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「華を織る」
04



「あの小鳥は当館で大事に預かっております。衣食住は言うに及ばす、望みは出来うる限り叶えるつもりです。正直、今までよりも何倍も良い生活を送っている筈。当館から出す必要は無いかと思うのですが?」
「‥‥だから嫌なんだよ、金持ちとか権力者は」
 不意にがらりと口調を変えた蒼川は、低姿勢の態度もかなぐり捨てると、改めて虹の顔を睨み付けた。


「どんなに美味い物を食わしても、贅沢な服を着せても、豪華な部屋に住まわせても、違うんだ。そうじゃないんだよ。そいつの意思と反していたら、意味が無いんだよ」
「そうでしょうか。彼は本来、西風で生まれ育つ筈だった。彼の両親が東雲に行きさえしなければ、視力を失う事も無かったでしょう?」
「随分な結果論だな、それは。それで?事件の後、彼は西風に行くと言ったか?いいや、彼は東雲で生きていく事を選んだのさ、彼自身の意志で」
「先祖代々が暮らした西風に住まい、その力を認められ、存分に発揮する‥‥今の状態は、彼の本来あるべき姿なんです」


「――どうやら平行線の様だな」
 双方自論を譲る気配の無い事を悟った蒼川は、終いだとばかりにひらひらと手を振った。このまま不毛な議論を繰り返したところで、分かり合える予感は全く無い。
「ああ、冷めてしまいましたね、淹れ直しましょう」
 虹の方にも異論は無いらしい。微妙な緊張感を孕んでしまった空気を一旦仕切り直すべく、未だに手のつけられていなかった蒼川の杯を引き上げようとした。



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