「華を織る」
05
雅人が、亜紀を後ろへ押し遣ると庇う様に立ち塞がる。
和人が、一歩前へ出るとしげしげと客人を見詰める。
「――お客様、前回の時も気になっておりましたが、やはり今日もですのう」
「今日も、とは?」
「貴方様の目は北雪の万年氷の様じゃ。温もりが一切感じられませぬ」
「‥‥あくまで邪魔をされると言う訳ですか、ご老人方」
「邪魔?いいや、」
脅迫する様に低く下げられた客人の声に臆する事無く、にこりと老織師は笑った。
「亜紀の邪魔をしているのは、貴方様の方ですじゃ、お客様」
「なあに、我々は早く亜紀に行って貰いたいだけなのじゃよ」
「爺様!!」
老織師達の落ち着き払いながらも断固と揺るがない気配に、思わず亜紀の声が上がる。
「なあに亜紀。わしらは今からこのお客様に、絹糸の素晴らしさをお教えするだけじゃ」
「そうそう。だから亜紀は、この爺達の後ろに隠れているんじゃよ。良いな?」
何年も共に暮らし、笑い、そしてここまで育て上げた、愛しい大切な少年を護る為。
懐から取り出した糸玉だけを片手に、老織師達は冷たい刃を構える客人へと立ち向かう。
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