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comune schiena
7 chapter 33



「ーー終わりました」

掛けられた声に走らせていた鉛筆が止まる。

「なら、次はこれ」

そう言って、机の端に積まれた書類の中から何枚かを引き抜くと、再び目の前の人間に差し出す。
しかし相手がなかなかそれらを受け取る気配がなく、書類を出した人物――雲雀が怪訝そうにようやく顔を上げた。

「…………雲雀さん」

そこには眉間に皺を寄せ、雲雀を正面から見下ろすあこがいた。
目は口程にモノを言うという言葉は今の状況には正しく、口に出さずともその瞳には抗議したいという心情がありありと浮かんでいた。

「何?」

勿論雲雀にもそれが伝わったようで、尋ねると溜息が返ってきた。

「確かに言い出しっぺは私ですけど、雲雀さんもう退院しましたよね?というか、もう元気でしょう?

いつまで私はここの手伝いをさせられてるんですかねぇ」
「見て分かるでしょ。退院したから此処にいるんだけど。君が言い出した事なんだから、勿論最後まで責任もってよね。
グチグチ言う前に早くこれ受け取ってくれる」

あこ#は顔を歪めてから不満であるという表情を全面に出しながら無言で書類を手に取った。


「やってもやっても終わらないって……何でなんだ」
「前にも言ったでしょ。まとも出来るやつ、居ると思う?」
「普通に居ると思ってますけど。というより、草壁さん達がいるじゃないですか。
この前一緒にさせられた時、手慣れてる感じがしましたよ?
しかも作業の速さは私の倍くらいありますし。かなり有能じゃないですか」
「……。あれには別の仕事させてるから」
「(本人から、ここ最近は時々見回りするくらいだって聞いてるんだけど…)」


雲雀の言葉に心の中だけで突っ込み、渋々新しく渡された書類に目を通した。
しかしそこへ来訪者を告げるように、入口のドアが叩かれた。

「?」
「…入りなよ」
「よ! 実は雲雀に頼みたい事が……って、如月もいたのか」
「山本君?」
「何してんだ?」
「あー…お手伝い、かな」
「風紀委員じゃねーのにか?」

入って来たのは野球のユニフォーム姿の山本だった。

「山本武…。用件は何?
くだらない事だったら、咬み殺すよ」
「おっと…そうそう。実はな――」

自分のテリトリーに入ってきた事が原因なのか、雲雀の機嫌が少々悪くなっていた。

後で理不尽に八つ当たりされるのは勘弁してほしいと、あこは上げていた視線を書類に戻した。(その機嫌の悪さも山本は全く気にしておらず、軽く流されているが)


「今から野球の練習に付き合ってくれねーか?」

笑顔で言った山本に、雲雀が完璧に不機嫌になってしまった。

「それが僕に何の利益があるって言うの?」
「あははっ、そう言うなよ!
今度の大会で優勝して、並盛中の名前を全国に轟かせてやるからさ!」
「…………ふーん」

山本の宣言に雲雀の雰囲気が少し変わった。

『並盛の名前を全国に』

並盛に執着し愛校心の強い雲雀になら、興味を示させるのに十分すぎる話だろう。 

「いいよ、貸し一つだ。
そのかわり、言ったからには実行してもらうから。
あこは、今してるそれが終わったら帰って良いよ。戸締りはちゃんとしておいてね」
「わかりました。(よっしゃ!!)」

椅子に掛けていた学ランを羽織り、雲雀はあこに指示を出すと山本のいる入口の方へと歩いていった。



「お礼は寿司でいいか?」
「……勿論特上でしょ」
「おいおい」

2人が出ていくのを確認してから、書類に再び視線を戻した。
しばらくして、あこの口から溜息が漏れる。

なるほど山ヒバか
嫌いじゃないけど、もうちょっと甘さがなぁ…
でも、さっきの雲雀さんはチョロインぽかった。俄然goodだ」

等と一人呟くあこだが、
件の本人達にとっては勘弁してほしい内容だろう。


「ーー如月さんだけですか?」
「あ。草壁さん帰ってこられたんですね」

見回りから帰ってきた草壁に声を掛けられた事で、あこの思考はそこで一時中断されたのだった。
あこがしていた書類は草壁が引き継ぐと申し出てくれたお陰で、予定よりも早く帰れる事になったのだった。






場所はかわり、賑わいをみせる夕方の商店街。
行き交う大半の人々が今日の夕飯の調達に来ているのだろう。
アズミもその中の一人で、両手に買物袋を引っ提げてスーパーから出てきたところだった。

「んん?」

見慣れた後ろ姿と、その手に繋いだ見知らぬ小さな背中に首を傾げた。
どこか焦っているようであまり良い雰囲気ではなさそうだった。
アズミは迷わずその2人に近づいていった。




「よーツナ」
「藤岡!……買い物帰り?」
「うん。その子は?」
「お母さんとはぐれちゃったんだって」


綱吉が手を繋いでいるその人物を観察する。
短めのさっぱりとした髪型の少年は、先程まで泣いていたのだろう
目元は赤く時折鼻を啜って、不安げに綱吉の手をにぎりしめている。
不意に顔を見上げた少年が目を見開いたが、一瞬の変化だったので、2人が気づくことはなかった。


「君、なんて名前?」
「!?」

突然話しを振られた事に少年は戸惑いをみせる。
名前を言うのを躊躇しているのか、少年は黙りこんでしまった。

「…ま、いっか。ほらほら、コレあげるから泣き止みな!
俺も一緒に捜すし」
「えっ!?でも藤岡、買い物大丈夫なの?」
「別に良いって、ちょうど終わったから」

アズミの言葉に、綱吉が驚く。
少年はアズミに渡されたものをじっと見ている。

「ん?チョコレート嫌いだった??」

それに気づいたアズミが問えば、少年は首を振って微かに笑った。

「(……)」

少年の笑顔にアズミは、頭をわしゃわしゃと撫でて笑い返した。




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