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「華を織る」
03



『お前が織る布には、力があるみたいなんだ』
『あの織子と同じ様な力が、ね』


 困惑を滲ませる父の声。
 気遣わしげな母の瞳。



 先程思い出したばかりの幼い頃の情景を反芻しながら、亜紀は黙したまま考え込む。
 「その様な力など無い、全く身に覚えが無い」とすぐさま反論しようと思ったが、両親の言葉もまた心に強く引っ掛かっていた。
 織子の再来?
 力が籠められている?
 何を言っているんだこの人は、と亜紀は思う。至って普通に育ってきた自分にそんな力が無いことぐらい、自分が一番良く分かっている。今まで沢山の布を織ってきたけれど、誰一人としてそんな事を言ってきた人は居なかった。


 この人はきっと勘違いをしているに違いない。
 そうだ、そうに違いない。
「‥‥」
――じゃあなんで、父さんと母さんはあんな事を‥‥


「どうだろう亜紀、このまま西風で暮らさないかい?」
「、え?」
 自分の考えに気を取られている間に、一瞬だが亜紀の警戒の気配が薄まった。その隙を逃すような虹ではない、さり気無く本題を囁く。
 案の定、唐突な提案に面喰った風の亜紀は、その真意を汲み取れずに戸惑った声を上げた。
「ああ勿論、住居も身分も提供させて貰うよ。一生困らないだけの財も。それに身の回りの世話をする者も必要だね」
「いえ、私は、」



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あきゅろす。
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