初めて(※18禁)・1 ゲロ甘 エロのみ



 冷たい風が、薄着の体に沁みてくるような夜。
 カイジは軽く身震いし、ため息をつく。己の呼気が綿のような色に変わって消えていくのを見つめてから、チラリと目線をあげる。
 大通りから一本逸れた路地は、閑散としていて寒々しい。色とりどりのネオンサインだけが、カラ元気のようにやたら眩く輝いている。
 いわゆる、ホテル街のど真ん中。周囲の目など気にした様子もなく堂々と自分の前を歩いていくアカギの背中を見つめてから、カイジは目を伏せた。


「初めて」は、自室じゃ嫌だと言い張ったのはカイジの方だった。
 壁は薄いし、ロクな暖房器具もなくて、この季節に裸で過ごすには寒すぎる。

 先日恋人になったばかりの男は、さすがに鼻白んだような顔をしていたが、それじゃあ外に出ようと言って腰を上げた。
 そして、やって来たのがこのホテル街なのである。

 寒いだの壁が薄いだのとぐだぐだ理屈を並べ立てたカイジだったが、いざとなると怖気付いてしまったというのが本音だった。
 化け物じみて鋭いカンを持つアカギにはそんなこと看破されているだろうが、その場で無理強いされなかったのはカイジにとって意外だった。
 アカギの性質上、単に自分がビビっているだけなのだと見抜いていながら、おとなしく引き下がるはずもないと身構えていたのに、なんだか肩透かしを食ったようだった。
 ポカンとしているうちに、うかうかと男についてこんなところまで来てしまった。 
 歩いているだけで『今からセックスします』と主張しているようなこの道を、男ふたりで歩くなんてカイジには耐え難いことだった。いっそ、四の五の言わずに自分の部屋でヤればよかったと後悔したけれど、もう後の祭りだ。


 派手派手しい照明で飾られた建物が立ち並ぶ中、アカギはとあるホテルの前で立ち止まり、その入り口へと足を向けた。
 そこは通りの中でいちばん地味で目立たず、闇に紛れてひっそりと息を潜めているようなホテルだった。
 アカギはこういうときに使う場所に拘りなんてないだろうから、きっと、自分のために敢えてこのホテルを選んだのだろうと、人目から逃れるようにそそくさとホテルのドアに飛び込みながらカイジは思った。
 それもやはり、カイジにとっては意外だった。自室で無理強いされなかったことといい、アカギは自分の意思を尊重してくれているのだ。

 普段の傍若無人な振る舞いからは想像もできなかった。
 こういうのを、大切にされてる、っていうんだろうか。

 考えて、カイジは己の思考に鳥肌をたてる。
 なにが寒いって、それを嬉しく思ってしまっている自分だ。
 度し難い。救いがたい。
 強くかぶりを振って、カイジは前を行く男の後をのろのろと追うのだった。


 しんとした廊下。
 果てしなく長く感じられる部屋までの道のりをカイジはうつむいたまま歩き、ようやくアカギが立ち止まったときにはホッと息をついた。

 扉を開け、中に入る。長い緊張状態から解放され、弛緩とともに訪れた疲労感にカイジがぼうっとしていると、腕を掴まれ緩く引かれた。
「どうして立ち止まってるの、そんなとこで」
 不思議そうに顔を覗き込まれ、カイジは目を見開いた。

 そうだ。
 人目ばかり気にしていたけれど、オレとアカギは、これからーー

「ーー、ど、どうして、って……」
 わけもなく顔が赤くなるのを自覚しながら、カイジは視線をせわしなくうろつかせる。
 やべ……顔、上げらんねぇ。なんてぐるぐるして、カイジが変な汗を額に浮かべているうちに、男はさらに顔を近づけてきて、
「……カイジさん、」
 囁くように名前を呼ばれて、いきなりキスされた。
「ん……ッ!」
 カイジはとっさに相手の体を押し返そうとするも、既に強く抱きしめられていて出来ない。
 合図するようにペロリと唇を舐められ、止める隙もなくそのまま潜り込んでくる舌。
 アカギとキスをするのは初めてじゃないけれど、ここまで深いのはしたことがなかった。

 アカギの舌は深く浅くカイジの口内を動き回り、余すところなく舐り尽くしていく。
 上顎、舌の裏側、歯列の凹凸、アカギに触れられたことのない箇所すべてを、舌で暴いていくような口づけ。
 激しいけれど、不思議と苦しくはなくて、カイジは頭の中がぼうっとしてくる。
 唾と唾が混ざりあう音。タバコの匂い。密着している体から伝わる体温。
(……やらし……こいつ、こんなやらしいキスすんのかよ……)
 キスだけで己の中心が熱を持ち始めたのを感じて、思わずカイジが身じろぎすると、アカギが唇を離した。
「シャワー……」
 吐息のような声で言葉を紡ぐうすい唇を、カイジは潤んだ目でぼんやりと見つめる。
 しかし、アカギはそこで口をつぐみ、ふたりを繋ぐ透明な糸も切れないうちに、またカイジの唇を貪りはじめる。
「……っ、ん、ン……」
 きもちいい。
 恋人と唇を重ねて、舌を絡めて、たったそれだけのことが、こんなにもきもちいいなんて。
 キスだけでこんなになってて、最後までやったら、オレ、どうなっちまうんだろう……
 無意識に自分からも舌を絡ませ始めたカイジに、アカギは口付けの角度を変える合間を縫って囁く。
「……浴びる?」
 さっき呟いた言葉の続きだということはわかるけれど、返事をしようにもアカギが唇に幾度も吸い付いてきて、それがまた堪らなくきもちよくて、カイジは答えることができない。

 やっとアカギがキスを終わらせる頃には、カイジの唇は吸われすぎてじんじんと熱を持ってしまっていた。
「お前、シャワーなんか浴びさせる気ねぇだろっ……、」
 すっかり上がってしまった息を整えながら、カイジは震える声でアカギを詰る。
 アカギは喉を鳴らして笑い、カイジの頬にキスを落とした。
「……思ったより、余裕ないみたい」
 その台詞にカイジがドキリとしている間に、アカギはカイジの腕を引いて部屋の奥へ移動する。


 ホテルの外観同様、部屋の内装もけばけばしくなく、ベッドが広すぎる点を除けば、普通のシティホテルと変わらない。ただ、カイジはホテルの内装など見る暇なく、海のようなベッドに押し倒された。

 長い髪が白いシーツに散らばる。
 ぎし、と音をたててベッドに乗り上げ、木目の天井を背負って見下ろしてくるアカギの鋭い瞳に、カイジの心臓が早鐘を打ちはじめる。

 念のため、会う前にシャワー浴びといてよかった……
 なんて、どうでもいいことを考えて現実逃避しているうち、ふたたび唇を塞がれる。
「ん……、んっ、く、……」
(すげ……ずっとこうしてられそう……)
 とろかすように熱い舌を受け入れ、送られる唾液をひたすら飲み下していると、ふいに乳首に冷たいものが触れ、カイジはビクンと体を震わせた。
「……っ……?」
 いつの間に脱がされていたのかは不明だが、気がつけばカイジは裸になっていた。
 キスをしながら、アカギはカイジの胸の尖りを確かめるように指先で触れる。
「ぁ、っ……」
 くすぐったいような感触とともに、自分の口から零れたちいさな声に、カイジはカッと赤くなった。
(やべ……変な声出る……)
「っ、離し……」
 思わず顔を背け、自分の下から逃れようともがくカイジを容易く抱き止め、アカギはカイジの耳朶をやわらかく噛んだ。
「……出して」
 そのまま、耳の下を軽く吸い、首筋を舌でなぞる。
「声」
 鎖骨を辿り、頚窩を舐め、そのままゆっくりと下へ降りていく。
「聞きたい」
「……ぁ、あ……ッ」
 ちゅく、と音をたてて乳首を吸われ、カイジは耐え切れずに声を漏らしてしまう。
 快感に上擦ってはいるけれど、紛れもなく男の低い声。
 羞恥に喚いて自分の耳を塞ぎたくなるカイジだったが、アカギがぐっと腰を押しつけてきて、そこにあるものの鋼のような硬さに息を飲む。
 こんな、誰が聞いても気色悪いだろう男の喘ぎ声なんかに、萎えるどころか興奮してるってのか、こいつは。
 圧倒的な恥ずかしさと、よくわからない嬉しさのような感情が混ざりあい、ぐらぐらと脳が茹だってきて、カイジはされるがまま、アカギの手管に翻弄されていくのだった。




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