いつもの服
そいつは、数ヶ月前と寸分違わぬ格好で、オレの前に現れた。
「ひさしぶり。しばらく、泊めて」
事務連絡のようにそっけない挨拶と要求を聞きながら、その男の頭のてっぺんからつま先まで、ジロジロと舐めるように見る。
紫色のシャツに、色あせたジーンズ、くたびれたスニーカー。
前に会ったときとかなり寒暖差があるはずなのだけれども、コイツの辞書には季節感という言葉は載っていないのだろうか。
「お前、そのシャツしか持ってねえの?」
我ながら、ずいぶんな挨拶がわりだと思うけれども、相手がそんなの気にしないってことわかりきってるからこそ、こんな口を利くのである。
「……そんなこと、ないけど」
ひとつ瞬きをして、相手はそう答えた。
ぶしつけな物言いに怒るどころか、なんだか生真面目に紫色のシャツに目を落としている様子が無性に可笑しくて、思わず声に出して笑ってしまった。
「なに、笑ってるの」
怪訝そうに問われ、はぐらかすために「上がれよ」と促す。
本当は、特徴のあるノックの音を聞いたそのときから、ずっと緩みそうになる頬を引き締めるのに必死だったってことは、秘密だ。
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