ゆめ(※18禁)・1 本番なし エロはぬるい
「疲れた……」
と、思わず声に出さずにはいられないほど疲労困憊したカイジは、家に着くなり、灯りも点けぬままベッドへとダイブした。
汗でドロドロの体を、ぺたんこのマットレスが悲鳴をあげつつ受け止める。
ちゃんとシャワーを浴びて着替えなければと頭の隅では思うのだが、連日続く酷暑の中、シフトの不規則な連勤を二週もこなしてきたカイジは、さながら這々の体でオアシスに辿り着いた砂漠の民のように、白いシーツの波に顔を埋めると、そのまま指一本動かせなくなってしまった。
眠気で朦朧とする頭で、今日は何日の何曜日だっけ、とぼんやり考える。
遅番の翌日早番というような、破茶滅茶なシフトがずっと続いたせいで、日付の感覚すら危うい。
それでも眠りに落ちる前、ほとんど習慣めいて日付のことに思いを馳せずにはいられないのは、ある男の訪れを、ずっと待っているからだ。
重力に逆らえず閉じてしまった瞼の裏にも、くっきりとその姿を思い描くことができる、その男。
最後に訪れがあったのは、まだ名残の桜が咲いている時期だったとカイジは記憶している。
いつもふたりで歩く街路樹の下、薄桃の花びらが降る中で見た横顔は昨日のことのように鮮明に思い出せるというのに、時だけが無感動にさらさらと流れてあっという間に花は終わり、いつの間にか青々と茂った葉のざわめきを縫って蝉しぐれが響く季節になっていた。
そろそろ、顔、見てぇんだけどな……。
カイジはそんなことを心中で呟く。
きっと口に出していれば、その声は常にないほど素直で甘く響いただろう。
だが、もう口を開く気力すら残っていないカイジは、ただ黙ったまま泥のような眠りに沈んでいく。
明日はやっとの思いで辿り着いた休みだ。久々に味わう開放感の中、思い出したように佗しげな腹の虫が鳴く。
が、もうなにもしたくなかったし、するつもりもなかった。
(今はなんの欲もない……眠りたい……)
そう心で呟くよりも早く、カイジの意識は落とし穴に落ちるみたいに、すとんと暗転したのだった。
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