待ち人
細長く折り畳まれた紙を開いた瞬間、カイジの眉間に深い皺が刻まれた。
字面からして禍々しい『凶』の一文字。
血のような赤色で印字されているのが、より不吉さを引き立てている。
なんの気無しに立ち寄った近所の神社で、たまたま気が向いたから、引いてみた百円のおみくじ。
その気軽さを裏切るような結果の重苦しさに、カイジは理不尽に嫌な気分になる。
もはや木に結びつける気すら起こらず、おみくじを手にしたまま、カイジは背を丸めて踵を返した。
一月も、四日になると神社は人気がなく、静かだ。
石段を降り、鳥居を出て帰路を歩きながら、カイジは大あくびをする。
大晦日から三箇日はずっとバイトだった。今日は、ひさびさの休みで、やっと正月らしいことができたと思ったら、これだ。
モヤモヤとした気分のまま、あくびの涙でぼやける目で、カイジは『凶』のおみくじを読む。
『願望ーー叶い難し。』
こんなもん、ただの紙切れだろ。
『失せ物ーー出ず。』
べつに、無くし物なんてしてねえし。
『争事ーー負けるべし。』
……あんな小せえ神社のおみくじなんて、どうせ当たりゃしねえんだから。
心の中で吐き捨てる勢いとは裏腹に、徐々に表情が険しくなっていくカイジ。
『待ち人ーー「カイジさん」
唐突に名前を呼ばれ、カイジはおみくじから顔をあげる。
聞き間違えようもない声。
道の先に立って自分の方を見ている男の姿に、カイジは軽く目を見開いて立ち止まった。
そのままもう一度、おみくじに目を落とす。
「……やっぱり、当たってねぇじゃん」
ふっと笑いを含んだ声でそう呟き、カイジは手の中の紙きれをぐしゃぐしゃに丸めてポケットに突っ込むと、ひさしぶりに会う『待ち人』の方へ、足早に歩いていった。
終
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