GAME(※18禁)・2



「そんなに怖がんなって。勝てるもんも勝てやしねえぞ?」
 戦々恐々とするオレに向かって、苦笑まじりに赤木さんが言う。

 怖がんなっつったって……無理だろ。
 なんにも見えないし、まともに動くことすらできない。
 こんな状態で四つん這いになんてさせられて、不安にならねえ奴なんてまずいねえだろうが。

 冷や汗が出て、自然と呼吸が浅くなる。
 恐怖に戦慄く唇をふいに指でなぞられ、たったそれだけのことなのに、喉奥から情けない声を漏らしてしまった。

「ルールは簡単だ。これからお前の口に、俺たち三人のうちの誰かが突っ込む」
「なにを!?」
「それが誰のナニか、わかったらあんたの勝ちだ」
「だから、ナニってなに!?」
「外したら、罰ゲームとして最後までイかせること」
「イかせるとかっ……! もう完全に、ナニってアレのことじゃねえかっ……!」
 頭を抱えたくなったが、手錠のせいでそれすら叶わない。

 わぁわぁと喚いているところに鋭い舌打ちの音が響き、オレは反射的に口を噤んだ。
「ごちゃごちゃうるせえな……今すぐ、その口塞いでやろうか?」
 世にも恐ろしいアカギの声にビクビクしつつも、オレは精一杯虚勢を張った。
「う、うるせー!! この変態どもっ……!!」
「その変態どものちんぽを、あんたはこれからしゃぶるんだよ」
 こここいつ、どストレートに言いやがったっ……!!
 カーッと顔が赤くなっていくのがわかる。くそ、こんなことくらいでっ……!

「ちょっと……くだらない喧嘩なんかしてないで、さっさと話進めてよ」
 欠伸まじりにしげるが文句を言い、赤木さんがルールの続きを話し始めた。
「お前が当てることのできた相手への借金がチャラになる。三人全員間違えずに当てることができたら、約束どおり、小遣いをやるよ」
 さっきはあんなに心踊らされた『小遣い』という言葉に、今はこれっぽっちも魅力を感じない。

 そんなことより今は、一刻も早くこの破廉恥なゲームから逃れなくてはっ……!!

 じりじりと焦るような気持ちで、オレは見えない三人に向かって言い放った。
「小遣いとかっ、いらねえっ……! 借金も真面目にコツコツ返しますからっ……! だから、こんなことは……っ」
 我ながら、なんで説得力のない言葉だろうと思うが、今のオレにできることといえば、必死の懇願くらいだ。
 ただでさえ四つん這いで低くなっている頭を、さらにヘコヘコと下げているオレの姿は、三人の目にはどれほど惨めに映っていることだろう。
 情けなさに涙が滲みそうになるのを、歯を食いしばって耐えていると、やさしく声をかけられた。
「お前がそこまで嫌がるなら、仕方がねえなぁ」
 垂れていた頭をぽんぽんと撫でられ、オレは動きを止める。
「赤木さん……」
「頭上げろ、カイジ」
 労わるような声音に、今までとはべつの涙が出そうになる。

 やっぱり、赤木さんはわかってくれるんだ……!

 じーんとしながら、オレは赤木さんに促されるまま、おずおずと頭を上げた。
「じゃあ、頑張れ」
 にこやかな声とともに、半開きだった口にズボッとなにかが突っ込まれる。
「……!?」
 衝撃に目を見開く。苦しいが、あまりに急なことで声すら出ない。
 一拍遅れて感じる、独特な匂いと生あたたかさ。舌に伝わる、肉の形と弾力。
 こ、これは、どう考えてもーー
「ん゛ーーッ!?」
 突っ込まれたモノの正体に気づいた瞬間、オレは思い切り頭を振って逃れようとした。
 しかし髪を掴んで固定され、ソレはより深くまで侵入してくる。
 容赦なく喉奥を突かれ、今朝食ったものを戻しそうになった。

 気道を塞がれるんじゃないかって恐怖に青ざめ、抵抗を忘れたオレの口内に、その肉塊はゆっくりと出し挿れされる。
「ん、んん……っ、ぐッ……」
 呻き声が漏れる。
 ゲームはもう始まっているということなのだろう、三人はさっきまでと打って変わって、一声も発さない。
 ただ、オレを見下ろす気配だけが、重圧のように伝わってくる。

 唾液が溢れてきて、口内を往復する肉棒にまぶされる。
 滑りが良くなって呼吸が多少、楽になったが、じゅぷじゅぷという水音と口端から垂れ落ちる唾液に言いようもなく羞恥を煽られる。

 この光景を面白がる三人の顔が目に浮かぶようで、オレはベッドについた手をぐっと握り締めた。
 思いきり噛みついてやろうかという考えが頭を過ぎらなくもなかったが、実行に移そうものなら死ぬよりひどい目に遭わされることは目に見えている。

 好き勝手にオレの口内を行き来する男根はいつの間にか硬くなり、その質量を増している。こみ上げるさまざまな感情をどうにか押し殺し、オレは舌に全神経を集中させた。

 考えてみれば、これはチャンスだと捉えることもできる。
 答えは三択。当てずっぽうを言っても、三分の一の確率で借金をチャラにできるのだ。
 一刻も早く答えて終わりにしたいが、せっかくのチャンスを無駄にはできないし、なにより外したら罰ゲームなのだ。
 不本意だがここは慎重に……と、己に言い聞かせつつ口内にあるモノの特徴を探ろうとする。

 ……が。
(わ……わっかんねぇ〜〜っ!!)
 もともとフェラチオはあまり好きではなく、今まで何度もやらされてきた割にはすこしも上達していない。
 そんなオレに、利きちんぽなど到底できるはずもなく、いくら眉を寄せて頑張っても、無駄に相手を悦ばせるだけなのだった。

 それでも諦めずに舌を這わせ続けていると、苦い汁が先っぽからじんわりと滲んでくる。
 相手の興奮に併せてピストンも徐々に激しくなってきて、唾液の滑りじゃ誤魔化せなくなってきた苦しさに、オレはついに限界を迎えてしまった。
「んっ、んんんっ……!!」
 自由の効かない手で、どうにかプロレスのタップアウトみたいに相手の脚を叩く。
 すると、怒張がずるりと口内から引き抜かれ、ようやく訪れた休息にオレはぜえぜえと息をつく。

 オレを見守る三つの気配に、無言で答えを促されているような圧力を感じ、オレは唾液をこくりと飲み下し、恐る恐る口を開いた。
「あ、アカ、ギ……?」
 もちろん、なんの根拠もなく、適当に答えただけだ。
 そうする他ないのだから、仕方ない。

 まったくの運否天賦。ぎゅっと目を瞑り、
(当たれっ……!!)
 と願うオレの頭上から、ややあって声が降ってきた。

「残念。はずれ」

 クスクスと笑う声はしげるのそれで、オレは地獄に突き落とされたような気分になる。
「それじゃ……罰ゲーム」
「!! ん゛ん〜〜ッ……!」
 ふたたび固く隆起した勃起を捻じ込まれ、苦しくてえづきそうになった。
「ひでえな、カイジさん……いつもあんたをヒイヒイ言わせてやってるコレが、わからないなんて」
 愉しそうに言いながら、しげるはオレの口内を思うさま蹂躙する。
「ほら、オレの、今度こそちゃんと覚えてね……」
 髪を梳きながら諭すように言われ、大きく腰を打ちつける動きに生理的な涙が滲んだ。
 ギリギリまで抜き、根本まで突っ込むという長いストロークで責められる。
 辛い。辛すぎる。涎と鼻水を垂れ流しながら、オレは一刻も早くこの罰ゲームを終わらせるため、固まっていた舌を必死に動かし始める。

 じゅるじゅると唾液を啜り上げ、尖らせた舌で裏筋をなぞる。
 亀頭と竿の境目、大抵の男は気持ちいいはずの部分を執拗になぞりつづけていると、熱っぽいため息が聞こえてきた。
「あ、いい……イきそ……」
 濡れた声と同時に、激しく腰を振りたくられる。
 ひどく一方的な行為に、背筋が粟立った。
(ちょ、ヤバいって、マジ、吐く……っ)
 さんざ突かれまくった喉奥から酸っぱいものが込み上げてきて、本気でヒヤリとしたちょうどそのとき、口いっぱいに満たされていたモノが乱暴に引き抜かれ、顔面になにかがかけられた。
「ふぁ……は、熱……っ」
 激しく咳き込むオレの顔を、雄臭い粘液が汚していく。
 量が多く、頬や顎を伝ってボタボタと落ち、拳を握る手をも汚した。
 屈辱だったが、それよりも「やっと終わった」という安堵の方が大きかった。

 肩で息をしながら呼吸を整えていると、犬みたいに頭を撫でられる。
「よかったよ、カイジさん。……それじゃあ、次ね。」
 へ? 次……?
 ぽかんと間抜け面を晒すオレの耳に、ゴソゴソと衣擦れの音が聞こえてきて……
「んっ! んん〜〜っ!!」
 間髪入れず、べつの男根に口内を犯される。

 そうだった……ゲームはまだ終わりじゃないのだ。
 目を白黒させながら、口に入れられた男根を舐め回す。

 さすがに、しげるのよりデカいってことくらいはわかる。
 が、それだけだ。味や形だけじゃやっぱり、残るふたりのうちどっちのちんぽかなんて、わかるはずもない。

 つーか、最初にコッチで次がしげるだったら、確実にわかったのに……そこまで計算して、順番を決めてたってことかよ?

 顎が疲れてきた……他になにか、見極める手立てはないかとあれこれ考えを巡らせていたオレの頭に、突如としてある考えが閃いた。
「んっ!」
 まさに天啓。思わず声を上げる。

 オレは目を閉じ、今まで舌に集中させていた神経を嗅覚の方へ向ける。
 顔射された精液の匂いが邪魔だが、苦しさを耐えて感覚を研ぎ澄ませれば、濃い匂いの下にうっすらと漂う、ある香りを感じることができた。

 確証を得たオレは、急いで相手の足を叩き知らせる。
 意外そうにちょっと動きを止めたあと、太い男根が口から抜け出ていった。


 息を弾ませながら唇をべろりと舐め、オレは見えない相手に向かって、不敵に口端を吊り上げた。

「この匂い……今度こそ、アカギだろっ……!!」

 しばしの間。
「……あたり」
 低い声が素直にそう認め、オレは心の中でガッツポーズを決めた。

 驚いたようなざわめきが起こり、ちょっとした優越感を覚えるも、
「今、『匂い』って言ったよね……?」
「オレのちんぽ、嗅ぎ分けられるんだ……」
「悪い、カイジ……さすがの俺も、ちょっと引いちまったぜ……」
 とんでもない誤解をされ、オレは全力で否定する。
「違う!! オレが言ってんのは、タバコのことだっつうの……!!」

 オレが閃いたのは、相手の体に染みついているタバコの匂いで判断するという方法。
 消すことの容易ではないハイライトの香りを嗅ぎつけられたから、オレは答えを確信することができたのだ。

「なるほど……こりゃあ、してやられたな」
 感心したような赤木さんの声。
「クク……これで借金チャラだっ、アカギっ……!」
 ニヤリと笑って言い放つと、不機嫌そうに吐き捨てられる。
「まぁ、いいけど……あんな端金」
 アイマスクの下で、オレは目を丸くする。

 アカギにもかなり借りてるはずなんだが……それを端金とは。
 つーか、そんならこんなふざけたゲームなんかせずとも、普通にチャラにしてくれりゃいいのに……

 などと不満に思っていると、ふわりと頭を撫でられた。

「それじゃあ、第二回戦だな」
 ……は? 二回戦……?

「カイジさんは犬みたいに鼻がきくから、次は考えないと」
「ちょっ、ちょっと待てっ……!! 勝手に話進めてんじゃねえっ……!!」
 のんびりとした会話に、慌てて割って入る。
「二回戦ってなんだよっ……!? お、オレの許可なくっ……!」
「……許可?」
 三人同時に呟く声の威圧感に、オレはうっと口籠もった。

「なんであんたの許可なんざ取る必要あるんだよ」
「自分の置かれてる状況、わかってる?」
「俺たちはまだまだ満足できてねえんだ。気の済むまでつきあって貰うぜ?」

 しゅ、主旨が変わってる……っ!

「いっ、嫌だっ……!! くっそ……! ふざけんなぁっ……!!」
 喚いて暴れようとするも、手足が拘束されている上、三人の赤木しげる相手ではうまくいくはずもなく。

 オレはなすすべなく、悪漢どもの魔の手によって、酔狂なゲームを続行させられる羽目になるのだった。



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