湯水のように……! しあわせぇ〜〜〜〜っ……!」

 ジャラジャラと吐き出される銀の玉に、今にも涎を垂らしそうな顔で快哉を叫ぶカイジを横から見て、アカギはぽつりと呟いた。
「……なるほどね。あんたの確かめたかったことって、これだったんだ」
 アカギは飛び抜けて勘がいいので、もう既に、おおよその察しはついてしまったらしい。

 台に座って打ち始めて二十分後、さっそく確変大当たりを決めたカイジは、満タンになった下皿の玉を流しながら、上機嫌でアカギに話しかける。
「いや〜〜っ! まさかとは思ったけど、すげえな! 『キスで幸運お裾分け』なんて! お前っていったい、なに者なんだよ? ほんとに、人間なのか!?」
「なに者って……さぁ……ふつうの人間だと思うけど? こんなことが起こったのも、あんたが初めてだし……」
 ハイテンションなカイジに苦笑いしながら、アカギも下皿レバーを引く。
 カイジもフィーバーしているが、アカギはその更に上を行く大フィーバーを、開始五分で決めていた。
 自分より高く積み上がっているアカギのドル箱を見ながら、カイジはアカギに言う。
「オレに移った分、お前の幸運が磨り減ってるわけじゃねえんだな……」
「いや……そうとも限らないぜ」
「へ?」
 思いがけないアカギの言葉に、カイジはぽかんとする。
「道理で……あんたとキスした直後は、妙なことが続くわけだ……」
「妙なことって……まさかお前……ギャンブル、負けたり……」
 青ざめた顔で息を飲むカイジに、アカギは笑って首を横に振る。
「いや、それはないけど」
「そ、そっか」
 カイジはほっと息をつく。現に今、これだけの大勝ちを見せつけているのだから、その言葉に嘘はなさそうだ。
「じゃあ、妙なことって?」
 カイジが問うと、アカギは目線を斜め上に投げて思い返す。
「……朝、ぶつかった時は、その後あんたの家を出掛けに、靴紐が切れた」
「……は? くつ……?」
「こないだ酔ってキスされた後は、どっかの家の犬にやたら吠えられた」
「……」
 話は終わったとばかりに口を閉ざすアカギに、カイジは唖然とした。
「妙なことって……それだけかよ!?」
「うん」
 けろりとした顔で、アカギは頷く。
 カイジは戦慄した。

 キスによって、幸運が移る。
 それだけでももう、十二分に荒唐無稽な話だが、アカギ自身が荒唐無稽という言葉なんかじゃ役不足な、とんでもない男なので、そこはまあ、『アカギだから』でカイジもなんとなく納得できてしまう。
 しかし、もともとツキのないカイジにこれだけ大勝ちさせるほどの幸運を分け与えておいて、当の本人は、靴紐や犬ごときの瑣末なリスクしか負わないとは。

 ーーこいつの強運って、どんだけ底知れねえんだよ?

 アカギの未曾有の容量を、こんな形で改めて思い知らされ、カイジは思わず身震いした。

 そんなカイジをよそに、アカギは悠然と箱を積み上げていく。
 ポケットからハイライトのパッケージを取り出し、目を細めて中を覗き込んだあと、苦い顔で舌打ちし、手の中でそれをぐしゃりと握り潰した。




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