売れ筋商品 短文


 卓袱台の面積の七割以上を占拠する四角い箱の上に、食べ残されたピザの耳。
 白いクリームで汚れたケーキ皿とフォーク。
 空っぽのシャンパンの瓶と、床の上に転がっている空き缶。

 カーテン越しの朝日に照らし出される昨夜の残骸を眺めながら、アカギは歯を磨く。
 この部屋に散らかっているものは、全てアカギが購入したものだ。
 久しぶりに訪れたそのコンビニで、イベント事に疎いアカギが何を買えばいいかと尋ねると、サンタ帽を被った店員は驚いたような顔をしながらも、まんざらでもなさそうにその日の売れ筋だという商品ーーピザやらケーキやらシャンパンやらーーを、次々とアカギの持つカゴの中に投げ入れた。

 ただ、この日に一年で一番の売り上げを記録するのだと無理やり押し付けられた小さな四角い箱だけは、封も切らずに手付かずのまま、ベッドの枕元に投げ出されている。

 そのベッドの上、草臥れた毛布に包まった塊が、もぞもぞと動いて呻き声をあげている。
「てめぇ……、買ったんだから使えよクソ変態野郎……」
 呪わしげな言葉を撒き散らすこんもりと膨らんだ毛布の形が、ピザの箱に描かれている赤い服の老人の担いでいる大きな袋にそっくりで、アカギはこの日の朝の子どもたちが見せるような、眩しげな顔で笑うのだった。





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