Intersection Side-K



 ――あの男だけはやめておけ。お前に勝てるわけがない。

 あの男の話をすると、誰もが口を揃えて言う。

 場末の薄汚い雀荘で初めて出会ったときから、その姿が目に焼き付いて離れない。

 なにもかも見透かすような黒い瞳は、くだらない金とかプライドなどではなく、おそらくもっと別の次元のものを見ている。

 その目に初めて見られたとき、凍えたように体が震えた。
 あの瞳に自分が映っている。圧倒的な恐れのなかに、確かにあったのは『喜び』。
 突きつけられた刃の美しさに驚嘆するような、危うい喜びだった。

 相手がどんなに恐れられているか、どれだけ周りに忠告されても、どうしても目で追ってしまう。
 磁石に吸い寄せられる砂鉄のごとく、その圧倒的な力に、本能的に引き寄せられる。
 逃れられない。

 これが博徒の性なのか?
 そうなのかもしれない。
 だがもし、そうでないとしたら。
 冷たい畏怖の底からわきあがるマグマのような感情に、なにかほかの理由があるのだとしたら。

(本気になる前に、やめねえと)



[*前へ][次へ#]

33/44ページ

[戻る]