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comune schiena
5
あこ視点

「ハァ…」

誰もいない屋上に、無意識に出た自分の溜息は意外と大きく響いた。
柵に肘をついて寄り掛かると布が擦れて腕に痛みが走る。
その修業の名残に眉をひそめた。

「(なぁんで進歩しないかな〜。
もうそろそろコツを掴めてきても良くない?)」

新しい修業内容に入って、頑張るものの思うように事が進まない。

「(飛んできた缶、全部身体で受け止めるとか……有り得ない)」

顔の前で手の平を開いたり閉じたりを繰り返して、また溜息が出た。


「なんだ、悩み事か?あこ」
「っ!?!?」

誰かに肩を叩かれて人が近づいてる事に全く気づいてなかった私は、声にならない声を上げてしまった。
慌てて振り返ると、私の反応に驚いたディーノさんがポカンと口を開けていた。
(自分が肩を叩いたんでしょーが!!)


「い、いきなり何するんですか…」
「溜息ついてたから、気になって…。
なんというか、そこまで驚くとは思わなかったぜ」
「心臓止まるかと思いました」
「はははっ」
 
ディーノさんは困ったように笑うと、私の隣に来て同じように柵に凭れそこから見える町並みを眺めた。

「で?どうしたんだ??」

しばらくして、ディーノさんがさっきの話を蒸し返す。
私としては話せる内容でもないし、あまり振って欲しくないので別の話題を出す。

「…あ、そういえばディーノさん。雲雀さんの様子どうですか?
家庭教師、してるんでしたよね?」
「あ、あぁ…恭弥か。
本っっっ当に問題児で困るぜ。戦闘マニアというか…
この前なんか、ちゃんと闘わないと大事な指輪捨てるって脅してきたしよ」
「あははっ!雲雀さん手加減とか嫌いそうですからね!
でも、困ってる割には楽しそうですね?ディーノさん」

雲雀さんの話をするディーノさんは、言葉の割にそこまで困っているような感じではない。

「何と言うか、な。
あいつの事ほっとけないと言うか…」
「フラグが立っただと!?」
「フラグ?旗??」
「いえ。こっちの話です。
あの…ほっとけないってゆーと、こう、あの鋭い目で見つめられると、ドキッとさせられるみたいな。
ちょっとした仕草に目を奪われるなんて……そんな感じですかね?」
「?いや、そういうのはねーけどよ。
だいたい隙あらば攻撃されるし。ほっとけないっつーのは……って、違う!!!」
「ぅわっ」
「あこ、話し逸らそうとしてたな?」
「何がですか?」
「お前なぁ〜」

ディーノさんは私の顔を両手で包み、無理矢理顔を自分の方へ向けされられた。
私が知らないふりをして聞き返すと、呆れた顔で私を見返したがその顔もすぐに真剣なものへと変わる。

「なーんで、そんな頑なに人に話そうとしねーんだよ。
いっつも一人で抱え込んで…。そんなに俺って頼りねーか?」
「抱え込むって言うほど深刻な事じゃないですし。
第一、ディーノさんは心配し過ぎなんですよ」

お互いの顔が近すぎて、だんだん目のやり場に困ってきた。
落ち着かけなくてディーノさんの手を外そうと顔を左右にふる。

するとディーノさんの顔がさらに近づいてきて、ついにお互いの額が合わされた。

「ッディーノさん!?」
「ハァ。ったく、お前って奴は…」

責めるのではなくどこか諭すような口調で、ディーノさんは私に囁いた。思わず言葉が詰まる。
身体が固まり動けずにいると、ディーノさんの金に近い瞳が私を捉えた。

「心配するに決まってるだろ。お前の事ほっとけねーんだから」
「ッ、ぁ…」


駄目だ。
言葉が返せない。
この人の目から逃げられーーー

「いつまでそうしてるの?」
「「!?!?」」
「…恭弥か」
「もう昼休み終わるんで!!わたッ私、教室に戻りますね!!!」
「あ!あこ!!」

雲雀さんの声で我に返り、ディーノさんの意識がそっちに向いた隙に、私は急いで抜け出して屋上を出ていった。



「逃げられたちゃったね」
「お前いつから…」
「さあね」
「(そーいや、恭弥をほっとけない理由って、恭弥が少しだけあこに似てるって思った時からなんだよなー)」
「――それより、勿論咬み殺される覚悟はできてるんでしょ??」
「…は?
待て待て待て待て!恭弥!!?」
「うるさい」
「んなぁぁぁぁッ!?」



 

「どうしてあんな…っ」

思い出しただけでも、顔に熱が集中するのが分かる。
屋上から飛び出した後、走ったので心臓もバクバクだ。

「(まさかあんな事言われるとは思わなかった…)」


あまりにも真剣だったので、どう対処すればいいのか分からなかった。
誤解されそうな体勢だったが、正直あの時雲雀さんが来てくれてホッとしたのだ。

「(…ディーノさんは雲雀さんの事もほっとけないって言ってたよね。
私の事も同じ理由だ。多分手の掛かる弟や妹みたいな……深く考える必要なんてない)

大体、こんな風に考える事自体が間違ってる」

口に出して言うとさっきまでの熱が嘘みたいに冷めていった。
思考も段々冷静になっていく。

「(うん…。いつもの私だ)」

早足になっていた歩調を緩め、私は自分の教室へと入った。





アズミ視点


ご飯を食べた後、直ぐにいなくなった友人が教室に戻ってきたので、にやける顔を隠さずに俺は駆け寄った。

「あこちゃん!
俺に話す事ない?」
「は?…ないけど」
「さっき屋上いたでしょ!?」
「屋上?…あぁ。あれね」
 
俺の言わんとしてる事が分かったようで、本人は特に気にも止めてなかったみたいに呟いた。

「ディーノさんと何話してたの?」
「屋上って、この教室から見えるんだ…」
「ちらっとね。で?」
「……。当たり障りなさ過ぎて内容覚えてないよ」
「え゙ー。折角2人きりだったんだからもっと」
「アズミ」
「…だってさぁ」

俺の言葉を遮って、何かを咎めるように友人が名前を呼ぶ。

今のあこちゃんは少し変だ。
いつもなら軽く受け流すはずの話を、遮ってまで止めるなんて事はしなかった。
何が原因なのか……。

毎回毎回、こうやって肝心な事は口にしてくれないのは友達としてかなり寂しい。


「ディーノさんがいるって事は、これから雲雀さんと修行かな?」
「そうでしょ。屋上に来てたし」
「雲雀さんいたの??
な〜んだ、2人きりじゃないじゃん!」

期待してたのに…と言えば、鼻で笑われてしまった。

「(ちょっと戻ったかな…)
でもさ、実際のところあこちゃんどうなの?」
「どうなの?って…」
 
「だ〜か〜らぁ!!」

俺が痺れを切らすと、あこちゃんは器用に片方の眉だけ上げた。

「あこちゃんは誰を好きなのかって事!
雲雀さん?ディーノさん?」
「え?まあ、元々好きなキャラだったけど」
「キャラとかじゃなくて、恋愛対象としてだってば!!」


さらに詰め寄れば先程まで煩わしげにしていた友人は、目を瞬かせた後吹き出した。

「ないない。好きだけど、一回もそんな風に考えた事ないし」
「え゙ぇー。そんな気がしてたのに…」

納得いかない答えに俺が文句を言ってると、あこちゃんは苦笑しながら口を開いた。


「これはあくまで私の考えだけど。
『愛』と『恋』って区別しにくいけど、根本的に違うのは
誰かに恋愛感情を抱くって事は、自分の気持ちと同じだけの想いを相手からもほしいって考えるようになる事だと私は思うんだよね。

愛は一方通行でも十分成り立つけど、恋だと見返りを求めちゃうんだよ。
私のは、そういうのに当て嵌まらないし」
「じゃあ『愛』ってこと?」
「……うーん。愛してるというより、『愛でてる』って表現が正しいよ。
因みにセットだとなお良し。ディノヒバ最高」
「この腐女子め…。
でもそっか…。俺には全っ然分かんね〜」

そう呟く俺に、あこちゃんは苦笑したままだ。

「分からなくても良いんじゃない?」
「なんで〜。自分の事なのにわからないのって、モヤモヤするじゃん!」
「そう?でもアズミはまだ知らない方が良いんじゃないかな……」
「ええー、なんで〜??」

一瞬俺を見るあこちゃんの目が哀しく揺れたように見えた。





「アズミ泣いちゃうかも」
泣かないよ

うん。さっきのは気のせいだったに違いない。

だって目の前の人、今すげー笑顔だもん。


「本当に何もないの?」
「勿論。ないよ、全然」

笑顔であこちゃんがさらりと答えた所で、タイミング良く予鈴を知らせるチャイムが鳴った。


「随分と笑顔が不自然なことで。
(しかもあれは自覚なしか…?)」


やはり今日の友人は変だ。
あの様子だと、俺が勘づいてしまったことにも気づいてないだろう。



「なぁ〜んで、言ってくれないんかなー…」


俺の呟きは誰かの耳に届く事はなかった。




end.


☆補足☆
管理人の夢主たちの呼び方の変化について。

「君」「君達」やフルネーム呼びから
「お前」「お前達」やそれぞれの名前で呼ぶようになったのは
修業を通して、ある程度長い時間を共有したことによる親しみによる変化です。

突然変わった事に疑問を持たれた方
説明不足で大変失礼致します。

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