Intersection Side-A



 ――確かにただの野良犬ではない。しかし、お前が気に留めるほどの相手ではない。

 あの男の話をすると、誰もが口を揃えて言う。

 本気で言っているのか? だとしたら、連中の目は節穴ばかりだ。

 卑屈な野良犬めいたその瞳は、きっとひりつくような勝負の中でこそ光り輝く。
 感覚と牙を研ぎ済ませながら、虎視眈々と相手の喉元へ食らいつく機会をうかがう野性と知性の獣。

 その目に初めて見られたとき、血が沸いたように体が震えた。
 あの目に自分が映っている。それだけでゾクゾクと脳味噌がしびれた。まったく、笑いだしたくなるほどの高揚感だった。

 その目が自分を追っていることを知りながら、あえて気付かないフリをする。
 どうやらなにかを躊躇っているようだが、あんな目を持つ人間が、勝負への渇望を自制などできるはずがない。
 やがて矢も盾もたまらず自分に仕掛けてくるその時を、想像するだけで体の底から武者震いがわき上がってくる。

 これが博徒の性なのか?
 そんなことはどうだっていい。
 沸点を越えた濁流のようなこの思いに、どんな理由があるのだとしても。

(あんたを本気にさせてやる)






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