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「華を織る」
03



「「、」」
 先に仕掛けたのは宮古だった。
 その手から放たれた矢は、寸分違わず白夜の眉間へと吸い込まれる様に飛んで行く――が、目的地へ突き刺さる直前、白夜の剣によって素早く叩き落とされた。
 間髪入れず二射、三射、四射と次々に撃ち込まれる矢。身体に掠らせる事無く全てを弾き返した白夜は、間合いを詰めるべく一気に踏み込んだ。
 胴を薙ぐ様に一閃した剣は、防御の構えを取った弓によって一旦は行く手を阻まれるも、勢いは止まらず弓ごと宮古を薙ぎ倒す。
 力負けする事は想定内だった宮古は受け身を取りながら地面で一転すると、素早く立ち上がりざま逆手に掴んだ矢を白夜の腕へ突き立てた。
 咄嗟に躱した白夜の手の甲に、うっすらと赤い一筋が浮き上がる。


「‥‥」
 飛びずさる様に再び間合いを取り、残りの矢数で取るべき戦法を目まぐるしく考えながらも、宮古もまた頭の隅でどうしようもない感情を持て余していた。
 大神殿の中庭では、あんなにも静かで穏やかな時を共有したと言うのに。
 ほんの僅かではあるけれど、その心の内を覗けた様な気がしていたのに。
 今はただ相手を戦闘不能にする――場合によっては死に至らしめる――為だけに、こんなにも至近距離で向き合っているとは。


 ――息苦しい。
 数多の戦場を経験してきたとは言え、常に嬉々として戦って来た訳では無い。胸に痛みを感じながらも、非情に徹して矢を放った事は幾度もあった。
 しかし、こんなにも遣り切れない気分を抱くのは初めてだと、宮古は奥歯を噛み締める。
 捕らわれの織師の少年は助けなければならない。意思を無視され、卑怯な手段で連れ去らわれたとなると尚更だ。
 華剣の力になりたいと言う想いもある。普段は文句ばかり言ってはいるが、誇るべき敬愛する上司だ。


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あきゅろす。
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