われても末に 短文



 第一印象では、自分と真逆だと思った。
 まず真っ先に目についたのは、互いの髪や肌の色の明度の差。
 しかし、リバーシの石の両面のようなその差異でさえ、博奕や金に対するスタンス、生死への向き合い方の違いの前では、霞むようだった。

 理解はできるが、共感はできない。
 そんな相手のことが、なぜか気になって仕方がなかった。
 抗いようもない欲求のまま近づき、相手のことを深く知るにつれわかったのは、真逆に見えるのはほんの表層の部分だけなのだということ。

 オレたちは似ている。
 言葉では形容できない、魂の根幹とでもいうべき部分が、転写したように瓜二つなのだ。
 真逆だと思った相手にこんなにも惹かれる理由が、ようやく理解できた。


 そう言うと、男の眉間に深く皺が刻まれた。
「似てねぇだろ……お前とオレは」
 俯いてボソリと呟く声に笑い、不貞腐れたように尖った唇に唇を重ねる。
「泣き虫なところなんかは、まあ、そうかもね」
 濡れた目許を指先で拭いながら揶揄うと、ますますむくれてそっぽを向いてしまう。

 自分とは真逆の色を持つ相手の髪に、肌に触れる。
 さざめく血潮の奔流に、己が生きているということを実感する。目眩がするほどに。
 比重の同じ液体みたいに混ざり合ってしまえないのが不思議なくらい、よく馴染んだ体。
 片割れのような魂の奥深くを探ろうとするかのように、その裡に潜る。

 
 額に額を押し当てたとき、さらりと絡まりあって解ける髪の色。
 指に指を絡めて握った手の、肌の色。

 根幹が似ているからこそ、こういう末節の差異が、今では慕わしい。
 まるで同じ源流から枝分かれした、二色の川の流れのようだ。

 激しく寄せる激流の愛欲に押し流されたあとの、穏やかな凪に漂うような時間でも、男はずっと泣いていた。

 まるで今生の別れであるかのようなその泣き方に、すこし呆れる。
 オレたちが深層ではよく似ていることに、本当は男も気づいているのだ。だからこそ、こんな生き方しかできないふたりが一度離れてしまえば、再会は難しいと思っているらしい。

 ーー違うよ、カイジさん。
 服を着込む手を止めて、オレは男の目縁に口づける。

 源流が同じ流れならば、必ずまたどこかで合流するはず。
 流れ着いたどこかの大海で、いつか出会うその時まで。

「ちゃんと生きててね、カイジさん」

 この一言だけで充分だ。すべてを言葉にする必要などない。
 男は手の甲で涙を拭い、ぶっきらぼうに吐き捨てる。
「こっちの台詞だ、馬鹿野郎」

 当て所なく流れてきた漂泊の日々に、目的地なんてものができようとは思ってもみなかった。
 悪い気分じゃない。自然に口角がつり上がる。
 まっすぐに注がれる熱い眼差しに見送られ、オレは慣れ親しんだ小さな部屋を後にした。
 




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