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「華を織る」
06



 微笑みながら開きっ放しの出窓を指差す虹を、呆気に取られた様に見詰めていた部下達だったが、やがて慌ただしく室内へと掛け込んできた。
「こ、此処からですか??」
「飛び降りた?」
「おい、誰か下へ回れ!」
「あの、将軍、お怪我は?」
「――ああ、私は大丈夫。それより追い掛けてくれ」
「はい!」
「失礼しますっ」


 入って来た時と同様に騒がしく去って行く部下達を見送りながら、まあでも捕まらないだろうねと虹は内心呟く。
――誤算だった、まさか舞剣殿まで出てくるとは。
 副官が付いて来る事は予定内だったが、四剣のうち二剣が越境して来るとはよもやの計算違いだった。認識が甘かったとしか言い様が無い。尤も、それだけ華剣殿の執着が強いと言う事なんだろうが‥‥
――ならば、まだ機会はある。
 その執着が「安全性」と言う観点からすると最善の場所を――大神殿の保護を――拒否する可能性がある。いや、拒否する筈だ、あの華剣殿の性格ならば。


――それにしても、まさかの舞剣とはね。
 懐に飛び込んできた空の杯を眺めながら、虹は愉しげに笑う。南方大陸の密輸船と海戦になった際、大怪我を負って上陸養生しているとは聞いていたが、もう完治しているとは。
――と言う事は、雪名残を使ったのか?
 あの幻の薬草を使えば奇跡的な回復も不可能では無い。そして扱いの大変難しい雪名残を加工する技術を持った人間が、舞剣の身近には居る。


「‥‥良いね、彼にも興味が湧いたよ」
 相変わらず穏やかな微笑みを浮かべたまま、虹は開いたままの出窓から外へと視線を向けた。その東方、遥か先にあるだろう都城を見詰めるかの様に。



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