初めて(※18禁)・2

 



 余裕がないと言った割に、アカギはそんな様子をおくびにも出さなかった。
 硬く閉じ、決して男を受け容れるようにはできていないカイジの体を、ゆっくりと、地道に解していく。

 胸。脇腹。膝裏。腿の内側。カイジはアカギの指や舌によって、自身も知らなかった自分の性感帯を、いくつも知らされる羽目になった。
 過ぎた快楽の連続に喘ぎ声も枯れ、汗みずくの全身からくったりと力が抜けきった頃を見計らって、アカギは今まで指一本触れなかったカイジ自身に初めて触れる。
「あ、ふ、ぁっ……!」
 すっかり勃起していたそこは、アカギに軽く触れられただけで、白濁混じりの汁をとぷりと溢れさせる。
 その様子に目を細め、アカギは敏感な鈴口をくるくると撫でて、淫らな液を充分に指に絡めた。
「あっ、はぁ……あ、アカ……ギ……」
 ビクビクと体を跳ねさせ、ひどく物欲しげな声でカイジが名前を呼ぶと、アカギはカイジの脚を開かせ、曝け出された窄まりに濡れた指を当てた。
「指、挿れるよ。力抜いてて……」
 いよいよかと、カイジは体を緊張させる。
 震えながら深呼吸を繰り返していると、アカギはまず、硬く閉じたカイジの後孔の周りを指で押した。
 根気強く揉むように解し、すこし緩んできたところで、指先だけをつぷりと侵入させる。
「う……っ」
 未だかつて感じたことのない違物感に、カイジの顔が歪む。
 本来、排泄に使うはずの場所に異物が入ってくる。それがたとえ、指のように細いものでも、感じる違物感はかなりのものだった。
 こんなのはまだ序の口で、これから指なんか比べものにならないくらい太いモノを挿入されるのだと思うと、気が遠くなりそうだ。
 苦しげなカイジの様子を見て取ったのか、アカギは一旦指を引き抜き、「待ってて」と告げてカイジから離れていった。
 ホッと息をつき、言われたとおりにカイジが大人しく待っていると、ものの一分も経たないうちにアカギは戻ってきた。
 その手には、ちいさな四角い袋が握られていた。
 アメニティとして置いてあったのであろう、化粧品のサンプルを髣髴させるその袋の中身にピンときて、カイジは耳まで真っ赤になる。

 ギシリと音をたててベッドに乗り上げながら、アカギは袋の端を咥えて歯で開けた。
 その粗野な仕草にカイジがドキリとしていると、アカギはカイジのふたたびカイジの脚を開かせ、袋の中身をそこに垂らしていく。
「ひ……っ、」
 とろりとした液体の、冷たい感触。
 思わず身を竦ませるカイジの様子に、アカギの目許が微かに緩む。
 カイジの体を伝い、シーツの上にも零れるくらいたっぷりと垂らしたあと、アカギは袋を投げ捨て、再度指をそこに潜り込ませた。
「ぁ……う、う……ッ」
 ぐちぐちと音をたててごく浅い部分に塗り込められ、なんとも言えない感覚にカイジは眉を寄せる。
「苦しい?」
 尋ねられ、カイジは首を横に振る。
 ローションのぬめりのおかげで、異物感はだいぶマシになっていた。
 アカギはわずかに唇を撓め、ゆっくりと探るようにカイジの中を解していった。

「ん……、ん……っ、」
 唇を噛み、シーツを掴んで、カイジは圧迫感に耐える。
 アカギは徐々に指の本数を増やしているようで、腹の中を掻き回される感覚が強くなっている。
 だが、さほど苦痛ではないことにカイジは安堵していた。

 アカギがカイジの反応を見ながら、無理のないペースでことを進めているからなのだろう。
 やっぱり、慣れてやがる、と、うまく回らない頭の片隅でカイジは思う。
 物心ついた頃から風来坊を続けているというアカギは、行きずりの女と一夜を共にすることも、今までそれなりにあったのだと聞いたことがあった。
 そういう女たちにも、こんな風に丁寧にしたのだろうかと思うと、なんだか形容し難いモヤモヤとした気持ちになってくる。

 カイジの表情のわずかな変化に聡いアカギはすぐ気づき、怪訝な顔で問いかけてくる。
「……なに?」
「べつに……」
 我ながらみっともないと思いながらも、カイジは不貞腐れたような態度を崩すことができずに、黙ってそっぽを向いたのだった。


 しかし、『慣れてやがる』というカイジの感想は、その後、わりとすぐに覆されることになる。
「カイジさん、そろそろ……」
 そう言ってアカギが指三本を引き抜く頃には、カイジの尻穴は充分に解れ、ヒクヒクと自ら収縮するほどになっていた。
 カイジが頬を染め、荒い息に胸を上下させていると、アカギは着ていた服を手早く脱ぎ捨て、抜身をさらす。

 カイジがアカギの裸を見るのは、これが初めてだった。
 抜けるように白い肌。均整の取れたしなやかな体つきに、同性でありながら思わず見惚れてしまう。

 だが、その体の中心でいきり勃っているものが目に入り、カイジは目を白黒させた。
 これ……こんなもんを、オレの中に挿れようってのか。
 凶悪なまでのその大きさに青ざめるカイジだったが、アカギは容赦なく脚を抱え上げ、怒張を擦り付けてきた。
「挿れるよ……?」
「ちょ、待っ……ぅあ、ぁああ……ッ……!」
 カイジの焦った声を無視し、ぬぐっ……と押し入ってくる太いもの。
 伸びきった肛門の襞が、ピリピリと引き攣れるような痛みを訴える。
「あか……! 待っ……苦し……ッ」
 浅い呼吸を繰り返しながら、途切れ途切れにカイジが懇願するも、聞き入れられぬまま亀頭がすべて押し込まれてしまう。

 今まで自分を気遣うように、ゆっくり前戯を進めていたアカギと同一人物とは思えないほどの性急さに、カイジはひどく混乱していた。
 力の抜き方など忘れてしまったかのようなカイジの、搾り取るようにキツく締まる中を、強引に割り開いていくように挿入を深めていくアカギ。
 あまりの狭さに細い眉を寄せながらも、己の欲を満たそうとするその様子は雄の獣そのもので、今まで見たことないほど熱っぽい瞳に射抜かれて、カイジは心臓を鷲掴みにされたように感じた。

「大丈夫……?」
 根本までカイジの中に入りきると、アカギはカイジに軽いキスをして尋ねる。
 涙目で荒い呼吸を繰り返しながらも、カイジは幾度も頷いてみせた。
 やはり圧迫感は相当だが、痛みは思っていたほど強くなく、衝撃はさっき指を挿入されたときより遥かにマシだとすら思える。

 アカギはカイジの頬の傷を親指の腹で撫で、唇を重ねた。
「……ん……ぁふ、」
 ……やっぱり、すげぇきもちいい。
 くちゅくちゅと淫らに舌を絡め合う音が響いて、頭の中がふわふわしてくる。
 クセになっちまいそうだ。こいつの唾は麻薬かなんかじゃないだろうかと、ぼんやりした頭でカイジは思う。
 腹の中の圧迫感も忘れ、カイジは恍惚とした表情で目を閉じて、アカギの舌に夢中で吸いついていた。
 知らず高まる性感に、カイジは勃起からトロトロといやらしい露を溢れさせ、アカギの入っている後ろをきゅうきゅうと締めつける。
「カイジ、さん……」
 は、と息を吐き出すのに合わせ、アカギが呻くようにして名前を呼んだ。
 低く掠れた声。
 カイジはごくりと唾を飲み込んだ。

 男の声なのに、ぜんぜん気持ち悪くない。
 むしろ……アカギのそういう声をもっと聞きたくて、カイジの呼吸が興奮に荒くなる。
 なにかを耐えるように、苦しげに見えるアカギの表情。
 それを見ていると、どうしようもなく下半身が疼いて、カイジはアカギ自身を苛むように締めつけてしまう。

 ああ、オレ、結構ダメかも。
 こいつにダメにされちまってるかも、なんて思いながら、アカギとのキスに惑溺していると、アカギがゆっくりと腰を引いていく。
「んっ、んっ……」
 中が擦れる感覚に、カイジは鼻にかかった喘ぎ声をあげる。
 そのまま、アカギはゆっくりと抽送を始めた。
 ローションの滑りもあって、出し挿れの動きはスムーズだが、代わりに恥ずかしい水音が絶えず鳴っていて、あまりの羞恥にカイジは目眩すら覚える。
 ぬぷっ……ぐちょっ……と卑猥な音が大きくなるにつれ、ベッドの軋む音も激しくなり、アカギのキスも荒々しさを増していく。
「はぁ、あ、んっ、んぅ……っ」
 ガクガクと揺さぶられ、カイジは口内にあるアカギの舌を噛んでしまう。お返しとばかりに甘噛みされ、たったそれだけのことでカイジの全身を甘い痺れが駆け巡る。

 さっきから、アカギの亀頭がある箇所を擦るたび、腰の砕けそうな快感が大きな波となってカイジを襲っていた。
 でも、その箇所を外すように突かれても、挿入が浅くなっても深くなっても、もうなにもかもがきもちよすぎて、ぜんぜん、わけがわからない。

「ん、あっ、アカギっ……、あかぎ、あっ、んんッ……!」
 なんだか怖くなってきて、カイジは激しいキスの合間に、必死に相手の名前を呼ぼうとする。
 するとアカギは、ちゅく……と音をたてて唇を離し、劣情に燃える瞳でカイジを見た。
「っ……出そ、う……」
 上擦った声で訴えるアカギの白い頬は微かに上気し、普段は乱すことのない呼吸も、獣のように激しくなっていた。
「出して、いい……?」
 激しく律動を繰り返しながら、アカギはカイジの頬に鼻先を擦りつけて問いかける。
 甘えるようなその仕草が可愛くてしょうがなくて、カイジはこくこく頷いたが、激しく揺さぶられているせいでアカギに伝わっていないとわかると、震える両脚をアカギの腰に強く絡めることで意思を示そうとした。
 密着する肌と肌。その瞬間、アカギの表情がひどく野蛮なものへと変化した。
「あっあぁっ! あかぎぃっ、ふあっ、あっ……!!」
「止まんねぇ……、あんたが悪い……っ」
 どこか拗ねたように呟いて、アカギはカイジの中を貪る。
 ぷるぷると揺れる自身の先端から白濁混じりの先走りを撒き散らしながら、カイジは快感に泣きじゃくって叫んだ。
「あッ、いく……っ、いく、あかぎ、いく……ッ!!」
「っ、カイジさん……っ、」
 互いの名前を呼び合って、ふたりはほぼ同時に絶頂に達した。
「ひ、ぁっ、ああぁ……っ……!」
 仰け反ってびゅくびゅくと射精しながら、カイジは強烈なエクスタシーの快感に我を失う。
 こんなにも強い快楽は今まで味わったことがなく、開けっ放しの口からだらだらと涎を零しながら、馬鹿みたいに嬌声をあげることしかできなかった。

 アカギも低く呻き、カイジの中で果てている。
 自らの放つものが最奥まで届くようにと、腰を強く押しつけながら、あたたかい媚肉の中で精を吐き出している。
 自分の中にあるアカギ自身が、ぴくぴくと気持ちよさそうに震えながら射精しているのを感じて、これ以上もう気持ちよくなりようなんてないと思っていたのに、いとも容易く快感が増幅するものだから、カイジはこのまま死んじまうんじゃないかとさえ思った。



 互いに長く続いた射精を終え、ようやくすこし落ち着いた頃、アカギは乱れた息を整えながらカイジに口づけた。
「大丈夫……?」
 顔にかかった髪をやさしく掻き上げられ、カイジは曖昧に頷く。
 行為の熱が引いてみると、今さら、あられもなくよがり狂っていた自分への羞恥が湧き上がってきて、カイジは奇声をあげて逃げ出したいような気分になっているけれども、途方もない脱力感に腰が抜けてしまい、動くことすらできずにいた。

 初めて、だったのに。
 カイジは涙目で唇を噛む。
 男に抱かれるのなんて当然、初めてのことだったのに、あんなに気持ちよくなっちまうなんて……
 正直、予想外すぎた。痛くて苦しくて、最後までいけるかどうかもわかんねえもんだと思ってたのに。

 カイジは額に汗を滲ませる。
 変な声、いっぱい出ちまった。もうわけがわからなくて、キスとか、結構自分からがっついてた気がするし。
 
 ああ、アカギと自分の記憶をきれいさっぱり消去したい……
 激しく頭を掻き毟りたい気分になるカイジだったが、そこでふと、行為中のことを思い出す。

 そういえば、アカギも。
 自分が言えたことじゃないけれど、アカギもずいぶん、余裕がないように見えた。

 特にカイジを充分に解しとろかせて、いざ挿入という段になってからのアカギは、まるでべつの人格が乗り移ったかのように性急だったし、激しかった。
 あのときの、アカギの熱を孕んだ表情や艶っぽい声なんかを思い出していると、なんだかまたおかしな気分になってきそうで、カイジは慌てて咳払いする。

「あ、のさ……」
 感じた疑問をぶつける気なんて更々なかったはずなのに、気づいたらカイジはアカギに話しかけていた。
 切れ味のいい刃物のような双眸が、無言で続きを促してくる。
 カイジはなにやらゴニョゴニョ言いながらも、アカギの顔を上目遣いで見て、続きを口にする。
「お前、もしかして……初めて、だった……?」
 その質問には、無意識下のカイジの願望が、ほんのちょっとだけ含まれていたのかもしれない。
 いつもは何事にも動じないアカギが、そのポーカーフェイスを歪ませ、まるで誰とも寝たことがないかのような、愛しい反応を見せていたから。
 だから、自分こそがアカギの初めての相手なんじゃないかと、淡い期待を心のどこかで抱いてしまったのだ。

 問いの意図を探るように、アカギにじっと見つめられ、カイジはそこでようやく、自分がアカギの矜持を土足で踏みつけるようなことを言ったということに気づき、慌てて言葉を続ける。
「は、はじめて……みたいに、きもちよさそうにしてたから……」
 フォローにもなんにもなってねぇよと自分自身にツッコミながら、カイジは泣きべそをかきたい気分になった。
 なに言ってんだ、オレ……
 悪ぃ、忘れてくれ、と謝りかけたとき、カイジの目の前でアカギのうすい唇が動いた。
「実際、初めてだったから」
 えっ。
 と、呟いたきり固まってしまうカイジに、アカギはやわらかく目を細める。
「……本当に惚れた相手とするのは」
 そう囁いて、アカギはカイジの前髪を掻き上げ、額に唇を押しつけたのだった。










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