singular

「お前なぁ……っ」
 部屋に上がって早々脱ぎ始めたアカギに、カイジは眦をつり上げた。
「ここはヤリ部屋じゃねぇんだよっ……!」
 仮にも恋人同士の、久々の再会。それなのに、挨拶がわりのように服を脱ごうとするアカギに、さしものカイジも声を荒げずにはいられなかった。

 恋人の剣幕に、青いシャツのボタンに手をかけたまま、アカギは細い眉をあげる。
「違うの?」
「はったおすぞお前っ」
 喰い気味のツッコミに、クク……とアカギが喉を鳴らせば、太い眉がますますつり上がる。

 怒りを湛えた大きな目を確と見据えながら、アカギは残りのシャツのボタンを外していく。
 盲牌を想起させるような滑らかさで長い指を動かし、目の前の男を抱くために、余計なものを取り去っていく。
 青いシャツを肩から落とし、床に脱ぎ捨てる。
 次いで黒いインナーシャツの裾を捲り上げ、いっさいの躊躇なく頭から引き抜くと、注がれる視線が揺らぐのをアカギは肌で感じた。

 ベルトを外し、ジーンズと下着をまとめて脱ぎ捨てると、無造作に乱れた前髪の隙間からカイジを見て、アカギは言い放った。

「……で? やるの? やらないの?」

 知らず知らずのうちにアカギの姿に釘付けになっていたカイジはハッとして、うぐぐと唸った。
 
 つくづく、禽獣めいた男だ。
 鋭さと逞しさとしなやかさを併せ持つ、稀有な肉体。
 それを覆い隠す人工物をすべて脱ぎ去った、一糸纏わぬ姿が最も危険な魅力を放つことを、きっと当人は知る由もないのだろう。
 だが本能的に、己の裸がカイジを惑わせることを察知しているから、こんな風に不遜な態度をとるのだ。

 最後は、カイジに選ばせるフリをして。
 決まりきった答えを、誘い出そうとしている。

 唇を噛んで睨み据えても、野生の獣が怯むはずもなく。
 すべては相手の思う壺。抗うことのできない情動に悔しさを覚えつつ、カイジは吐き捨てるように言った。

「や、るよっ……!」

 瞬間、アカギは顎を上げ、ふっと目を細める。
 勝ち誇ったようなその仕草でさえ、美しい仰角や首筋のラインに見惚れてしまいそうになって、カイジはまるで苦いものでも喰らうかのような仏頂面で、男の唇を受け容れるのだった。





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